資源管理で利益をあげる
ペルーのアンチョベータ漁業


永野一郎 (ながの・いちろう)  日本水産株式会社中央研究所

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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ペルーのアンチョベータ(カタクチイワシ科)は世界最大級の水産資源だ。この資源は、沿岸域の小規模な零細漁業と沖合で大規模に操業する商業漁業によって利用されている。2つの漁業のうち商業漁業には、2009年に個別漁獲枠方式が導入された。その経緯と後の変化に注目しよう。

 かつてペルーでは、15年もの間、アンチョベータ漁業が低迷したことがあった。環境要因で急減した資源を獲り続け、資源の回復を妨げたことが原因だ。このような経験を基に、ペルーは資源を守ることに取り組むようになった。未成魚は獲らないようにし、科学的根拠に基づいて漁獲量に上限(TAC)を設けたのだ。水揚げに占める未成魚の割合が増えた10年には、漁期を途中で打ち切った(下グラフ参照)。資源悪化の兆候が表れた12年には、前年比68%減という大幅なTACの削減を実施し、資源の早期回復をうながした(下のグラフ参照)。これらの取り組みに対する国際的な評価は高い。

 しかし、資源を守ることに注力する一方で、漁業は疲弊していた。限られたTACを早い者勝ちで争うオリンピック方式で管理されていたためだ。人より早く多く獲ることを目指す漁業者たちは、漁船能力を高めるために投資を重ねた。1日に水揚げされる量が増え、年間の操業日数は少なくなった。陸上の加工業者も、一度に大量の水揚げを処理できるよう、加工能力に投資を繰り返した。その結果、漁業でも加工でも生産コストは増え続け、経済的に追い込まれるようになった。

 そこで導入されたのが、各漁船にあらかじめTACを配分する個別漁船漁獲枠方式(IVQ。IQ方式の一種)だ。各漁船の漁獲量は限られるが確実に保証される。魚をめぐって争う必要はなくなり、過剰投資の抑制も期待できる方法だ。

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