Updated: Tokyo  2014/10/15 10:48  |  New York  2014/10/14 21:48  |  London  2014/10/15 02:48
 

日銀はメンツ捨て「勝ち逃げ」、年内に緩和縮小表明を-早川氏

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  10月15日(ブルームバーグ):日本銀行の元理事である早川英男氏はブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、日銀は「2年で2%」の物価目標達成というメンツを捨て、年内にデフレとの戦いに勝利宣言をすることで「勝ち逃げ」し、量的・質的金融緩和からの早期撤収に向かうべきだとの考えを示した。

現在、富士通総研エグゼクティブ・フェローを務める早川氏は14日、「異次元緩和は社会的実験でありギャンブルだったが、何はともあれ円安になり株が上がり、物価も1%台は維持できそうだ。ギャンブルとして評価するとまだ勝っている。最終的にギャンブルで勝つための要諦は勝ち逃げだ。いかに勝っているうちに終わるかが大事だ」と言う。

元日銀副総裁の武藤敏郎大和総研理事長や岩田一政日本経済研究センター理事長は最近のインタビューで、2年で2%の物価目標の達成は困難だと指摘。その上で、2%の物価目標は降ろさず、達成期限を延ばすことが選択肢になるとの見方を示した。日銀のチーフエコノミストを務めた早川氏がそこからさらに踏み込み、早期の量的・質的金融緩和の撤収を主張したことで、新たな議論を呼ぶ可能性もある。

早川氏は景気について「もたついているのは事実だが、流れが変わったわけではなく、ゆるゆる回復していくと思う。7-9月の成長率が在庫要因で反発力が鈍くても、その分10-12月が高くなるので、全体としてそう焦ることはないし、そう悲観すべきでもない」と言う。

物価が下振れる理由は何もない

むしろ、ここに来てはっきりしたのは「基調的な成長率、いわゆる潜在成長率の低さだ」と言う。日銀は31日の経済・物価情勢の展望(展望リポート)で実質成長率と消費者物価の見通しを示す。民間の2014年度成長率見通しは0.3%台に低下している。早川氏は「普通に考えれば日銀も1.0%の従来見通しを0.5%くらいまで下げるだろう」とみる。

8月の生鮮食品を除くコア消費者物価(CPI)は消費増税の影響を除き前年比1.1%上昇した。「一部で9、10月に1%割れという見方が出ており、その可能性もなくはないだろう。原油価格下落やスマホの価格競争で、目先は日銀の想定より若干下振れるかもしれないが、1年以上先を見通すと、下振れると考える理由は何もない」と言う。

早川氏が物価の基調を測る上で最近注目しているのが単位労働コスト(ULC)だ。GDP1単位を生産するのにどれだけ人件費がかかったかを示す指標で、4-6月は前年比1.7%上昇した。同期の実質GDPが0.1%減少したのに対し雇用者報酬は1.6%増加した。早川氏によると、そのうち労働人口と賃金の伸びは0.8%ずつくらいだと言う。

要するに、「全く成長していないのに労働投入が増えている。生産性が下がっているにもかかわらず名目賃金は上がっているので、ULCが上がっている。これはどう見ても潜在成長率の低下以外の何ものでもない」という。7-9月もULCは「4-6月より高まる可能性があり、基調的にかなり強いと考えざるを得ない」という。

デフレ脱却で成長率上がるという「大うそ」

人件費が前年比1.7%上がっている時に、企業は売値を1.7%上げれば利益率を維持できるので、最低でもそれくらい上げたいという事情がある。早川氏は「そう考えると、ULCが半年以上1.5%を上回る水準で走り続けるので、CPIが足元で一瞬1%を割れたとしても、先行き1%台を十分維持できると考えるべきだ」と語る。

したがって、日銀が展望リポートで示す日本経済の姿は「成長率をうんと下げて、物価はほとんど動かないという形になる可能性が高い。これによって、デフレを脱却すれば成長率も上がるというのは大うそだということが明確に証明される」と早川氏は語る。

日銀は13年4月4日、消費者物価の前年比上昇率2%の物価安定の目標を「2年程度の期間を念頭に置いて」できるだけ早期に実現すると表明。マネタリーベース残高や長期国債の保有額を2年で2倍に増やす量的・質的金融緩和を導入した。

早川氏は「確かに、長い目で見れば物価は1%より2%の方がいいし、日銀のメンツもあるが、それを別にすれば、2%を目指すにしても短期間で達成するメリットはあまりない。雇用が増えるわけではないし、成長率が上がるわけでもない」という。

一方でリスクは増えていく。「毎月7兆円の長期国債を買い続けていることで日銀のバランスシートは膨らみ、どこかで大損をするリスクはほぼ必然だ。事実上マネタイゼーションをやっているので、市場もいつ反乱を起こすか分からない。深追いして良いことはない」と指摘。

「今はルーレットで勝ってはいるが、掛け金をどんどんつぎ込んでいる状態に近いので、最後に負けたら全てがパーになる。勝っているうちに掛け金を減らし、最後は勝ち逃げするのがルーレットの技だ。太平洋戦争もパールハーバーで止めとけばよかったのに、ミッドウェーでぼろ負けした後もズルズル続けたのであんなことになった」と語る。

しゃにむに達成することはない

早川氏は「もともと量的・質的緩和で本質的なのは2%という目標であって、2年という期限や7兆円という長期国債の買い入れ額は、ある種、皆をびっくりさせるために大きく相場を張って見せたわけであって、本質的なものではない。これらは飾りに過ぎない」という。

その上で、「日銀はデフレとの戦いに勝ったと宣言し、2%はいずれ達成するが、しゃにむに達成することはない。2年というのは行きがかりで言ってしまったが、そこは『御免、まあ、いいじゃないか』と言えばいい。そして、どこかのタイミングでテーパリング、つまり資産買い入れ額の縮小を始めればよい」と語る。

そのタイミングについては「景気弱気論が強くCPIも上昇率が下がっている状況なので、まだ勝負のしどころではない。私の読みが正しければ、年末くらいには景気はまあ大丈夫だったねとなってくるので、そこで堂々と勝利宣言すればよい。マネタリーベース残高を決めてあるのも今年末までなので、年末に打ち出すのがちょうど良い」という。

「物価を1%から2%にしたところで成長率が上がるわけではないことは証明済みだ。実際問題として1%を2%にする一番の近道は円安だし、2%という日銀のメンツを重視するのであれば円安の方がいい。だからこそ、日銀はついつい円安が良いと言ってしまうが、完全雇用の状態で円安の方が良いという理屈はない」と語る。

国民のバランス感覚

さらに、「あまり日銀のメンツを重視するのは国民感情に反する。これ以上円安にしても国民は喜ばない。2年前の円安があれほど歓迎され、なぜ今の円安がこれほど嫌われるかというと、理屈ではなく、国民のバランス感覚だ。それを馬鹿にしてはいけない」と語る。

早川氏は「これ以上やっても損だけ大きくなるという時に大事なことは、メンツにこだわらないことだ。メンツを気にすると負ける。かつての日本もそうだった。『デフレは脱却した。2%に向けて着実に進んでいる。したがって無理はしない』とやれれば、黒田総裁は大役者だ。日銀ボードメンバーの1人を除けば乗れない話ではない」という。

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 日高正裕 mhidaka@bloomberg.net;東京 Chikako Mogi cmogi@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:Brett Miller bmiller30@bloomberg.net淡路毅, 中川寛之

更新日時: 2014/10/15 08:45 JST

 
 
 
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