2014-10-15
日本のエンジニアが海外に飛び出すのは、日本の女性が海外に出て行くのと似ていて、同調圧力に耐えられないから。
青色LEDのノーベル賞を契機に、日本の技術力はこのままで大丈夫なのだろうか、なぜ日本企業・日本社会が変われないのか、そして社会や企業はどうするべきか、という議論が始まっています。
これは「古くて新しい問題」で10年以上前から言われていても、なかなか解決できない難しい問題です。
なぜ解決が難しいかというと、「過去の成功が大きいほど組織を変えることは難しい」ことがあります。
経営学では「イナーシャ」と呼ばれ、「慣性の法則:一度走り出すと止まることは難しい」。
企業や社会が成功体験を積むにつれ、成功モデルがより強固になるように組織は最適化されて行きます。
これは経営や政策としては「正しい」ことです。
日本の電機メーカーで言えば、80年代から2000年代初頭まで続く、「アメリカのコピーと言われようが、高品質な製品を安価に製造する」というモデルですね。
その場合には、人事制度も、「一人のスター技術者を優遇する」よりも、「男性中心に、多くのそこそこのレベルの技術者が集まり、チームワークで仕事をする」、という現在のやり方の方が効率的だったのかもしれません。
ところが、時代は変わりました。
「安価に高品質な製品を作る」ことは日本の専売特許ではなくなりました。
冷戦が終結し、アジアの政治・経済が安定するにつれ、アジアのメーカーも日本以上に「安価でそこそこの品質の製品」を作るようになりました。
日本はもはやアジアの企業に太刀打ちできませんので、アイデア勝負になってきたのですが、人の考えも組織も急には変われません。
「成功が大きく、組織のやり方が固まるほど、変化できなくなる」というのはメーカーに限るわけでもなく、日本に特殊なわけでもなく、古今東西、どの国のどの組織でも起こりうる一般的なことです。
急にスター技術者を優遇しろ、女性を活用しろ、と言われても、過去30年の間に成功したモデル・人事制度をそう簡単に変えることはできないのです。
日本の電機メーカーを見ると、かつての成功が大きかったからこそ、変わることも難しいのではないでしょうか。
海外でも同様な事例は生じています。
エレクトロニクスやITのパイオニアであるGEやIBMは90年代に日本企業に追い込まれ、倒産寸前になりました。
つぶれる寸前に、ジャック・ウエルチ、ルイ・ガースナーといった名経営者が現れて会社を立て直しますが、これは彼らが経営者が優れていた、というだけではないと思います。
人事制度や事業戦略を変えるには、必ず不利益を被る人が現れます。
場合によっては、「かつての功労者」を切ることも必要になります。
組織の改革を実行するには、つぶれる寸前、組織内に危機感が十分に高まらないと難しいのです。
一般に、組織が変わるのは、「つぶれる寸前の危機感が十分に高まる」必要はありますが、「つぶれてしまっては再建できない」ので、再建できるタイミングを見つけることは、針の穴に糸を通すように難しいのです。
この問題は日本でもメーカーや技術者に限らないのではないでしょうか。
90年代、バブル崩壊とともに、大手金融機関が倒産し、それまでは一生勤めると思われたエリート銀行員が外資投資銀行や経営コンサルに移るようになりました。
最近では、若手のキャリア官僚の退職が相次いでいます。
同じことが、メーカーのエンジニアに起こっているわけで、必ずしも理系特有の事情ではないのではないでしょうか。
ただ、文系の銀行員や公務員はどうしてもスキルが日本固有なものになりがちで、言葉の壁もあって転職先は日本。一方、技術には国境がありませんので、技術者の海外への転職が目に付くようになったのではないか。
このような問題は企業だけでなく、日本全体の問題かもしれません。
「みんなと同じようなことをすることが良いことだ」という社会の風潮では、技術者に限りませんが、イノベーターは育たないし、たとえ育ったとしても居ずらいですよね。
飛びぬけた能力がある(でも少々変わった)人の背中を押すのか、足を引っ張るのか、企業の人事制度だけでなく社会全体の「空気」も強く影響すると思います。
小学生の教育でも「みんなと同じことをすることが良いことだ」と教えていては、新しいことをやる人は育ちにくいです。
このような問題は政府や企業も気付いており、少しずつですが取り組みが始まりました。例えば、総務省が「変な人」の公募を始めました。
独創的な人は大概、「変な人」ですから。
ただ、日本全体で変わるのはまだまだ時間がかかりそうです。
先に述べたように、「変な人を優遇する」ことは、「普通のまじめな人の処遇を下げる」ことになります。
「まじめで普通の人」が既得権益層になり、変化への拒否反応が強いのです。
小学校から「目上の人の言うことを聞き、周囲との調和を大切にして、まじめに働け」と教えられてきたのに、いまさら「少々変でも良いから独創的になれ」と言われても、大概の人は困ってしまうのです。
ですから、以上のような状況を企業経営者や政府が理解できていないというよりは、「わかっていても、大多数の構成員が反対するから、変えられない」のではないでしょうか。
日本の政府や企業の意思決定者は良くも悪くも社会・組織全体の空気を読みます。意思決定者の行動は、社会や企業の構成員の意見をおおよそ反映しているのではないでしょうか。
変わらなければならないのは、経営者や政府だけでなく、社会や会社全体。
最近、「女性活用」と言われていますが、「女性を活用できないこと」と「エンジニアを活用できないこと」には根っこに同じような問題があると感じています。
つまり、社会の「同調圧力」と合わないことが根本的な原因で、「変なエンジニア」だけではなく、優秀な女性も海外に飛び出すのではないか。
今回のノーベル賞を契機として、「(技術者に限らず)独創的な人、社会のマジョリティから外れる人」を許容できる、応援する社会に少しでも変わっていければと思います。
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