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JFPA 一般社団法人 日本家族計画協会

機関誌

【第726号】 平成26年9月1日発行(2014年)

9月号の目次   「家族と健康」有料購読の申込みはこちら

1面 ・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ委員会、本会に発足
  ・編集帖

2面 ・健やか親子21全国大会(母子保健家族計画全国大会)に向けて 

3面 ・第37回性教育指導セミナー全国大会(滋賀)開催 他

4・5面 ・子宮頸がん予防、わが国の課題 自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授 今野 良

6面 ・職域保健の現場から<23>健愛クリニック 健診センター千住曙 保健師 菅原美鈴
   ・平成26年度ブロック別母子保健事業研修会のご案内

7面 ・海外情報クリップバーススペーシングと低出生体重児/ハイスクールの生徒の性と生活/十代とセクスティング

8面 ・避妊教育ネットワーク リレートーク <54>神谷レディースクリニック(北海道札幌市)岩見菜々子

 


 

 平成26年度 健やか親子21全国大会(母子保健家族計画全国大会)に向けて

 

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健やか親子21全国大会(母子保健家族計画全国大会)に向けて

 


愛媛県保健福祉部健康衛生局健康増進課母子保健係

 

本年度の健やか親子21全国大会(母子保健家族計画全国大会)を、11月25日㈫~27日㈭の3日間、愛媛県松山市(ひめぎんホール)で開催します。
本年度は、現行の「健やか親子21」の計画期間最終年度に当たり、節目の大会となります。この大会を通じて、母子保健事業および家族計画事業の一層の推進を図ることができるよう、鋭意準備を進めておりますので、今大会の概要についてご説明し、参加のご案内を申し上げます。


◦大会テーマについて
今回の大会テーマは「未来へつなげる!愛顔(えがお)の子育て地域づくり~子どもは地域の宝、母親も地域の宝~」です。
 

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  愛媛県イメージアップキャラクター
みきゃん
 

笑う赤ちゃんを見たとき、人は自然と「笑顔」がこぼれます。そしてその赤ちゃんが健やかであれと願う心の根底には「愛」があります。「愛」と「笑顔」が結ばれて生まれるのが「愛顔(えがお)」です。わが国は少子高齢社会となり、さまざまな社会問題による危機感・閉塞感が漂う中にあって、改めて、子どもと母親を大切にし、父親・家族・地域住民みんなで、子育てに取り組み、応援し、子どもの未来をつなげていくことが大切になっています。子どもと母親を地域の宝とし、「愛顔(えがお)」のみんなが子どもを育てる、そんな地域にこそ未来はあるものと考えます。


◦「子育てハッピーアドバイス」明橋大二氏
11月26日㈬は、特別講演として「子育てハッピーアドバイス~子が宝なら、母もまた宝~」と題して、子育てカウンセラー・心療内科医、真生会富山病院心療内科部長の明橋大二氏にお話しいただきます。
明橋氏は、精神科医ながらも「子育て支援」を強く提唱するスクールカウンセラーとして有名で、その経験を活かして講演や出版活動にも精力的です。著書「子育てハッピーアドバイス」はシリーズ累計450万部を超えるベストセラーとなっており、「笑っていいとも!」「情報ライブミヤネ屋」をはじめ、テレビ出演も多数です。


◦シンポジウム―母子保健と地域づくり
11月27日㈭は、「母子保健の推進と地域づくり~地域で子育てを応援しよう~」をテーマに、シンポジウムを行います。
第Ⅰ部の基調講演では、山梨大学大学院医学工学総合研究部社会医学講座の山縣然太朗教授に、「健やか親子21」の推進に関してお話しいただきます。

