subculic このページをアンテナに追加 RSSフィード

2014-10-13

映画館で出逢うアニメの傑作・東映長編特集『ガリバー』『ホルス』『長猫』『ど宝』 トークショーメモ

10月11日に開催された新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol. 60 映画館で出逢うアニメの傑作・東映長編特集『ガリバー』『ホルス』『長猫』『ど宝』に参加。

データ原口こと原口正宏さんと小黒祐一郎さんが登壇したトークショーは貴重な解説の場となった。最初に15分程度の解説があり、『ガリバーの宇宙旅行』上映後にふたたびお二人が登場。新文芸坐のオールナイトには何度も参加しているけれど、この形式は初めて。まさに「データ原口仕様」だった。メモを元に箇条書きで抜粋。

  • どこまでが東映長編か。最終的には『金の鳥』(制作協力・マッドハウス、監督/平田敏夫、1987年公開)だが、大塚康生さんは『わんぱく王子の大蛇退治』(1963)だと言っていた。(早すぎますね、と冗談めかして)
  • 『わんわん忠臣蔵』は1963年12月に公開されたが、『ガリバーの宇宙旅行』は1965年まで制作が延びた。結果的に1964年は長編公開がなく、ガリバー班は『狼少年ケン』に。長編2本体制の最後。
  • 今ほど監督が強くなかった(黒田昌郎さんは当時新人、アニメーターは年上ばかりという事情もあった)。アニメーターシークエンスを任されており、エフェクトなども責任を持ったおかげで進化した。当時しかないものもある。
  • ミュージカルシーンが多いが、当時は当たり前だった。串だんご方式でイベントをみせるロードムービー的な手法
  • (宇宙やロケットに関して)1950年代の宇宙開発競争の影響を受けている。ロケットの発射シーンで映るノズルからのエフェクトは、メラメラではなくチリチリとしたリミテッド的な作画。
  • 児玉喬夫さんが担当した「地球の歌」が見所。アニメーターと美術を兼任している。当時の痛烈なメッセージ。
  • 後半のロボット達の歌は永沢詢さん。森康二さんは夢の星のシークエンス(ここに出てくるキューピッドが可愛い、萌えの原点に森康二さんが! という話も)。
  • 月岡貞夫さんはロボットをやっつけているパート。崩れ方が凄い(今で言う中村豊さんのような四角い破片エフェクト)。
  • 漫画映画らしくない主人公は、今の時代の方が親近感を持てるのではないか。(冒頭とラストに注目、と話されていたことを踏まえ)ラストは勇気がいるやり方。あれを観て帰った子ども達はどんな気持ちだったのか。
  • 監督はこれみよがしのハッピーエンドはやりたくない、と。あるかもしれない未来の地球の隠喩
  • テッド少年の内面。絶望感にさいなまれる中、わずかに差す希望を描いている。

ここからデータ原口さんが語りたかったという「まだ動画だった宮崎駿がラストシーンを変更した」検証トークに。大塚康生さんの「作画汗まみれ」を参照しながらの話。

  • 当初は眠っている姫を助けるところから、スーッとそのままラストに繋がっていく予定だった。
  • 黒田監督は提案された覚えがない(宮崎さんと永沢さんが監督と話し合って変更したことに対して。「作画汗まみれ」 p.117)。
  • 永沢さんが担当だったのは間違いない。永沢班の中でやっていたことは監督も覚えている。変更に際し、博士の台詞も足された。もし宮崎さんが一人で掛け合ってきても認めなかっただろう、と。

