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プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

適切だったJR西日本の「早期運休判断」

2014年10月16日(木)12時50分
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 ところで「予告の上、風雨が強まる前に全面運休する」というのは、アメリカの公共交通機関では定着している対応です。例えばニューヨーク市の地下鉄の場合は、2011年のハリケーン「アイリーン」の際は、事前に全面運休や強制避難を行ったにも関わらず被害が軽微であったために、当時のブルームバーグ市長は批判を受けました。ですが、12年の「サンディ」の際には批判覚悟で同様に「事前運休」を徹底した結果、地下鉄への浸水という大被害にも関わらず公的交通機関における死傷者はゼロに抑えられ、車内閉じ込めなどの事例も回避されています。

 ちなみに、飛行機は頑張っているのに、鉄道が運休するのはおかしいという議論もあるようですが、航空機の場合は巡航高度においては「台風のような地表に近い天候の異常」の影響は軽微です(積乱雲発生の場合は除く)。また、離陸時にはエンジンの出力で強い揚力を発生させていますから、多少の強風でも上がることはできます。

 問題は着陸時で、着陸の際に強風がありますとランディングは大変に困難になります。横風に煽られては大変に危険ですし、機材の大小、種類によって着陸可能な風速・風向というのは厳格に決められています。

 いずれにしても、航空機の場合の欠航は企業の判断というよりも、機種ごとのレギューレーションと気象条件、管制の判断などで自動的に、そして個別に決定されるのです。反対に鉄道の場合は、線路という閉じていながら複雑に繋がったシステムですから、総合的に広域圏での判断も必要になるのです。

 ところで、今回のように毎度毎度「早めの運休」を行うようでは、マイナスの経済効果が無視できないという議論もあるようです。もちろん日本に多くの「中付加価値の製造業」が残っているのであれば、気象条件のために交通機関がマヒして、操業時間が短縮になれば、それはそのまま経済へのマイナス効果となるでしょう。ですが、現在の日本経済はそうした段階は過ぎています。

 生産拠点の多くは海外に移転されており、国内では開発と管理・調整の機能など抽象的な頭脳労働が主となっているわけです。そうした社会であれば、数日前から予測の可能な台風という種類の天災への備えは可能なはずです。むしろ、他の天災や人災的な問題と比較して、台風というのは計算しやすいものではないかと思います。もっと言えば、予定外の事象が発生した際の応用力、柔軟で現実的な対応力というのは、ポスト産業化の時代には重要なビジネススキルであると思います。

 強風と豪雨による被災を回避するという行動は、具体的に人命が危険に晒されるリスクの回避であり、心理的な「安心確保」で済むレベルの問題ではありません。今回の判断は鉄道事業者として正当であり、むしろ、今後はこのような対応が標準となるべきでしょう。

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冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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