山縣教授は厚生労働省の「健やか親子21」検討会委員として、現計画の策定や評価、次期計画に係る報告書の取りまとめに携わっておられます。
第Ⅱ部のパネルディスカッションでは、保健師・栄養士の立場からの地域へのアプローチについて事例発表をするとともに、まちづくりの専門家の助言を入れながら、母子保健の推進と地域づくりの連動について意見交換を行います。
◦皆さまのご来県をお待ちしております
愛媛県は穏やかな気候と風光明媚な山海に恵まれ、観光名所もたくさんあります。大会会場となる松山市は、司馬遼太郎「坂の上の雲」や夏目漱石「坊っちゃん」の舞台であるとともに、俳人正岡子規の故郷でもあり、さらに会場のすぐ近くには日本最古級の温泉である道後温泉があります。
会場では愛媛県イメージアップキャラクターの「みきゃん」が皆さまを歓迎いたします。「みきゃん」は「ゆるキャラグランプリ2014」にエントリーしていますので、ぜひ投票していただいて、会場で会ってください。
全国の母子保健および家族計画関係者の皆さまの多くのご参加を心よりお待ち申し上げます。

 

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健やか親子21全国大会(母子保健家族計画全国大会)ご案内

【主 催】 
厚生労働省・愛媛県・松山市・社会福祉法人恩賜財団母子愛育会・一般社団法人日本家族計画協会・公益社団法人母子保健推進会議
【主な日程】 
11月26日㈬
13時~14時20分式典、

14時40分~16時特別講演

11月27日㈭
9時45分~12時10分シンポジウム
12時40分~14時45分併設開催・家族計画研究集会

【会 場】 
ひめぎんホール愛媛県松山市道後町2-5-1
【問合せ】 
愛媛県保健福祉部健康衛生局健康増進課母子保健係☎089(912)2405


 

 

併設開催
本会主催
 家族計画研究集会 参加者募集中
 

「無月経」「骨粗鬆症」「摂食障害」を女性アスリートの3主徴といいます。
「今しかない!」と青春時代に体を犠牲にしてまでスポーツに励み、後になって体の異変に気付き、後悔している女性は少なくありません。
このように苦しむ女性アスリートをこれ以上増やしたくないとの思いから、本年度は「親として、指導者として知っておいて欲しいこと」をテーマに開催します。スポーツに興じているお子さまや女子生徒たちが、自身の体の健康をスポーツに懸ける思いと同じくらい大切にしてほしいことを、親や指導者がどのように伝えていったらよいかのヒントが得られるものと確信しています。
楽しく過ごした青春時代を、悲しい思い出にさせないためにも、皆さまのご参加をお待ちしております。

【テーマ】 「女性アスリートへの健康支援~親として、指導者として知っておいて欲しいこと~」
【日 時】 11月27日㈭12時40分~14時45分
【会 場】 ひめぎんホール2階  愛媛県松山市道後町2-5-1
【主 催】 本会
【対 象】 保健師、助産師、看護師、医師、養護教諭、看護教員、教職員(特に保健体育)など、または運動部(部活)所属の女性とその親および指導者(顧問・コーチ)など
【定 員】 250人(先着順)、全国大会に参加される方も申込みが必要です。
【参加費】 無料
【主な内容】 「月経との上手な付き合い方」(北村邦夫・本会家族計画研究センター所長)▽「女性アスリートを支援する」(能瀬さやか・国立スポーツ科学センターメディカルセンター産婦人科医)▽まとめ
【参加方法】 本会HPよりお申込みください。
【問合せ】 研修担当 ☎03(3269)4785

 

 

 

 編集帖

▼低用量経口避妊薬(ピル)がわが国で発売されたのが1999年9月2日のことだから、今年でちょうど15年目を迎えている。米国での承認・発売が1960年ということは、米国に遅れること実に40年。世界で最後の承認国となった日本。その日本で、ピルは日本人女性に受け容れられているのだろうか。この間、2008年と2010年には月経困難症治療剤であるLEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン)剤が発売されるなど新しい動きも起こっている。
 

▼私どもが収集したデータによれば、ピルとLEP剤を足し合わせた服用者は推計132万人(2013年)。「第6回男女の生活と意識に関する調査」結果では、わが国の16歳から49歳の婚姻・同棲関係にある女性でのピルの使用率は3・5%。フランス40・6%、オランダ40・0%(2013年国連報告)など他の先進諸国に比べて使用率が低い。
 

