御嶽山噴火:死者12人に 24人が心肺停止

2014年09月30日

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御嶽神社奥社付近で救助活動の準備をする警察官や自衛隊員。噴石が当たったのだろうか、祭神像の首が無くなっていた=2014年9月29日午前9時10分、本社ヘリから小出洋平撮影

 長野、岐阜県境にある御嶽山(おんたけさん)(3067メートル)の噴火で29日、心肺停止状態の男女8人が山頂付近からふもとに搬送され、全員の死亡が確認された。噴火に伴う死者は計12人になった。長野県警が発表した。また新たに5人が心肺停止状態で見つかった。山頂付近に残されている心肺停止の登山者らは24人になった。(3面にクローズアップ、社会面に関連記事)

 ◇捜索、一時打ち切り

 長野県警によると、頂上の御嶽神社奥社の周辺で新たに5人が発見された。29日朝から約540人態勢で救助作業を行ったが、午後になり有毒ガスの濃度が増したため、この日の救助活動はいったん打ち切られた。30日朝から再開される見通し。

 岐阜県警は29日、同県高山市側の登山口「胡桃(くるみ)島(じま)口」「日和田(ひわだ)口」から御嶽山頂へ向かう2ルートを噴火後、初めて捜索した。取り残された登山者は発見されなかった。隣接する下呂市側の登山口「小坂口」からは27、28日に52人が自力で下山している。

 長野県は29日、負傷者の数について59人と修正した。重傷は27人。自分で病院で受診した人などを加えたためとみられる。負傷者は岐阜側の10人と合わせて計69人となった。【川辺和将、式守克史】

 ◇11人の身元判明

 犠牲者のうち身元が判明した方々は次の通り(30日未明まで。長野県警発表)

 名古屋市中村区亀島、会社員、浅井佑介さん(23)▽岐阜市次木(なめき)、同、三浦勇さん(45)▽長野県塩尻市峰原、同、林卓司さん(54)▽同県松本市中川、無職、横田和正さん(61)▽静岡県御前崎市白羽、会社員、増田直樹さん(41)▽岐阜県中津川市中津川、同、関口泰弘さん(39)▽東京都大田区下丸子、同、高田紗妃さん(29)▽川崎市麻生区上麻生、同、高橋秀臣さん(41)▽横浜市港北区大豆戸町、同、本多達一さん(39)▽兵庫県、山上貴史さん(45)▽愛知県知立市東長篠、高校3年、伊藤琴美さん(18)

 ◇腰まで積もる灰 ガス漂う静寂の山頂

 御嶽山の山頂付近で登山者らの救出活動をした警察官や自衛隊員の証言から、過酷な現場の状況が徐々に分かってきた。

 長野県警機動隊副隊長の金森勉警部(54)は、噴火翌日の28日は王滝頂上山荘周辺で、29日は剣ケ峰山頂で救助に当たった。目の前に広がっていたのは、深く降り積もった白い火山灰と、「火山から噴出して飛んできたような不自然な岩石が、ごろごろ転がっている」という異様な光景だった。

 救出作業中、噴石は降ってこなかったものの、火山灰がどんどん降ってきた。積もった灰は膝ぐらいの高さまであった。心肺停止の人の大半が倒れていたとみられる剣ケ峰から王滝山荘につながる稜線(りょうせん)のあたりでは、自分の体がズブズブと腰まで灰の中に沈んだ。28日に死亡確認された男性4人のうちの1人が倒れていたのは、そんな場所だったという。

 「ゴゴゴゴという音がたまに聞こえるだけで、あとは静か。私たちの『誰かいらっしゃいますか』という声が響くぐらいだった」と金森副隊長は振り返る。

 28日にたどりついた王滝山荘には救助を待つ登山客がいた。噴石などで頭などを打っている人が多く、布団の中で心細そうにしていた。だが、自衛隊、消防の救助部隊と一緒に山荘に入ると、表情が和らいだという。

 29日は火口から噴き出す有毒ガスが救助隊の行く手を阻んだ。風向きでガスの危険性が変わる。検知器の数値は午前中に計3回1ppmを超えた。昼近くには、人体に影響を及ぼす手前の2ppm超になり、この日の捜索打ち切りを決めた。「苦渋の決断だった」という金森副隊長は「2次災害には気をつけなければならないが、一人でも生存の可能性があれば救助する」と語った。

 陸上自衛隊の現場指揮をした松本駐屯地の中村文彦3等陸佐(46)は、こんもりと盛り上がった火山灰の山を忘れない。

 28、29両日、隊員95人を率いて王滝口から山頂を目指した。再度の噴火に備えて全員が防弾チョッキとゴーグル、防じんマスクを着け、縦列で登山道を進んだ。

 8合目を越えたあたりから灰が深くなり、山頂付近では約50センチに達した。直径1センチほどの噴石が絶え間なく降り注ぐ。強い硫黄の臭いを帯びた灰色の火山性ガスは視界を奪う。その中に見えた小さな灰の山は人が埋まっている目印だった。

 「山頂に残された人を一刻も早く救出したい」。5合目付近で中村陸佐が取材に応じる間にも灰は降り続いた。迷彩服がうっすらと白くなった。【黒川晋史、堀智行】

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