こんにちは、nanapiマーケ室です。
今回は、オンラインビジネスニュースサイトである「Quartz(クオーツ)」を紹介します。クオーツとは、2012年9月に米のアトランティックメディアが開始したWebメディアで、特にモバイル(スマートフォンやタブレットなど)からのアクセスを重視しています。
米、英、アジア版を2009年に同時スタートし、その後、インド向けも開始しています。立ち上げからわずか10ヶ月で、500万人以上のユニークユーザーを獲得し、現在では9万人以上のメールマガジン購読者を抱えるなど、目覚ましい成長を遂げているクオーツ。
そこで今回は、この新たなメディアが持つ特徴をみていきます!
名前の由来
画像:Mark, Vicki, Ellaura and Mason
まず気になるのが名前。「クオーツ」が意味するものとは何でしょうか?
創設者であるDelaneyによると、英語で「石英(中でも無色透明なものを水晶と呼びます)」を意味する「クオーツ」は、地殻変動が頻繁に起こる場所の近くに多く存在しており、そのようなサイトを目指しているからだそうです。
運営会社とターゲット
「クオーツ」を運営している会社は、アメリカのAtlantic Media Companyです。
アトランティックメディアは、創刊155周年を超える超老舗メディアであり、代表的なブランドとしては「The Atlantic」や「The Wire」などがあります。全体で約470人の従業員を抱えており(参考:日経BP社は778人)、中でも「The Atlantic」の創業は古く、根強い人気を誇っています。近年はデジタル面を特に強化してきており、雑誌だけではなくモバイル版も公開しています。ホームページによると、「The Atlantic」のWebサイトへの月間アクセスは約1660万人。
その中で、クオーツはアトランティックのデジタルメディアへの新しい取り組みを体現しているといえます。
(Image:Scott Barron)
↑ クオーツのサイトによると、ターゲットとしている層は、英語を話すビジネスエグゼクティブです。
読者の特徴としては、
- 65%の読者(英国の場合は9割)は、経営幹部
- 約40%がアメリカ国外(カナダ、英国、オーストラリア、インド、ドイツなど)の読者
- 読者の平均年齢は40歳
- そのうち4割の世帯収入は10万ドル(約1000万円)以上(2014年2月時点:ComScore調べ)
- 読者の7割が男性で、テクノロジー関連に強く興味を持っている
などが挙げられます。
「クオーツ」の編集方針
「クオーツ」には明確な編集方針があります。
その中でも代表的な2つは、「オブセッション(Obsession)」と「クオーツカーブ(Quartz Curve)」が挙げられます。以下では、それぞれについてみていきます。
「Obsession/オブセッション」
クオーツは「オブセッション」という編集方式を採っています。「オブセッション(Obsession)」とは、英語で「(何かに)取りつかれること」という意味であり、クオーツではその時々に追いかける特定のテーマを表しています。
現在であれば、「Mobile Web」、「China’s Transition」「The Next Billion」「Energy Shocks」「Modinomics」「The Sea」など13個のオブセッションが設定されています。そのオブセッションごとに、関連する記事がまとめられています。
例えば、「The Sea」というオブセッションでは、海に関する様々な記事が紹介されています。シーフードに関する記事であったり、海の生き物の生態を紹介していたり、いろいろな観点から記事が集められています。
「クオーツカーブ(Quartz Curve)」
「クオーツカーブ」を簡単に説明すると、「500語よりも短い記事と800語よりも長い記事が多く読まれる傾向にある」という事象を指します。これはクオーツが分析をした結果、判明したため、クオーツカーブと呼ばれています。
実際、クオーツ自身も「500語よりも短い記事」と「800語よりも長い記事」を重視しています。このクオーツカーブは様々な企業に参考にされており、例えば弊社でも参考にしています。弊社代表古川の以下の記事をご覧ください。
«スマホ時代のコンテンツは「瞬間」か「没頭」じゃないか – nanapi社長日記
記事の更新頻度
ここで、記事の更新頻度についても見ておきます。
2014年6月16日~6月23日の新着記事数を調べると、約175本の記事がアップロードされています。つまり、一日当たりでみると、6本近くの記事が更新されているようです。
また、記者と編集者の数は、約40名おり、多くは既存のメディア「The Economist」や「The Wall Street Journal」出身の記者です。
「クオーツ」のデザイン
(Image:http://talkingbiznews.com/tag/quartz/)
クオーツのデザインは極めてシンプルです。2014年の8月24日に大幅なサイトリニューアルが行われ、デザインがよりシンプルになりました。基本的には、Twitterのようにスクロールしていくだけで記事を読むことが出来ます。なお、レスポンシブデザイン(様々な種類の機器や画面サイズに単一のデザインで対応するデザイン)を採用しています。
↑ PC画面上での「クオーツ」
パソコン版とタブレット版の場合、一番上にはその日のトップニュースが画像付きで紹介されています。そこから下はThe Briefと呼ばれ、その時々の最新のニュースが確認できるようになっています。このThe Briefは常にアップデートされ、いつサイトに訪れても最新の世界情勢が分かるようになっています。
↑ 8月24日に行われたリニューアルによって、サイドバーも廃止されました。ゆえに、上記のように記事を読む際は記事だけが画面上に表示されるため、集中して記事を読むことが出来ます。
The EconomistがDelaney(創設者)に行ったインタビューの中で、モバイル向けのインターフェイスを採用した理由を3つ挙げています。
- モバイルを使ってニュースを読むユーザーが圧倒的に増えているため