▼本会では、ピル発売から本年8月末までに、ピルの普及を目指した医師向けセミナーを全国で35回、コメディカル中心の「指導者のための避妊と性感染症予防セミナー(SRHセミナー)」を116回終えている。このようなたゆまぬ努力の甲斐あってか、「自分の意志で避妊できるピル」を選択する女性は着実に増え続けている。
 

▼その一方で、昨年12月以降、ピルやLEP剤服用に伴う血栓症死亡が話題になり、服用者は言うまでもなくピルを処方する医師の側にも動揺が拡がっている。ピル発売以来の危機的状況にあると言っても過言ではない。
 

▼今後日本人女性はピルやLEP剤を安心、安全に使用していけるのか。9月1日には、これらの疑問に答えるためのメディアセミナーを開催することとしている。(KK)

 

 

 

インタビュー 子宮頸がん予防、わが国の課題

 

子宮頸がん、予防の手を緩めずに

 

 

インタビュー  子宮頸がん予防、わが国の課題

 

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今野氏  

 

自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授 今野 良

 

昨年6月、子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の定期接種の積極的勧奨が中止されてから、1年以上が経過しました。ワクチン接種後に報告された、痛みや運動障害などの有害事象への対応が問題となっています。これらについて厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会では、ワクチン自体との因果関係は乏しく、機能性身体症状であると判断しながらも、厚生労働省での結論が出されていません。一方、この間にHPVワクチンの接種者は激減し、わが国の子宮頸がん予防における、将来への影響も懸念されています。この問題について、長年にわたり子宮頸がんとヒトパピローマウイルス(HPV)の研究・啓発活動に取り組む、今野良氏にお話を伺いました。(編集部)

 

WHOがワクチンの安全声明を提示
まず日本では、世界保健機関(WHO)がHPVワクチンを推奨しているということ自体、一般にはほとんど知られていません。

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世界で2億回も接種されているHPVワクチンの安全性に関する声明が、WHOのワクチンの安全性に関する専門委員会(GACVS)から昨年の6月(図1)と12月、そして今年3月と、3回、出されています。日本で今起きている問題を考慮したうえで、安全なワクチンであること、このワクチンを接種しないことによる将来への懸念を強調しています。
昨年6月14日厚労省は、「適切な情報提供ができないから、いったん勧奨は中止します」としましたが、WHOの安全声明は6月13日、その前日に出ているのです。
世界中の開発途上国の貧しい人々にワクチンを提供しているGAVIアライアンス(ワクチンと予防接種のための世界連盟)という団体をご存知ですか。この団体には日本政府も出資しています。HPVワクチンも、アフリカなどの国々に提供されています。そうしたことも、日本のメディアでは取り上げられていません。

 

登録制度がなく疫学的評価ができない

HPVワクチンについて、英国、米国、オーストラリアなどの政府、WHOあるいは国際産婦人科連合では、「このワクチンは大丈夫」と言っています。日本でこのような問題が起きていることを承知したうえでも、同様の判断です。
なぜそう言えるのかというと、これらの国は、国内でどんな病気がどれだけの数、発生しているかという登録制度を持っているのです。例えば、今回問題とされている機能性身体症状(慢性疼痛・不随意運動)や線維筋痛症、ギランバレー症候群などの発生率が、ワクチンの接種前の時期と接種後の時期で変わっていなければ、これらはワクチンのせいではない、という公衆衛生学的、疫学的評価ができます。
ワクチンの世界には、「紛れ込み」という言葉があります。時間の前後関係で、ワクチンの接種後に起きた症状のようであっても、本来、ワクチンとの因果関係はないという症状です。日本のHPVワクチン接種後に発生しているギランバレー症候群などは、自然発症よりも低い頻度だと分かっています。厚労省がHPVワクチン接種前に調べた調査で、ワクチン接種後のほうが、発生数はひとけた少ないのです。
日本には、がんやワクチン、検診に限らず、全ての疾患の発生を登録するようなシステム、いわゆるマイナンバー制を用いたレジストリ制度ができていません。どこの誰が病気になって、それがどういう頻度で、という登録がなければ、この病気を減らしましょうとか、この病気の予防にはこのワクチン、この病気の対策には生活習慣を変えて、などといった戦略が立ちません。日本はそういう意味で、先進国が持つべき公衆衛生システムの整備が遅れています。

