韓国叩きのファシズムに抗せ - 朴槿恵大統領の決断と矜持を支持する

一夜明けた今日(10/10)、韓国叩きのファシズムがさらに苛烈で容赦ない状況になっている。朝日が韓国叩きの社説を上げている。毎日の社説も韓国を厳しく叩いている。東京新聞の社説も韓国叩きに加わっている。北海道新聞の社説まで追随。これらの社説の主張は、どれも尤もな正論なのだけれど、自分たちの言論が韓国叩きのファシズムの一部を成していて、日本国内を反韓ナショナリズムの空気一色に染め上げているという問題について、どこまで客観的に自覚しているのだろうか。ついでに言えば、社民党共産党も、韓国叩きのコメントを幹部の名前で発表している。つい1ヶ月前に見たところの、池上彰の事件から一気に高揚した朝日叩きの付和雷同と疾風怒濤が、まさに相手を韓国に変えて同じ形で盛り上がっている。再現されている。東京新聞は、ネットの左派には評判のよい新聞だが、今日の社説は読売のそれと全く同じ論調で、何も異同を感じない。知らない者が読み、読売の社説だと言われても頷くだろう。今日の新聞の社説は、まさにオールジャパンの一枚岩で、ナショナリズムが発揚している政治的現実そのものだ。東京新聞の社内で、踏み止まった方がいいと声を上げた者はいなかったのだろうか。敢えて異端の立場を選ぶことで、日本国内を一色(=束=ファッショ)に塗りつぶすことを防ごうと、独立不羈のジャーナリズムの精神を発揮しようとする者はいなかったのか。逆風を覚悟して、日本国内に少数意見の在処を示そうと、そういう勇気と気概を持ったサムライはいないのか。

どれもこれも無難に正論に寄りかかり、安全運転で常識論に群れながら、ファシズムとの対峙と緊張を避け、ファシズムに消極加担し、右翼反韓ファシズムの体制に与力している。朝日叩きの二の舞である韓国叩きのストームを再現させている。一体、この2年間、日本のマスコミは、韓国の元首である朴槿恵に対して、どれほど偏執的な嫌がらせを続けてきたのか。国家の最高権威である元首に対して、どれほど不当で執拗な誹謗中傷と人格攻撃を繰り返してきたのか。週刊文春と週刊新潮は、日本版Newsweekは、来る日も来る日も、飽くことなく韓国叩きと朴槿恵叩きの記事を書き、吊り広告に顔写真を押し出し、袋叩きにして見せしめるように、これでもかと侮蔑と罵倒を吐き散らしてきた。電車通勤する者たちは、毎日毎日、日替わりで、朴槿恵叩きの週刊誌の吊り広告を見せられ、プロパガンダの毒液で大脳を漬け込まれていたのである。まさしく、ヒステリックなバッシングの洪水が続き、感覚が麻痺させられ、それが当然で常識のような日常風景に変わってしまったのだ。正視すれば、これがどれほど悪魔的な異常事であることか。12年前、北朝鮮拉致事件が騒ぎになった後、金正日が同じように日本のマスコミで毎日叩かれた。来る日も来る日も、テレビのワイドショーで同じ映像が使われ、悪玉として笑いものにされたが、同じ手口が週刊誌を媒体主力にして、特にその広告の写真とコピーで、朴槿恵が徹底的に貶められた。

朴槿恵個人にとっても心外だっただろうし、在日の人々にとっても憂鬱だっただろうし、出張で訪日する韓国人にとっては、意外であり、驚愕であり、気分を害する光景だったに違いない。日本のマスコミの論者で、こうした風潮や動向を正面から批判する者はなかった。アカデミーの政治学者で、この異常に警告を発して是正を試みた者はいなかった。在日を売り物にしている「政治学者」もいるが、その方面からは特に的を射たオブジェクションは発せられなかった。韓国の元首をこのように乱暴に扱っていいのかとか、やり過ぎだとか、そういう自制や自重の声は聞こえて来なかった。朴槿恵の表象は、今の日本では、嘗ての金正日と同じほど貶められた悪性の記号になっている。一般大衆にとって不愉快をもよおす表象になっている。2年間の間断ないプロパガンダと表象操作により、きわめてネガティブな固定観念が植え付けられてしまった。立ち止まって考えれば、朴槿恵は保守政治家であり、保守のサラブレッドのお嬢様だ。自民党議員とも交流があり、経済政策は強硬なネオリベで、北に妥協しない親米タカ派である。日本の右翼とはイデオロギー的に親和性のある立場なのだ。けれども、日本の右翼は最初から容赦なく叩き始め、盧武鉉や李明博のときとは比較にならないほど凄絶なリンチ攻撃を彼女に浴びせ、名誉を傷つけ続けてきた。それはなぜなのかと、考えて得た直観が、前回の記事で提起したところの、従軍慰安婦問題との思想的関連である。
 
