洞窟壁画、世界最古か 手形4万年前と測定 南スラウェシ州マロス県 (2014年10月10日)
インドネシアとオーストラリアの合同研究チームは9日、南スラウェシ州マロス県の洞窟壁画が少なくとも約4万年前に描かれたとの調査結果を英科学誌「ネイチャー」(10月9日号)に発表した。インドネシアが人類の芸術における発祥地の一つだった可能性が浮上した。(吉田拓史)
■ イ・豪チームが発表
マロスの洞窟壁画は1920年代にスイス人自然科学者のフリッツ・サラシン、ポール・サラシンが発見した。インドネシア人研究者が1950年代に壁画を確認したが、報告書が作成されないままだった。周辺の洞窟にも同様の壁画があったが、保存の状況がひどく、年代測定が難しかった。唯一状態のいいマロスの壁画も1万年程度前のものとも考えられていたという。
論文によると、マロス洞窟には、壁に手を押しつけて、顔料をふりかけたとみられる手形12点、イノシシに似たスラウェシ島の動物バビルサの絵2点がある。壁画は「洞窟のポップコーン」と呼ばれるサンゴ状鍾乳石で覆われていた。チームは絵画の表面に付着した「ポップコーン」を放射年代測定にかけ、手形は3万9900年前に描かれたと確認した。
■文化興った可能性
この測定法では最も新しい年代のみ特定するので、より古い時代のものである可能性がある。マロス県の東隣、ボネ県から連なるカルスト地形を含め、一帯で洞窟壁画の文化が興っていた可能性もある。
これまで世界の洞窟壁画で最古とされていたのは、スペインのエルカスティーヨ洞窟の手形。3万7300年前に描かれたという。だが、論文は「欧州の事例で埋め尽くされた洞窟壁画の始まりに関する現在の思考に含意を加えることになる」と主張している。
ネイチャーによると、英国のサウサンプトン大学のアリステア・パイク教授(考古学)も「アジアに豊かな未発見の情報が残されていると示した」と歩調を合わせており、洞窟壁画の調査がアジアで拡大する大きな一歩になり得る。
研究チームに参加したマカッサル文化遺産保護センターのムハンマド・ラムリ氏は「80年代初期は洞窟壁画がたくさんあったが、すでに多くが損傷してしまった」と話した。
洞窟壁画 人類が文字を使う前の時代に洞窟、岩壁に描かれた壁画。馬、牛などの動物や手形、幾何模様などがモチーフ。1万5千年前に描かれたとされるフランス西南部のラスコー洞窟壁画など、発見された壁画はほとんどが欧州にある。人類学は壁画を抽象的思考や創造性の始まりとみなしており、芸術の原初的なものとする。