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依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実
【第3回】 2014年10月15日
著者・コラム紹介バックナンバー
デイミアン・トンプソン,中里京子

アングリーバード依存/ゲーム依存
――脳を操り、デザインの力で金を絞りとる製品設計

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iPhoneとそのアプリの登場で、もはや時間と場所の制約がなくなった「ゲーム」。なぜ、老若男女問わず、これほどまでに病みつきになってしまうのだろうか?
約15年間、自らもアルコール依存に陥っていた記者が、綿密な取材と実体験をもとに著した『依存症ビジネス』は、テクノロジーとビジネスの共犯関係、さらに社会が依存症を生み出すカラクリを暴いた。こうした現象は、「危険ドラッグ」にまつわるニュースが日常に溢れ、過去にはスマホゲームへの課金が社会問題になった日本人にとっても、決して無関係ではない。第3回となる今回は、あまりにも巧妙にデザイン、製品設計されたゲームの内幕に迫る。

アングリーバードと「A/Bテスト」
――あなたが何にハマるかは、ゲームがすでに知っている

  快楽に関する科学は、あらゆる企業のマーケット戦略で、いよいよ大きな役割を果たすようになってきた。ショッピングモールで焼きたてのドーナツの匂いを漂わせる企業のレシピは、キッチンで生まれたものではない。それは、研究所で徹底的に研究開発されたものだ。この点において、アップルは群を抜いている。消費者に製品を押しつけるという粗野な風味を、うっとりするようなミニマリストの美学で包みかくし、これほど精妙な欲望のカクテルを生み出す技は、他社の追随を許さない。

 「iPhoneは、他のどの製品にもまして、消費者を病みつきにさせる戦略をテクノロジー業界に広めた」とヤノポロスは言う。「アップルの天才的なマーケティングとデバイスのデザインに徹底的にこだわる姿勢は、iPhoneアプリの制作などを行っている開発者たちの生態系全体に浸透している」と。

 ヤノポロスは、「アングリーバード」の例をあげる。この素朴なコンピューターゲームのアプリは、2011年5月までに、2億回もダウンロードされた。アングリーバードの遊び方はシンプルだ。プレイヤーはスリングを使って鳥を放つ。その際、鳥が描く軌道を予測して、発射の力と角度を決めるのだ。こう聞くと、まったく無害なゲームに思える。

 しかし、このゲームにハマって往生している人はあまりにも多く、そんな状況を改善するためのセルフヘルプ・サイトが、インターネットのあらゆる場所で生まれているのだ。

 自称アングリーバード中毒者たちは、なぜゲームをやめることができないのかわからないとぼやき、無意識のうちにテーブルの表面を指でなぞって、スリングショットの動きを再現していると言う。こうした行動は、アルコール依存者や薬物乱用者がとるちょっとした儀式的行為に、やけに似かよっているように思える。

iPhoneゲームの開発者に求められる最優先の仕事は、脳の報酬回路の利用法を学ぶことだ、と示唆したとしても、陰謀説には当たらない。開発者たちは、それが事実であるとオープンに認めているからだ。2010年にロンドンで開かれた「バーチャル・グッズ・サミット」では、アングリーバードを生みだしたロヴィオ社の主任技術開発者ピーター・ヴェスターバッカが、同ゲームを病みつきなものにする方法について説明した。

「ぼくらは、単純な“A/Bテスト”手法を使って、人々が繰り返し戻ってくる対象を突きとめています。もう、推測する必要などありません。ユーザー数がこれほど膨大になったので、ただアルゴリズムに数値を計算させるだけでよくなったんです

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デイミアン・トンプソン(Damian Thompson)  

1962年、英国レディング生まれ。オックスフォード大学を卒業した後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で博士号取得(宗教社会学)。元『カソリック・ヘラルド』紙編集長。現在は『デイリー・テレグラフ』紙のレギュラーライター、およびテレグラフ・メディアグループの敏腕ブログエディター。 18歳から32歳までアルコール依存症に陥っていたが、以来、20年間にわたって禁酒している。 著書に『終末思想に夢中な人たち』(翔泳社)、『すすんでダマされる人たち』(日経BP社)など。

中里京子(なかざと・きょうこ)

翻訳家。1955年、東京生まれ。早稲田大学教育学部社会科卒業。20年以上実務翻訳に携わった後、出版翻訳の世界に。 訳書に『ハチはなぜ大量死したのか』、『地球最後の日のための種子』(ともに文藝春秋)、『不死細胞ヒーラ』(講談社)、『個人インフルエンサーの影響力』(日本経済新聞出版社)、『ブライアン・コックス 宇宙への旅』(共訳、創元社)、『食べられないために』(みすず書房)など。 不妊・生殖補助医療に関する国際学会の事務局も担当している。


依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実

もはや病気ではない。
最強最悪のビジネスモデルである。
iPhone、フラペチーノ、危険ドラッグ、お酒、
フェイスブック、アングリーバード、オンラインポルノ……
ストレスまみれの毎日に疲れ果てた我々の欲、依存心、意志の弱さにつけ込むテクノロジーを駆使した
「依存症ビジネス」の最強最悪のビジネスモデル、
そして「依存症的なもの」を次々と生み出す社会の真実を、
元アルコール依存症の敏腕ライターがユーモアを交えながら暴く。
 

「依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実」

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