朴槿恵叩きの武器となり現場となった週刊誌の広告を見ると、朴槿恵を人格攻撃する写真と共に、「反日」というレッテルと「従軍慰安婦」の記号が常に配置されている。雑誌広告の写真とコピーを見て、大衆は、従軍慰安婦と朴槿恵を一つに重ねて意味づけするのだ。そして、朴槿恵叩きのラッシュとシャワーに慣れっこになり、朴槿恵の悪玉視を当然と受け止めるようになる中で、ジェンダーのシンボルのパッケージで、従軍慰安婦に対する不当視の心理が付随的に媒介され、従軍慰安婦を拒否する観念が醸成されるのである。従軍慰安婦は反日だという認識になり、従軍慰安婦問題で日本を批判する韓国への拒絶や敵対の感情に流され、その政治的な主張や立場を是として確信するようになるのだ。そうなったとき、この電車通勤する大衆の一人は立派な右翼に化け、ファナティックな反韓のナショナリストになっている。朴槿恵が大統領に当選したのが2012年の12月、安倍晋三が首相に返り咲いた時期と同じだった。新政権に交代した二国は、慰安婦問題を合意して処理して外交関係を安定化させることが必要だったが、安倍晋三の方が民主党政権の宿題を引き継がず、歴史認識の政策を方針転換して、河野談話を廃棄する姿勢へ転じたため、二国は折り合わず、2年間を揉み合って現在に至っている。安倍晋三と右翼は、国内の世論を固めるべく、慰安婦問題の否定と朴槿恵の人格攻撃に出て、その二つに「反日」のラベルを貼り、マスコミを使って上に示したキャンペーンを張ることとなる。

こうして、朴正煕の娘であり、本当は親日である朴槿恵は、日本の右翼とマスコミの周到な表象操作によって「反日」に化けさせられてしまった。そして、ジェンダーのシンボルで表象の回路が繋がった従軍慰安婦問題も、問題の所在や提起そのものが「反日」だとされ、問題意識を持つことが半ば思想犯罪とされ、アンタッチャブルなタブーとされ、今では、それは朝日新聞の誤報から始まった歴史捏造だったという右翼の認識が、この国の報道のマジョリティを押さえる形勢になっている。この右翼の認識は、3年前までは社会の異端の言説だった。在宅起訴ので衝撃が走った10月8日は、119年前の1895年に、三浦梧楼や右翼の壮士が朝鮮王宮を襲撃し、閔妃(明成皇后)を殺害して死体を焼却した恐るべき歴史の日だったが、私はこれを偶然の一致とは思えない。韓国政府の歴史的な決意が暗示されている。おそらく、朴槿恵は、二度と訪日することはできないだろう。在位は残り3年間あるが、(安倍晋三が相手の)日韓首脳会談も難しいと思われる。今回の在宅起訴の政治決断は、大統領本人によるもので、慰安婦問題で日本政府に妥協しないという強固な意思が示されている。私は、それでよいと思う。リスクを賭した大統領の決断と矜持を支持する。ここで米国の脅しと誘いに屈し、右翼日本に妥協したら、ずるずると押し流され、河野談話も村山談話も廃棄されるのを承諾しなければいけなくなる。河野談話と村山談話を廃棄された後の首脳会談で、ニコニコと笑って安倍晋三と握手しなくてはいけなくなる。

それこそがまさに、第1次(1904年)、第2次(1905年)、第3次(1907年)の日韓協約の関係なのだ。1965年の日韓基本条約の日韓関係なのだ。日本と対等でない関係を押しつけられた韓国が、無理に「未来志向」をプリテンドする姿である。無意味な「未来志向」のフィクションは止揚しなくてはいけない。さて、最後に、韓国側のマスコミの反応として、10/3の朝鮮日報のコラムがあったので、それを読んで気になった点について触れよう。これは、在宅起訴が決定される前の論評で、「産経支局長を処罰してはならない理由」と題されたものだ。基本的には正論が述べられていて、論理展開も結論も、特に問題に感じるところはない。ただ、少し引っ掛かったのは、「質が悪いごみは無視するのが上策だ。町内のごろつきのような卑劣な挑発をまともに相手にしていたら、われわれの品格が低下してしまう」という最後の部分である。この指摘と表現そのものは、確かに当を得ているのかもしれないが、果たして本当に、産経は、韓国にとって単なる「粗悪ゴミ」で「町内のゴロツキ」の存在なのかどうかという点だ。私は、この指摘は事実誤認であり、危険な矮小化だと思う。事実は違う。産経は安倍官邸に直結する情報工作機関である。いわば準国営の特務機関だ。韓国国内で諜報活動をやっているし、産経と繋がる日本右翼のネットワークが韓国の政府や大学に入り込んで、親日シンパの育成調略工作をやっている。韓国国内に、日本右翼の利益のために動く人脈を構築している。日本右翼の実力を侮ってはいけない。それを過小評価すると、19世紀末のような陥穽に落ちかねない。

