2014年10月10日(金)

会議のウトウトには意味があった!

PRESIDENT 2014年9月1日号

著者
Brigitte Steger ブリギッテ・シテーガ
ケンブリッジ大学東アジア研究所准教授

1965年、オーストリア生まれ。ウィーン大学日本学研究所にて睡眠に関する研究で博士号を取得。同論文で2002年度オーストリア銀行賞受賞。著書に『世界が認めたニッポンの居眠り』ほか。

ケンブリッジ大学東アジア研究所准教授 ブリギッテ・シテーガ 構成=唐仁原俊博 図版=作成平良 徹 撮影=宇佐見利明
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日本にはなぜ、居眠りがあふれているか?

私が初めて日本を訪れたのはちょうど25年前。当時の日本と現在の日本ではさまざまな社会環境の違いがあるが変わらないものもある。そのうちの一つは、日本人はさまざまな状況で居眠りをするということだ。私が日本に来て最も衝撃を受けたのは電車で居眠りする人の多さだった。

もちろん日本以外の国でも、公共交通機関で居眠りする人はいるが、日本における居眠り率の高さは諸外国とは比べものにならない。電車をはじめとする公共交通機関以外にも、劇場やカフェ、ディスコ、学校での授業中、国会での審議中、観光のために乗ったはずの遊覧船の中で、しかも立ったまま眠っているという光景すら見受けられる。

日本は安全な国だといわれており、私もそれを肌身で感じている。不安を感じないこと、安心していられる状況があることは、快適な眠りのための、最低限かつ最大の要因だ。とはいえ、治安がよければ自動的に睡魔に襲われるという仕組みを人間が備えているわけではない。電車での居眠りを例に考えても、実際にスリや痴漢の被害にあう機会がほとんどないからこその光景だといえるが、それを居眠りの理由とするのは論理的に十分ではないのである。

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大人の一日の睡眠時間の国際比較(時間:分)

こと勤勉さにかけては他の追随を許さぬ日本人の睡眠時間は、世界的に見て短い部類に入るというデータがある。だから足りない睡眠を補うためだとか、仕事で疲れ、通勤時間も長く、その間特に何かする必要もないから眠るのだという意見は、確かに東京をはじめとする大都市圏のサラリーマンには当てはまるだろう。しかし、眠っているのは何もサラリーマンだけではない。地方の路線であろうと、またどの時間帯であろうと、眠っている人は確実に存在する。いったいなぜ、これだけたくさんの居眠りが日本にあふれているのか。

昼寝といえば、スペインのシエスタを連想する人は多いだろう。日本ではあまり知られていないが、台湾にも似たような風習が存在する。学校では昼食後に昼寝をする時間が設定されているし、企業ですら昼寝をすることが一般的なものとして受け入れられている。この時間帯には、オフィスの電気は消され、皆が机に突っ伏して眠るのだ。このような状態のオフィスに電話をかけても誰も出ないし、誰かが応対してくれたとしても、社会人として非常識であるというレッテルを貼られる。

これは昼寝が当たり前のものとして根付いている文化圏の話だが、ほかの地域でも昼寝の効用が声高に叫ばれるようになってきている。ペンシルベニア大学の心理学者デビット・ディンゲスは30分程度の昼寝を「パワーナップ」と命名。就業時間中に仮眠を取ることで、かえって集中力が増すとされ、日本でも制度として取り入れる企業が散見される。

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