2014-10-15 本当に「かわいそう」なのは誰なのか?
先日の NHK の番組に関するエントリ の補足として、私がこの手の「かわいそうなお年寄りを殊更に強調する番組」がほんとーによくない(=害がある)と思っている理由を書いておきます。
それは、財源を明示しない「かわいそう論」は、常に若い世代への負担押しつけに帰結するからです。
日本には既に、ものすごい額の借金があります。それらを返済させられるのは、今の若者であり、今の子供であり、これから生まれてくる子供達です。
彼らが、今より大幅にアップした消費税なり、所得税なりの支払いを通して、それらの借金と利子を支払うことになります。教育や医療を含む行政サービスだって、今の中高年&高齢者が享受したレベルのものは手に入らないでしょう。
借金の使い道が、彼らの未来の役に立つものであるなら、それもアリです。でも、お金の使い道は「現時点での(かわいそうな)高齢者」なのです。
ほんとーに、それでいーんでしょうか?
私たちはこれ以上、若者と子供達からお金をむしり取り、今の「かわいそうなお年寄り」のために使うべきだと、思っているのでしょうか?
ああいう番組を作ることは、「そうすべきだ!」という意見を援護射撃することに他なりません。だから、見ていて気分が悪いんです。
もう一度、このグラフを見てください。総額1600兆円にも及ぶこの国の富は、高齢者が独占してるんです。
<世帯主年齢別・金融資産の分布>
「かわいそうなお年寄り」を支援すべきは、「お金持ちの高齢者」なんじゃないんでしょうか? てか、「かわいそうな若者」だって、このお金持ちの高齢者のお金で支援すべきでは?
問題の本質は、右肩上がりの経済成長期の恩恵を一身に受けた世代が資産を抱え込んでいるのに、
1) その資産を流動化させる政策が足りてない
2) そんな世代に、未だに、ものすごい額の税金を注ぎ込んでいる
ことにあります。
最近、1)については、相続税の課税最低ラインの引き下げ、子供や孫への生前贈与の推進(税金軽減)など、それなりの策がとられています。しかし 2)に関しては、全く手つかずです。
いまでも数千万円、時には 1億円を超える金融資産を持ちながら、毎月30万円、40万円の年金を受け取っている高齢家庭があります。(月40万円というのは、夫婦で学校教師など公務員で共働きの家庭や、夫が大企業勤務だった場合などです)
どんだけ資産のある高齢者も、医療費の負担は 1割だし(国の保険だけでなく、各自治体も高齢者に補助金を出しています)、
どんだけ資産のある高齢者も、介護保険を 1割負担で使えます。
高齢者パスを支給され、バスに無料でのったり、自治体の施設(温泉施設とか集会所とか)を平日の昼間にゆったりと使いながら、ほとんど料金も払わず、その一方で一ヶ月の年金が何十万円も振り込まれてるって人がたくさんいるんです。
半年も一年も引き出されることなく、支給された年金が口座に貯まっていくだけ、みたいな銀行口座がどんだけ存在してるか、銀行の人はわかってますよね?
てか、NHK 職員の OB にも、そーゆー人、いっぱいいるでしょ? 1回、取材に行ってみたらいーのに。
しかもこれらの社会福祉支出は、今後、高齢者が増えるにつれ毎年 3兆円ずつ支払いが増えていきます。一年 3兆円 = 3年で 10兆円(今より)支払いが増え、もちろんその大半は、高齢者世帯に支払われます。
10兆円って、消費税を 5%上げた分が全部ふっとぶ額なんですよ!?
今、高齢者向け福祉予算を抑えないと、消費税は 25%くらいまで上げる必要がでてくるって、みんな知ってんのかな??
↓こんだけ減る働き盛り人口で、
↓こんだけ増える高齢者にお金を回し続けるの?
2050年には、20代と 30代を合せても 1658万人しかいないのに、 75歳以上は 2373万人いるんだよ。こんな多数の人に、今のままの高齢者福祉を与え続けるの??
( 2050年の 20代、30代とは、2011年から2030年生まれの、今の&これからの子供達です)
★★★
1)の高齢者の資産流動策だって、ほんとーはもっといろいろあり得るんです。彼らがお金を使うのは、「孫と健康」です。
格安の医療だけでなく、それ相応の価格を払って手にできる、より行き届いた医療や介護サービスがあれば、貯金をはたいてでもそれを手に入れたいと思う高齢者はたくさんいるでしょう。
ところが今は、「すべての国民はひとしく同じレベルの医療を同じ料金で」とかいってるから、彼らは、毎日病院に集まって四方山話をしていても、全くお金がかからず、全く貯金が減りません。その貯金を狙って、オレオレ詐欺が跋扈してるわけです。
介護業界ってワープアみたいな給与だから、若者が定着しないって言うでしょ。
でもね。ワープア給与で働く介護スタッフは貯金もできないんだろうけど、その人から介護サービスを受けてる高齢者のほうは数千万円の貯金を持ってるかもしれないんだよ。それなのに介護サービス料金の一割しか負担しないって。
なんか変だと思わない?
加えて、「消費税アップが、生活保護で暮らしてる人や年金生活者など、かわいそうな人の生活を直撃する」みたいな報道も、ほんとーに無責任です。
消費税は、定年になり、既に働いていない高齢者世帯が、唯一支払う必要のある税金なんですよ!? 彼らはもはや所得税も住民税も払ってないんだから。
あとね。マイナンバー制度(国民総番号制度)に反対するのもやめましょう。
今、この制度がないせいで、所得は捕捉されてるけど、資産が補足されない。だから何千万円も資産をもっている高齢者に関しても、医療保険や介護保険の負担を増やすことができないんです。誰がお金もってるかわからないから。
★★★
「かわいそう」、「福祉が行き届いていない」というメッセージだけを繰り返す無責任な報道が、この国をどこに向かわせるのか。私たちはもうすこし理解しておくべきです。
貧しい人、恵まれない人のことを、「かわいそうでしょ、かわいそうだよね!?」と煽るだけの簡単なお仕事ではなく、
膨張し続ける社会保障・福祉費用を通して、若者や子供達、ひいては未来の国作りのために使われるべきお金が、税金で助けてあげなくてもいい裕福な高齢者の貯金を殖やすためだけに、大量に配布されていないか、
その状態を改善するためには、どんな方策が必要なのか。
ぜひともそっちを掘り下げた番組を作ってほしいもんです。
そんじゃーね。
みんなコレくらい読んでおいてね↓
<関連エントリ>
・「介護保険のからくり」
・「見捨てられてる母子家庭」
・「驚くべき日本の将来人口!」
・「おちゃらけ再配分の仕組み」
・「個人金融資産の年代分布」
・「「かわいそうなお年寄り」をもっと支援すべき!? by NHK」
本日のエントリで使ったグラフデータは、上記の過去エントリで使ったモノであり、ややデータが古いです。が、趣旨に変わりはないので、そのまま使ってます。ご了承ください。