(2014年10月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
円安が日本にとって良いことは、世間にあまねく認められている真実だ。経済の再浮揚を図る安倍晋三首相の計画にとって弱い通貨が極めて重要な施策であることは、少なくとも東京では概して認められていない真実だ(ただし、東京でもその事実は内々には理解されている)。
2年近く前に安倍氏が大規模な金融緩和政策を推進することが明白になって以降、円は対ドルで約26%下落した。円安は輸入価格を押し上げることで、消費者物価を日銀のインフレ目標である2%に向けて上昇させることに一役買った。
1つだけ障害がある。円安は結局、日本にとって全面的に良いことではなくなったかもしれないのだ。
円安を手放しで喜べなくなった理由
これにはいくつか理由がある。1つは、2011年の福島原発事故後に無傷で存続する48基の原子炉すべてが操業停止となった結果、日本のエネルギー費用が急増したことだ。
これは、従来よりはるかに多くの石油と液化天然ガス(LNG)を輸入することを意味した。エネルギー輸入は多くの場合、価格の高い長期契約を通じた購入で、日本の貿易収支に打撃を与えることになった。
円安は事態を悪化させる一方だ。その結果、一貫して健全な貿易黒字の上に築かれてきた日本経済は、ほぼ慢性的な貿易赤字に転落した。日本はまだ外国から多額の投資収益を得ているが、最近は拡大する貿易赤字を埋めるには十分ではなくなった。日本は8月、上半期(1~6月期)の経常収支がほぼ30年ぶりに赤字になったと発表した。
円安が天恵ではないかもしれないもう1つの理由は、一般的な認識に反し、日本がもはや輸出主導型の経済ではなくなったことだ。輸出が経済生産に占める割合は約15%。これに対してドイツでは51%、韓国では54%に上る。
大手自動車メーカーや電機メーカーを含む日本の製造業者の多くは、需要のある場所に近づくために生産を海外へ移した。さらに重要なのは、多くの先進国と同じように、日本のサービス経済が優位に立っていることだ。つまり、日本人の大部分は、円安の恩恵と同じくらい円高の恩恵を受ける可能性がある企業に雇われているわけだ。