 

検診の恩恵を受けている人はたった25%

子宮頸がん検診の対象年齢は、20歳以上です。「子宮頸がんは、がんという個人の問題なのだから、ワクチンを接種しなくても、検診さえ受ければいい」という意見があるようですが、これは子宮頸がんという病気の真実を知らない方の意見です。しかも残念なことに、現在の検診受診率は2年に1回検診を受けている人で30数%、毎年受けている人は25%です。
一方、子宮頸がんになった人で検診を受けたことがないという人は75%です。つまり、検診は25%の人には何らかの役に立っている可能性があるけれども、75%の人には全く機能していないのと同じです。
日本では、老人保健法により1983年から公費でみんなががん検診を受けられるようになりましたが、30年たっても受診状況は改善しないどころか、むしろ悪くなっています。
1997年に検診費用が一般財源化されて、自治体はそれを検診費用よりも道路や橋に充てるようになってしまいました。さらに、どこの誰が検診を受けているかの把握、前述のレジストリ制度が不十分で、個人宛ての受診勧奨ができないのです。
昨年初め、タイのチェンマイに子宮頸がん検診改善の指導に行きました。この地区では、以前子宮頸がん検診の受診率はほぼゼロでしたが、この3年間で60%になったそうです。なぜかというと、タイには日本にないレジストリ制度があるのです。
検診を受けていないところに看護師や保健師が行って、「ちょっとあなた、今度、検診があるから来なさいよ」と受診勧奨をしながら地域をバスで回って、これまでの未受診者を検診しています。そのバスは、なんと日本が寄付したバスです。
つまり検査の精度はよくないけれども、タイのほうが日本よりもはるかにいい制度を持っている、という結論になります。タイでは6割の人が検診を受けて、その恩恵に浴しているわけですから。

 

制度の不備のしわ寄せが社会的弱者に

日本は結局、がん検診の受診率を上げられないでいます。メタボ健診は医療保険者に検診を受診させる義務があり、とにかく「受けろ、受けろ」といろいろ対策を行っています。ところが子宮頸がんに限らず、がん検診はどこにも受診させる義務・責任がありません。
さらに言うと、自治体のがん検診の受診率の分母(対象)は、国民健康保険の人たちです。社会保険の人は、職場で受けなさいということになっています。でも、職場で子宮頸がん検診を行っている会社・保険組合は、5%もありません。そのほか、非正規雇用、パートタイムで働く人がたくさんいるわけですが、この人たちには、どこからも救いの網がかかりません。
検診というのは、そもそも受診率が高くなければならないのです。英国のように、みんなに招待状を届けて、それでも受診しなければ、2度目、3度目の受診勧奨レターを届けて検診に連れて来るというシステムまで整えていなければ、そのしわ寄せは必ず、健康意識が乏しかったり、生活に困っていたりする社会的弱者に、進行がんや死亡という形になって現れてくるわけです。

 

がん検診受診率向上の仕組みづくりを

英国やオーストラリアでは、英語の読めない人たちのための他言語のパンフレットが10も20もあります(写真1)。招待状の届かないホームレスの人には、食事を提供する教会などに行って、その人たちを「検診に行こう」と連れて行きます。

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写真1 オーストラリアのHPVワクチンの案内  

オーストラリアには、先住民のアボリジニの人たちがいます。英語が読めず、別の文化で生活をしていて検診を受けないために、がんの発生率が高いそうです。アボリジニの人口は本当に少ないのですが、それでもアボリジニ用の紙芝居などを作って、アボリジニで英語を話せる人と一緒に、「検診を受けよう」と受診勧奨をしています。
翻って日本では、そこまでのことをやっていません。国が予算を決めて、都道府県が枠組みを決めます。あとは、市区町村に任せきりの状態です。医療行政が指示を出すだけで止まっていて、末端まで届ける仕組みが整備されていません。さらに、末端の個人レベルまでそれが動いたかどうか評価する仕組みもありません。
個人の女性のレベルで言えば、検診を受けに行くかどうかを決めるのは、「検診を受診しましょう」と言われたか、言われていないかが一番大きなファクターではないでしょうか。でも、それを評価する仕組みがどこにもないわけです。

