October 16, 2014
エボラ出血熱のワクチンは、サルには目覚しい効果を示していることが実験で明らかになっている。マカク属のサルが、ワクチン接種後に致死量の100倍のエボラウイルスを注射されても助かったという報告もある。ところが、このワクチンが人間にも同じように有効であるかどうかは誰にも分からない。まだ本格的な臨床実験が行われていないためだ。
サルへの試験投与に至るまでも、ワクチン開発には数十年という長く厳しい期間を要した。1990年代以降多くのサルの命を犠牲にして研究が進められてきたが、アメリカの研究者たちはほぼあきらめかけていた。
ところが今、エボラ・ウイルスは西アフリカで爆発的に流行し、さらに大陸を越えてはるか遠いヨーロッパやアメリカにまで飛び火している。西アフリカでは、ここ3週間だけでも少なくとも2400人が感染し、昨年末に流行が始まって以来4000人以上がウイルスによって死亡したと見られている。
今年10月に入ってから、リベリア人患者の看護に当たっていたダラス病院の看護師に・・・
サルへの試験投与に至るまでも、ワクチン開発には数十年という長く厳しい期間を要した。1990年代以降多くのサルの命を犠牲にして研究が進められてきたが、アメリカの研究者たちはほぼあきらめかけていた。
ところが今、エボラ・ウイルスは西アフリカで爆発的に流行し、さらに大陸を越えてはるか遠いヨーロッパやアメリカにまで飛び火している。西アフリカでは、ここ3週間だけでも少なくとも2400人が感染し、昨年末に流行が始まって以来4000人以上がウイルスによって死亡したと見られている。
今年10月に入ってから、リベリア人患者の看護に当たっていたダラス病院の看護師にウイルスが感染し、アメリカ国内で初の感染者となったニュースは、多くのアメリカ人に衝撃を与えた。
いまや、死亡率70%という殺人ウイルスへ対抗するため、ワクチンあるいはより効果的な治療薬の開発は一刻を争う事態となっている。
医療従事者、政治家、そして軍が急増する感染者の対応に追われる中、今後数ヶ月間で一握りのワクチンと治療薬が初の臨床実験へ入ろうとしている。
◆全ての臓器を一度に
顕微鏡で見るエボラウイルスは、ミミズのような形をしていて、とにかく大きい。全長はインフルエンザウイルスのおよそ10倍、天然痘ウイルスと比較しても2倍の長さだ。
このウイルスが様々な臓器に入り込むと急速に増殖を始め、心臓、肺、肝臓、消化器官、筋肉、脳を冒していく。インフルエンザなど他のウイルスなら、肺など1カ所でブロックすることができるが、エボラウイルスの場合、拡大を防ぐには全ての臓器で同時に抑え込まなければならない。
現在、2種類のエボラワクチンが開発中で、間もなくその有効性が明らかとなる。
9月に、大手製薬会社グラクソ・スミスクラインの所有するワクチンの臨床試験が開始され、10人の健康なアメリカ人ボランティアにワクチンが接種された。アメリカ国立アレルギー・感染症研究所長のアンソニー・S・ファーシ(Anthony S. Fauci)氏がワシントンポスト紙へ語ったところによれば、今のところ異変は確認されていないという。
次に、イギリスでも健康な人々にワクチンが接種された。そして10月初め、西アフリカでまだエボラ患者が確認されていないマリで接種が開始された。もし全て順調に行けば、来年1月にも、新たに子どもを含めた最高3000人にワクチンが接種される予定だ。
もう一つのワクチンも、臨床試験が9月上旬に許可され、アイオワ州のニューリンク・ジェネティクス社が同様の段階的試験を複数の大陸で開始した。
◆治療薬をめぐる論争
既にウイルスに感染してしまった患者への治療薬も、これまでに数千という試験薬が研究されてきたが、今のところサルに投与して効果を上げたのは、ZMappとTKM-Ebolaの2種類のみ。どちらも、連邦政府による通常の承認プロセスを踏むことなく、数人の患者に投与された。
しかし、これらの治療薬をめぐっては、臨床試験をどのように行うべきかで議論が起きている。大流行の渦中にあるからという理由だけで試験の基準を引き下げるべきではないという主張はあるが、熱帯医学の専門家でイギリスのオックスフォード大学客員教授ピエロ・オリアロ(Piero Olliaro)氏は、今回の場合、通常の臨床試験のように一部の被験者にプラシーボ(偽薬)を与えている余裕はないと主張する。死亡率が50~70%というエボラ感染者にそんなことをしては、死亡宣告を下しているようなものだ。
◆様々な障害
臨床試験をめぐる倫理的論争もそうだが、何よりも研究の妨げとなってきたのは、ウイルスそのものが持つ高い危険性である。
エボラウイルスの研究には、マラリアなど他の病気の研究と比べて2倍の時間がかかるという。
病原体は致死性が高く、その研究に当たる研究者は特別な許可を受け、医療従事者と同様の厳重な予防措置を取らなければならない。防護服の着脱と消毒に細心の注意を払い、息詰まるようなマスクと手袋を着けての細かい作業は困難を極め、時間もかかる。
そして、政治的な問題がある。
2001年9月11日のテロ事件が発生してからようやく、アメリカはエボラ研究へ多くの予算を割り当てるようになった。国際テロリズムの兵器としてエボラウイルスが利用されるのではないかと恐れたためだ。この手の研究は、税金を使って行うしかない。なぜなら、今年に入るまではわずか数百人ばかりだった患者を対象とした市場へのワクチンや治療薬の開発に、時間や予算を投資しようとする民間企業などないからだ。
公衆衛生当局者の中にも、他に死者をもっと多く出している病気があるというのに、エボラばかりに時間と金を費やすことは道徳に反するのではないかとの主張がある。
Photograph by Steve Parsons / AP