作画汗まみれ (文春ジブリ文庫)作画汗まみれ (文春ジブリ文庫)
大塚 康生

by G-Tools

ガリバーの宇宙旅行』を一通り語った後は、東映動画の若手演出家(当時)、『ホルス』の話題へ。

  • 「やぶにらみコンプレックス
  • 東映の3人の若手監督。高畑勲、池田宏、黒田昌郎の3人は昭和34年入社の同期。
  • 最初は7人採用したが、藪下さんらがいる中では採りすぎだと東映上層部からの声があり、試験期間を設けていた。原徹さんもそのうちの一人。
  • 池田宏さんはイタリア映画『ミラノの奇蹟』に影響を受け、イタリアの現代詩、ファンタジーに傾倒。ファンタジーを通した現実をみせる。
  • 黒田昌郎さんは自らを戦中派だという。ミュージカルのそこかしこにネガティブなテーマを潜ませる。フランス文学好き。芝居をやっていた経験から、アニメーターに任せる方式をとっていた。
  • 3人とも(タイプは違うが)社会派。
  • どうぶつ宝島』は当初社会派的な要素があったが、森康二さんに嫌だなあと否定された。
  • 『ホルス』は組合の結束がプラスに働いた。
  • 白蛇伝』(1958)から10年後の作品。本来観て欲しい若者層に宣伝が届いていなかった。しかしさらに10年後の77年〜78年、若者にとって『ホルス』は名作になっていた。
  • 絶えず揺れ動く、もう一人の主人公・ヒルダ。
  • 池田宏さんが監督をした『空飛ぶゆうれい船』も触発されている。
  • ホルスが崖でグルンワルドに斧を投げるシーンは、撮影の吉村次郎さんがマルチプレーン台にセルで綱を作った。だから本当に立体的!
  • ホルスが目を覚ます場面、火の照り返しがある。川の映り込みも吉村さん。各セクションの人間が光など微妙なところをリアルに表現している。
  • どうぶつ宝島』は高密度アニメーター宮崎駿の仕事を観て欲しい。

最後は時間がなく、駆け足でトークショーの締め括りとなった。止めなければ、あのまま一晩中でも話し続けていただろうデータ原口さんの解説はメモを取るだけで精一杯。フォロー出来ていない部分はご容赦を。

ところで、件の『ガリバー』変更事件、「作画汗まみれ」のほかにも資料として「ロマンアルバム 映画『風の谷のナウシカ』ガイドブック」収録の高畑勲による文章がある(「アニメージュ」昭和56年8月号の再録)。

さて、新人のころの宮さんの仕事ぶりはぼくは話に聞くだけで何も知りませんが、ひとつ注目すべきことがありました。それは、宮さんが「ガリバー」に土壇場で重要なワンシーンを追加したことです。

主人公テッドがナントカ星のお姫さまを救出したとき、その人形ふうな体がパカッとふたつに割れて、なかから可憐な本当のお姫さまがあらわれる、というシーン。これを強引(?)に演出の黒田さんに認めてもらって自ら作画したのです。

「あふれんばかりのエネルギーと才気 演出家/高畑勲」 “女性像”のはしり より

曖昧なことを嫌う高畑さんが珍しく(?)と付けているのが引っ掛かる。大塚さん同様、東映社内の伝聞として誰かが話していたのかもしれない。さらなる取材・研究を待ちたいが……真相はいかに。しかしパカっと割れた『ガリバー』のお姫さまは後年の宮崎ヒロインらしい顔立ちだし、シチュエーションもそう。永沢班の中でいったいどんなやり取りがされていたのだろう。想像するしかないけれど、「新人・宮崎駿」の抑えられないエネルギーの発露に、社内で尾ひれが付いてしまったような気がする。もはや「伝説」の究明の域にあるエピソードだ。

今回は『ガリバー』を中心に東映長編特集と銘打ってあったものの、実質的な森康二ナイト。絵柄の変遷を見て取れたのも収穫。『どうぶつ宝島』のキャシーは森康二さんから宮崎駿へと受け継がれるヒロイン像の境界線に位置するキャラクターに見えたし、『長靴をはいた猫』の姫も『カリオストロ』のクラリスに繋がる系譜。日本のアニメ史に燦然と輝く森康二さんの偉大な功績に加えられるだろう、森康二流「萌え」感覚。今後の研究課題にしていきたい。やはり森さんのヒルダこそ至高……!


B000075AYBガリバーの宇宙旅行 [DVD]
東映ビデオ 2003-01-21

by G-Tools

投稿したコメントは管理者が承認するまで公開されません。

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト


画像認証

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/tatsu2/20141013/p1