 

将来の健康格差を生まないように

一方、ワクチンの必要性について検討するとき重要なのは、それがどんな病気で、そのワクチンを接種しないとどのくらい問題が発生して、接種するとどのぐらいその問題が解消されるかということです。
例えば、HPVワクチンと同じ時期に定期接種になった肺炎球菌やヒブのワクチンで言うと、ワクチン導入前に髄膜炎で亡くなる子どもは、日本で年間数十~100人程度でしたが、定期接種開始後、その数は激減しています。一方、子宮頸がんはワクチン導入前の状態では、年間3000人亡くなっています。39歳以下では200人、44歳以下では400人の女性が亡くなっているのです。これらの年齢は、肺炎球菌やヒブのワクチンを受ける子どものお母さんに相当するわけですが、この死亡者数は驚くほどに多いと思います。
ワクチンを子どものときに接種する意義は、子どものときのほうが大人に比べて生活のばらつきが少ない、つまり社会的、経済的格差が少ないということです。親は自分の子どもが病気になったらかわいそうだし、がんにかからせたくないと思うから、予防接種に連れて行くわけです。
本来は、HPVワクチンは学校で集団接種するほうが効率的なので、英国やオーストラリアでは学校接種です。中学校には、ほとんどの子どもたちが来ているわけですから。ワクチンによって、将来、どんな生活レベルであっても、検診を受ける余裕がないといった、社会的弱者をセーフティネットで救うことができます。

 

7割の人が接種すれば集団免疫効果が出る

「HPVワクチンは個人防衛のワクチンである」と言う人がいます。「がんは個人の問題だ」と。それも間違っています。がんの多くは、直接の原因がまだよく分かっていません。例えば、肥満という生活習慣で発生するものは、個人の問題と言えるかもしれません。
しかし子宮頸がんは、HPV感染によって起こると原因がはっきりしています。個人の生活習慣によって起こるわけではありません。毎日生活している集団において感染が起こるのですから、その地域、あるいは国全体のHPV感染を予防するために、ワクチンを接種しましょうということです。
昨年、一昨年に、風疹の流行による先天性風疹症候群の新生児が多数発生したことは、記憶に新しいと思います。これなどは典型的な例で、集団における感染率が高くなるとこういう悲劇を生むことになり、その予防にはワクチンしかありません。子宮頸がん予防のためのHPVワクチンも全く同様の考え方です。
そこで問題になってくるのは、ワクチンの接種率です。接種率が高ければ高いほど、集団免疫効果が出てきます。例えば100万人いて、全員がワクチンを接種するということはあまりないかもしれません。けれども70%の人が接種すると、残り30%の人は接種していなくても、その100万人の集団でHPVに感染している人がいなくなるので、残り30%の人は、その集団にいる限り救われるのです。

 

オーストラリアでは男子にもワクチンを接種

HPV感染は、男女間で行ったり来たりしています。そこでオーストラリアでは、昨年2月から男女にワクチンを接種しています。かつては、女子だけをワクチン対象として接種率が7割以上になれば、女子がHPVを持たなくなるので男子にうつすことがなくなるから、子宮頸がんの予防は、理論的にはそれだけで足りるといわれていました。
でも、ジェンダーニュートラルや教育の観点から「男子にもワクチンを接種したら」との声もよくあります。従来は男子にも接種すると費用が倍になり、医療経済的に採算が合わないという計算でした。でも子宮頸がんだけでなくHPV感染が原因となるその他の疾患、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がん、尖圭コンジローマの予防まで全部ひっくるめると、医療経済的にも採算が合うというデータが出てきました。それでオーストラリアでは、男女に接種することになったんです。米国でも同様の勧告が出ています。

 