- クオーツは世界中のビジネスリーダーをターゲットとしており、彼/彼女らは、特に動き回っているため、モバイルの方が使い勝手が良い
- モバイルのプラットフォーム、特にユーザーインターフェイスに関しては、まだまだ改良の余地があるため
だそうです。
コメントの方法
通常、コメント欄は記事の一番下にあることが多いです。その場合、コメントが目に入りづらかったり、記事が長い場合どの点に対するコメントかわかりづらい時があります。
そこで、クオーツのコメント欄は、「アノテーション」というコメント欄で対応しています。この場合、パラグラフごとに最大280文字までコメントできるようになっています。
また、その箇所だけを他のSNS(Facebook, Twitterなど)でシェアできるようにもなっています。そのおかげなのかはわかりませんが、クオーツへのアクセスの約7割はSNS上でのシェアからの流入となっています。
「クオーツ」の収益モデル
クオーツの2014年前半の広告収益は、前年度比600%という驚異的な成長を遂げています。年間収益は、800万ドル以上の見通しです。
また、広告クライアントの4割以上の金融サービス関連事業で、45社もの”blue chip”(優良)企業が広告クライアントとして名を連ねています。さらに、8割以上の広告リピート率を誇ります。
しかし、CPM(掲載1000回当たりの料金)は約60ドルと、通常の全国レベルのサイトでのバナー広告費の2~4倍に相当します。
なぜ高額にも関わらず、多くの企業はクオーツに広告を掲載するのでしょうか?
最も大きな理由は、クオーツのターゲットにあると考えられます。
上で述べたように、「クオーツのターゲットは、ビジネスエグゼクティブであり、収入が非常に高いことが特徴です。そのため、ブランド志向の企業は「是非ともリーチしたい」と考えています。そのため企業側から見ると、クオーツの読者達は大変魅力的に映ります。
では、クオーツでの広告形態はどのようなものなのでしょうか?
クオーツはバナー広告を一切行っていない、ということが1つの特徴です。クオーツでは、記事と記事の間に比較的大きなレクタングル広告が現れるのと、ネイティブ広告、すなわち記事体広告が現れるのみです。ただし、ネイティブ広告はクオーツのマーケティングチーム、あるいは広告主が作り、編集部は一切関与しません。
ネイティブ広告の具体例としては、以下の記事が挙げられます。
«10 ways developers are pushing the boundaries of the internet of things(開発者がモノのインターネット化を推し進める10の方法)
この記事はIntelによるスポンサーコンテンツです。
↑ 記事画像を見ていただければ分かるように記事の上部にはIntelの名前、記事タイトルの上には黄色の文字で「Sponsor content」と書いてあります。(画像内赤枠は筆者)
記事中には一切Intelの名前は出てこないのですが、Intelらしくインターネットを活用したモノの未来について書かれています。
クオーツの収益を支えているもう一つの柱が、「The Next Billion」と題したカンファレンスです。2014年には全7回が予定されており、参加費用は1人599ドルとなっています(早期割引などはなし)。
オープンソースである「Chart Builder」の無償提供
クオーツでは、「Chart Builder」というチャートが簡単に作れるツールを無料で公開しています。これを使えば、ハイクオリティーのチャートが無料で作れるということで「New Yorker」や「The Wall Street Journal」の記者も使用しています。
このようにオープンソース化している理由は、現代ビジネスの記事によると、
みんなが向上できるようにしたいという思いと、クオーツが誰と協力できるかを見極めるための2つの理由からだという
とのこと。
美しいチャートを作りたいと思っている人は一度試してみてはいかがでしょう?
今後の展開
今後は、もっとデータを使用した記事に力を入れていくようです。現状でも、グラフやインフォグラフィックを使用した記事が目立ちます。
例えば、「America catches some of the world’s best salmon, but eats some of the worst(アメリカは世界有数の鮭の漁獲量をほこるが、消費量は世界でもかなり少ない)」という記事では、記事中に本格的なグラフが4つも使われています。
また、数ヶ月前にはインド版もリリースし、グローバルに読まれるメディアの確立を進めているようです。現在では、約40%の読者がアメリカ国外だそうで、今後もこの割合は増え続けるでしょう。昨年9月には、イギリスでも現地記者を採用し、イギリスでの現地開拓も狙っています。
このように、独特の読者層、編集方針を持ち、成長を続けるクオーツ。今後も目が離せないことは間違いありません!
参考記事
»»アメリカで躍進中のビジネスニュースサイト『クオーツ(QUARTZ)』 その編集方針と経営戦略を聞いた
»»未来の Web メディア/その実装形とは
»»ニュースサイト「クォーツ : Quartz (qz.com)」が示す未来のメディアビジネス
»»新興ビジネスメディア「Quartz」、広告売上がこの1年で426%増加
»»クォーツカーブ(Quartz curve)とは
»»Quartzがリデザイン:初のホームページ誕生
»»Does it matter that mobile-native Quartz has a mobile-minority audience?
»»Aiming Higher
»»You can now leave annotations in the margins of Quartz
»»5 things journalists should know about Quartz, Atlantic Media’s business news startup
»»How Quartz passed 5m traffic record in January
»»Quartz has a new look—and for the first time, a homepage