交通遺児、ダンプにはねられ死亡 修学旅行前日、母親に続く悲劇
母親を交通事故で亡くし、交通遺児として作文コンテストで全国入賞した女子高生が、ダンプカーにはねられて死亡する事故があった。亡くなったのは福島県南相馬市原町区の高校2年生・江島由夏さん(17)。14日午後4時ごろ、同区の市道の横断歩道を歩行中にまきこまれた。福島県警南相馬署は、ダンプカーを運転していた相馬市の土木作業員・青山国男容疑者(74)を現行犯逮捕。自動車運転処罰法違反(過失致死)の疑いで、詳しい状況を調べている。
南相馬署によると、現場は住宅街で、信号のある十字路の交差点。江島さんは15日から出発するはずだった修学旅行の準備を終え、下校途中だった。青山容疑者は右折する際に江島さんをはねたとみられる。同署では歩行者信号は青だったとみて、調べを進めている。
搬送された病院には父親や学校関係者が駆け付けた。顔はきれいなままだったが、すでに呼び掛けには応じなかったという。
関係者によると、江島さんは幼少の頃に母親を交通事故で亡くした。原町一小の5年生の時に、独立行政法人「自動車事故対策機構」が主催する交通遺児友の会の作文コンテストに応募。「笑顔の未来」という題で銅賞に入賞している。同機構によれば、作文では母親の事故のことには触れられていないが、悲しみを乗り越えて、漫画を描いたり、お菓子を作ったりする将来の自分像をつづっていたという。
その江島さんが、交通事故に見舞われるとは、誰も想像していなかった。当時の江島さんを知る小学校の教諭は「合唱クラブに入っていて歌が大好きな子だった。お母さんがいなくて寂しい思いもしたと思うが、何事にも一生懸命な子でした。まさかこんなことになるとは」と絶句した。
東日本大震災が起きたのは江島さんが中学2年生の時だった。しばらくは市外での避難生活を強いられたが、高校は地元の県立原町高校に入学。南相馬市の合唱団「MJCアンサンブル」に入り、大好きな合唱に熱中した。
担当は低音のアルト。今年4月には、台湾で行われた大震災時の支援に感謝するチャリティー演奏会にも参加した。代表者の金子洋一さん(60)は「真面目すぎるぐらいの子でした。12月の山形での定期演奏会へ向けてこれから練習しようと話しているところでした」と声を詰まらせた。
江島さんの同級生たちは15日、関西への修学旅行へ出発した。大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)や奈良、京都の古寺を見学する行程だ。松岡浩三校長は涙声で出発前に生徒たちに事故のことを伝えた。「江島さんが楽しみにしていた修学旅行。体験して来たことを遺影に報告してあげてほしい」。同級生たちはすすり泣きながら静かに聞いていたという。