HPV感染を防ぐワクチンの効果

「ワクチンを接種しても、効果が長続きしないのではないか」と言う人もいます。HPVワクチンは2価と4価、両方とも出てから約10年たちましたが、10年間は完璧に効いています。HPV16型、18型に関しては、ほぼ100%の効果が出ています。
日本の集計ではHPV16型、18型が子宮頸がん全体の70%を占めるので、7割のがんは予防できるということです。20代、30代で言うと85%が、20代では90%が、HPV16型、18型によるものです。ということは、今、子宮頸がんが増えている20代、30代のHPV感染のほとんどは、ワクチンを接種していればなくすことができるということです。
最初にHPVワクチンが出たときには、厚労省により6・4年だけの効果が示されましたが、これから先の効果は、時がたてばたつほどはっきりしてきます。最低でも、20~30年、あるいは生涯にわたり免疫が持続される可能性もあります。
ワクチン接種から6~7年を経過した英国やオーストラリアでは、接種世代の女性が成人して検診を受けた結果、明らかに初期子宮頸がんや高度前がん病変の減少効果が現れてきました。

 

慢性疼痛に悩む子どもの存在が明らかに

思春期の子どもに限らず、痛みや不随意運動で苦しんでいる人々はなかなか診断がつかず、適切な治療を受けることが難しいようです。同じ症状が常に出ている場合、例えば右の脳に異常があるから、左半身が動かないというときは、何か器質的な問題があると分かります。ところが、昨日は痛いけれど今日は痛くない、昨日は倒れるけど今日は倒れないというのは、器質的な問題ではなく、機能性症状だと判断されます。世の中にそういう症状で苦しんでいる子どもたちが相当数いるということが、HPVワクチンを接種するようになって、あぶり出されました。
2012年までに、HPVワクチンの接種率は約70%になりましたから、およそ300万人の女子にワクチンが接種されています。この中で、因果関係は別として、機能性身体症状の発生数は10万接種当たり1・5件です(表1)。ワクチン接種前の時期にどれだけの発生があったかは、前述のようにレジストリ制度のない日本では、さかのぼって調べることは不可能です。

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機能性身体症状で、原因がはっきりしないけれども、ともかく「痛い」という人たちの治療について、日本は遅れています。大切なのは、心と体の両方からアプローチするということです。
まず、精神科や心療内科など、心を診療できる科を受診してもらう。そして、適切なカウンセリングや認知行動療法と共に、痛み止めは整形外科や麻酔科、リハビリはリハビリ科というように、学際的にみんなで治していくということです。
それを心へのアプローチをせずに、体の症状ばかりにこだわっていると、いつまでも、検査漬け、薬漬け、そのうち「嫌だ、治らない」となります。しばらくしてから、「これは精神的なものもあるかもしれませんから、精神科へ行きませんか」と言われると、「絶対に嫌」となります。さらに「家族内の葛藤があった」などと言われると、保護者は「子どもがこんなになっているのは、私のせいだというわけですか?」。そうなると、もうその医療機関には行きません。しかし、機能性身体症状は誰にでも、どの家庭にでも起き得ることなのです。

 

 

将来の家族と健康のために

 

機能性身体症状には包括的な取り組みが必要
普通に生きていることで受ける日常のさまざまなストレスが、精神面に現れたものがうつ病であることは、既に皆さんご存知だと思います。一方、自分で解決できないストレスが身体面に起きてしまうのが、機能性身体症状です。しかし、最初は機能性だといっても、痛いからと長い間体を動かさないでいたりすると、今度は手足が固まって、機能性が器質性になっていきます。それを早く治さねばなりません。
現在、こうした慢性疼痛に対処できる早期診断・早期治療のためのシステムを、学会などと厚労省が一緒になってつくっているところです。
思春期の女子に対するプライマリ・ケアとして、ワクチン接種の有無や因果関係にかかわらず、そういった機能性身体症状に苦しむ子どもは、多くは小児科か婦人科に来るわけです。まずはその訴えを受け止めて、悩みを聴くことです。その上で、これは自分たちが診るようなプライマリ・ケアではないと思う場合に、心と体の両方にアプローチする痛みの専門家へ紹介していくようにすれば、現在の問題も解決していくのではないでしょうか。
ワクチンがいい・悪いという話とは切り離して、もっと大きく見て、痛みに悩んで苦しんでいる子どもたちが、相当数いることに目を向けるべきです。機能性身体症状に苦しんで、学校に行けなくなっている子どもたちはたくさんいます。それを救おうという包括的な取り組みが必要です。それは絶対に社会に役に立つことだと思います。

