安倍政権が重要政策に掲げる「地方創生」を巡り、国会で本格的な論戦が始まった。

 「ばらまきはしない」。こう強調する首相は、各地の地域活性化への実例を引きながら「やればできる」「一緒に挑戦しよう」と自治体に呼びかける。

 では、具体的にどんな政策を打ち出すのか。早速取りざたされているのは、1兆円を超える自治体向けの交付金や「ふるさと納税」の拡充などだ。

 交付金は、国に納められた税金の一部を自治体に移す仕組みだ。ふるさと納税は、好きな自治体に寄付し、地元自治体などへの税金を軽くしてもらう。最近は過熱気味で、自治体間の税の奪い合いの様相だ。

 ともに、国・自治体という「官」の内部での資金の配分を変える制度である。地方が自由に使える財源を増やし、自治体が創意工夫を競う仕組みへと見直していくことは大切だろう。ただ、国も地方も多額の借金を抱え、そもそも税収が足りない現状を忘れてはなるまい。

■行政だけでは限界

 福祉や教育、環境保護など暮らしに身近な分野でも、行政の手が回らずに放置されている課題は少なくない。地域の活性化策も「官」任せでは知恵や財源に限界があり、縦割りの弊害もなくならない。

 NPO(非営利組織)や中小企業、大学などの地域での社会的活動を支えるために、民間の資金を呼び込めないか。その資金のもとに官と民、産や学が集い、知恵を出し合って「自治力」を高めていけないか。

 こんな問題意識から注目されているのが「社会的投資」である。

 個人や企業が「社会のために」と出すおカネには、まず寄付がある。直接の見返りを求めない、渡し切りだ。

 一方で、通常の株式や債券への投資でも、もうけるだけではない何か、を求める動きが広がる。社会貢献度が高そうな企業の株式が注目され、投資信託でも収益の一部を寄付に回す商品が関心を集める。

 「社会的投資」は、この両者の中間と言えようか。

 自分の生活のことを考えると、多額の寄付までには踏み切れない。ただ、もうけはそこそこ、トントンでもいいから、投じたおカネをすべて社会課題の解決に充ててほしい。そんな「志ある投資」を指す。

 公益財団法人「京都地域創造基金」は、地元の住民や企業がおカネを出し合って作られた。理事長を務める深尾昌峰さん(40)の思いはこうだ。

■おカネの地産地消を

 補助金を国から取る。工場を誘致して雇用を生む――。深刻な財政難や国際競争の激しさを考えると、そうした「よそから引っ張ってくる」発想自体が、もはや限界ではないか。

 人口減や過疎化で「消滅自治体」すら話題になる厳しい状況の中で、地域社会を支えていくには、おカネの「地産地消」の流れを作ることがカギになる。

 発想の起点は、自治体によるメガソーラー(大規模太陽光発電所)の誘致合戦だった。おひざ元の京都市も、東京の大手IT企業グループがからむ事業を呼び込んだが、これでは収益の多くが東京に流れ出し、地元での資金循環の効果が薄れる。

 以前から地域興しで縁があった和歌山県印南(いなみ)町と組んで太陽光発電に乗り出した。1年前に立ち上げた「1号機」は、教鞭(きょうべん)を執る大学からの拠出と金融機関からの借り入れで資金をまかなった。初年度の利益は、約1千万円の見込み。この一部で基金を作り、地元のNPOなどへの助成に回す。地域を元気にし、新たな資金を生む好循環を目指した一歩だ。

 今月に同県串本町で稼働した「2号機」は、借り入れに加え、個人からの投資受け入れを実現した。より理想に近い「市民発電」だ。

■後押しが政府の役割

 「都市部だけでなく、地方にも資金は眠っている。社会的投資への関心も、確実に広がっている。新たな動きを後押しすることこそが政治の役割ではないか」。深尾さんは言う。

 実際、資金はある。株式投資を促す少額投資非課税制度(NISA)の口座開設が相次いだり、税制上の優遇措置をつけたことで祖父母から孫への贈与が急増したりしているのは、その表れだろう。こうしたお金を、個人や家系を超えて社会の中へ導き出せるかどうか。

 昨年、英国で開かれた主要国首脳会議(G8サミット)では、キャメロン英首相が社会的投資に関する検討チーム立ち上げを提唱し、9月には課題を整理した報告書が公表された。社会的投資は、財政難や高齢化、低成長に直面する先進国に共通する関心となりつつある。

 日本政府も、従来の発想や制度を超えて、民間発の新たな動きに応じていく時ではないか。

 「地方創生」は、国のあり方をも問い直している。