2014年10月10日(金)

会議のウトウトには意味があった!

PRESIDENT 2014年9月1日号

著者
Brigitte Steger ブリギッテ・シテーガ
ケンブリッジ大学東アジア研究所准教授

1965年、オーストリア生まれ。ウィーン大学日本学研究所にて睡眠に関する研究で博士号を取得。同論文で2002年度オーストリア銀行賞受賞。著書に『世界が認めたニッポンの居眠り』ほか。

ケンブリッジ大学東アジア研究所准教授 ブリギッテ・シテーガ 構成=唐仁原俊博 図版=作成平良 徹 撮影=宇佐見利明
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ダリ、湯川秀樹がうたた寝から得たインスピレーション

こうして居眠りに関するテクニックばかり並べると、居眠りはごまかすべきものと思われるかもしれない。しかし、居眠りは昔から、昼寝や仮眠とは異なる効能があるとされている。例えば居眠りにはひらめきの効果があるという説は、かつてのマイナスイメージが転じて広く受け入れられているし、その根拠となるエピソードもまた数多く存在するという。

シュルレアリスムの代表的作家として知られるサルバドール・ダリは、金属製の皿の上にスプーンを握った手をかざして目を閉じた。眠りに入った途端にスプーンが手から落ち、カチャンと音を立て、目が覚める。一見すると芸術家の奇行にしか見えないこの行為は、深い眠りに入るまえに覚醒を促す。彼はこの強制的な居眠りからインスピレーションを得て、数々の作品を生み出した。日本人にとってはなじみ深い物理学者である湯川秀樹もまた居眠りを有効活用した。湯川の最大の功績とされる中間子理論が誕生したのは、彼がうたた寝をしていたときだという。

これらは何も偶然ではなく、医学的に説明がなされている。脳の機能は各部位に局在しており、右脳と左脳は互いに異なる機能を担当しているとされる。例えば左脳は言語的思考を担い分析的に働くが、右脳は空間的・映像的に働くというような具合だ。居眠りしているときの脳波を調べてみると、左脳が活動を休止している一方で、右脳は活発に活動している。長らく左脳を悩ませた難題に対して、居眠りにより活性化した右脳が解決策を提示するのだ。

このように仮眠・昼寝と居眠りには、社会的側面と効能の双方において大きな違いがある。そして会議中のウトウトは、少ない睡眠時間を補っているわけでも、さぼっているわけでもない。思いもよらないアイデアを生み出すゆりかごなのだ。

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