 

「木を見て森を見ず」にならないで

メディアの影響は非常に大きいです。今回、ニュースで流れた衝撃的なビデオ映像で、多くの人がこれはワクチンが原因だと誤解しましたが、HPVワクチンが原因だと検証されたものではありません。しかし、今回、子宮頸がんワクチンが「悪者」扱いされてしまったせいで、「子宮頸がん検診を受けましょう」というキャンペーンも、今、全国的に非常に停滞しているそうです。医療や教育、行政の現場の人たち、そして保護者の方々には、事実を正確に分かってほしいと思います。

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これを機会に、日本も改善すべきところをどんどん改善すべきです(表2)。HPVワクチンの積極的勧奨は当然再開すべきですし、世界のさまざまな優れた仕組みや制度を学ぶべきです。
現在の日本の子宮頸がんワクチンの状況は、「木を見て森を見ず」です。「木も見て森も見る」必要があります。慢性疼痛に苦しむ子どもたちの問題も解決し、将来の家族と健康のために、子宮頸がん予防のワクチンと検診を継続していかなくてはならないのです。(文責・編集部)

 

 

 

 平成26年度ブロック別母子保健事業研修会のご案内

 

平成26年度 ブロック別母子保健事業研修会

 

本会では、各都道府県との共催により、全国でブロック別母子保健事業研修会を開催いたします。母子保健従事者皆様の受講をお待ちしております。

■受講料 無料
詳細はこちら

 

【東北・北海道地区】
〔日 時〕 10月10日㈮9時30分~15時30分
〔会 場〕 青森国際ホテル
〔主な内容〕 行政説明/特定妊婦等に対応するためのリスクアセスメントについて/妊娠・出産包括支援における母子保健活動
〔問合せ先〕 青森県健康福祉部こどもみらい課家庭支援グループ
☎017(734)9303


【関東甲信越地区】
〔日 時〕 11月18日㈫9時30分~16時
〔会 場〕 群馬会館
〔主な内容〕行政説明/HTLV―1キャリア妊婦への支援/乳幼児健診事業の評価方法について/妊娠、出産適齢期と安全なお産のための保健指導
〔問合せ先〕群馬県健康福祉部予防課母子・歯科保健係
☎027(226)2606


【東海北陸近畿地区】
〔日 時〕 10月31日㈮10時~16時30分
〔会 場〕 ウィルあいち
〔主な内容〕 行政説明/思春期の性の問題について/地域保健における虐待予防/パネルディスカッション・質疑応答
〔問合せ先〕 愛知県健康福祉部児童家庭課母子保健グループ
☎052(954)6283


【中国・四国地区】
〔日 時〕 10月15日㈬10時~15時30分
〔会 場〕 鳥取県庁本庁舎
〔主な内容〕 行政説明/豊かなこころと性を育む思春期教育/母子保健活動における発達支援
〔問合せ先〕 鳥取県福祉保健部子育て王国推進局子育て応援課母子保健担当
☎0857(26)7572


【九州地区】
〔日 時〕 10月24日㈮10時30分~15時30分
〔会 場〕 福岡県吉塚合同庁舎
〔主な内容〕 行政説明/母子保健と感染症
〔問合せ先〕 福岡県保健医療介護部健康増進課
☎092(643)3307


【北海道単独】
〔日 時〕 10月2日㈭9時30分~16時
〔会 場〕 札幌市男女共同参画センター
〔主な内容〕 行政説明/若年者への避妊指導の実際/若者の性の現状と関わり方
〔問合せ先〕 北海道保健福祉部子ども未来推進局子育て支援グループ
☎011(231)4111

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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