特定秘密保護法の運用基準などが閣議決定された。施行は十二月十日だ。政府の裁量で秘密指定の範囲が広がる恐れなど心配の材料は尽きない。国民の「知る権利」を脅かす法には反対し続ける。
国家機関が情報を隠したがるのは、護衛艦「たちかぜ」の乗組員の自殺事件でよくわかる。海上自衛隊内でのいじめが原因だった。訴訟で、存在するはずの文書を海自は「ない」と言い張ってきた。
内部告発者が現れたことで、海自はついに大量の文書を提出せざるを得なくなった。今年四月の判決で、東京高裁は自殺した乗組員の遺族に対し、高額な損害賠償を支払うよう国に命じた。
裁判の過程で、遺族側が求めた文書提出について、国は「訓練の状況を公開すれば、わが国の防衛活動の具体的内容を他国に知られ、欠点も明らかになる」などと述べて、応じなかった。とくに「わが国を防衛する任務に困難を来す結果を招くことは自明の理」と意見書に記してもいた。
結果的にこれらの文書はオープンになったが、驚くべきことに、どこにも「防衛に困難を来す」事実など書かれていなかった。秘密とされていたものが、秘密にも値しないことが裁判で暴露された事例といえる。特定秘密保護法は、こんなお役所体質にさらに拍車をかけるのではなかろうか。
官僚の裁量で秘密指定をする−、恣意(しい)性が働く点が危険といえる。運用基準では「必要最小限の情報を必要最低限の期間に限り指定する」と記された。だが、これも留意事項である。
法本体では「国の安全保障に著しい支障を与える恐れがある情報」を特定秘密としている。「何が秘密か、それも秘密です」という状況下では、「必要最小限」という留意事項が守られるか疑わしい。「安全保障に支障を与える」という言葉が闊歩(かっぽ)し、秘密の世界を拡大してしまうのではないか。
チェック機関として、内閣官房に「内閣保全監視委員会」、内閣府に「独立公文書管理監」と「情報保全監察室」が設けられる。
しかし、行政機関の「長」が指定する特定秘密について、行政機関の“手足”が本当に独立して監視できるのか。怪しいものだ。
法の成立時には多くの野党が反対に回った。国民の間にも不安が残っている。自民党総務会内でも懸念が相次いだほどだ。国会ではいま一度、法の根本から議論すべきテーマだと考える。
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