実際、今回の検察当局による在宅起訴は、ある意味で追い詰められた結果だと言える。他に方策がないから、大統領が泥をかぶる形でリスクを取って苦渋の決断を下した。この2年間、日本のマスコミはこれでもかと朴槿恵の人格攻撃と誹謗中傷のキャンペーンを張り、韓国の尊厳を傷つけ続けたが、それを抑止することが、韓国側の非公権力(=言論陣営)はできなかった。日本の中に、右翼反韓の怒濤の流れを押し止める防波堤を作るサポートができなかった。辛辣な言い方を許してもらえれば、指をくわえて傍観していただけだ。今やすでに、日本はファシズムの真っ只中にある。国会には(本来の)野党はない。大政翼賛会だ。マスコミも、安倍晋三をまともに批判できる社はない。言論には言論でなどと、ナイーブな楽観論で済まされる段階ではないというのが、私の率直な認識であり、リアルな状況判断である。正しく確認しなくてはいけない要点は、産経や安倍晋三など右翼は、日本が朝鮮半島を侵略し植民地支配した歴史を肯定しているという事実である。その過去の政策と思想を正しかったと主張し、同じことをやってもいいと信念している者たちなのだ。そして、彼らが現実に日本の政権を握り、マジョリティを押さえ、憲法を(解釈で)変え、軍備を拡張し、中国と戦争を始めようとしているということだ。この者たちは、村山談話のような関係を韓国とは結べない。韓国を理解する気がなく、韓国と対等な関係を結ぶ気がない。日本国内では在特会を飼い、在日を虐待して愉悦している。こうしたことは、韓国の将来に暗雲をもたらす種であって、韓国の安全保障に関わる問題だ。現実を直視しなくてはいけない。

韓国のマスコミと論壇は、日本右翼を見くびってはいけない。



by yoniumuhibi | 2014-10-10 23:30 | Trackback | Comments(5)
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Commented by 激辛 at 2014-10-11 19:57 x
 隣国の女性大統領について産経新聞前ソウル支局長が、「~その時間パク・クネ大統領は男と会っていた~」などの記事を書き在宅起訴になった。それに対して日本の新聞各社は一斉に攻撃の社説を掲げ、女性大統領を叩いているようですね。そんな状況をきっとほくそ笑んでいるのだろうか?石原慎太郎氏などは。安倍総理も、どの新聞の隣国叩き記事が一番よく書けているかな?などと調べているのかもしれない。
 でも、結局、両氏が喉から手が出るほど欲しいのは、日本庶民の、新聞に煽られて隣国への戦にのめり込んでいってしまうこころ…(昭和初期の日本国民がそうであったように)…そのこころは、死んでもやらない!と私は思っています。
Commented by haku at 2014-10-11 20:45 x
今回、韓国検察が行ったこと自体に賛成する気にはなれないが、ブログ主の主張は理解できる。フランス人やドイツ人にしてみれば、自分達が数十年前に克服したことをあいつら相変わらずやってらぁ、ってなもんですね。こんなこと続けていたら、東アジア共同体はおろか、環日本海さえ夢のまた夢。世界的に地域協働への流れにある中、日本は取り残されそう。韓国がそんなムジナの穴に引き込まれるのはゴメンだろう。櫻井よしこ氏は「現実を見よ」とよく言っていたような気がするが、右翼こそ幻想の真っ只中に生きているような気がする。
Commented by カプリコン at 2014-10-11 21:51 x
それにしても週刊誌の広告とデモの様子の写真、すごいですね。韓国の方々をこれでもかと侮蔑しています。テレビで見たことがある韓国の人々が日本の政治家を批判するデモとは違いますよね。写真から伝わってくるのはひたすら相手を貶めるメッセージだけで建設的なものは何もないです。

朝鮮の人々を日本に強制連行し重労働をさせたこと、従軍慰安婦(朝日新聞の吉田清治氏の証言は嘘だったということですが日本軍があるところに慰安所は間違いなくあったはず)、関東大震災での朝鮮人の虐殺事件などは、紛れもない事実です。
『三浦梧楼と大陸浪人による閔妃襲撃と暗殺事件、いわゆる1895年の乙未事変』については初めて知りました。おぞましいです。

沢藤統一郎氏も今回は「産経の側に立つ」とブログに書いていました。産経新聞は政権よりなので自分とは基本的な考え方は全く違うことを明言していますが、法律的根拠からも今回の起訴はいただけないという考えなそうです。でも、結果は韓国を叩く側に立つ右翼と同じになるということですよね。考え方は違っていも・・。

相手を差別し、侮辱し、さらに憎悪を煽る、その先にあるものを考えなくてはなりません。


Commented by kka0716 at 2014-10-12 12:49
[今やすでに、日本はファシズムの真っ只中にある。~日本右翼を見くびってはいけない」
毎回鋭い分析と情報に身震いする思いで読ませてもらっています。現政権や右翼へ舌鋒鋭く切り込んでいらっしゃるだけにブログ主様の身の安全が心配になります。どうぞくれぐれもご用心され、ご自愛下さい。
Commented at 2014-10-14 01:28 x
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