海の中というのは過酷な状況です。そもそも周りは塩水だらけ。水圧もかかります。そういう環境化、長寿命で高品位な発光ダイオードを開発できれば、それ自体が地上での使用に当たって高スペック商品として競争力を持つ。
海中集魚灯は大規模な網を使った漁業で、毎回多数の集魚灯を使うそうですが、その電球と電池の交換頻度はそのまま人件費に跳ね返ってくる。また逆に海中集魚灯市場は小さなものでなく、すべてがLED商品になれば大きな売り上げも立つ・・・といったビジネスライクな話とともに、UCSBの担当者は「海中廃熱」について言及しました。
「白熱灯を用いた海中集魚灯とLEDとで、率直にいって漁獲率に違いはない。コストは大幅に安くなる。しかしそれ以上に重要なのは環境への影響だ。白熱灯は膨大な廃熱を海中に捨てているので、それがたび重なった時、海中の生態系にどういう変化があるか、その影響を私たちはまだ知らない。がLEDに置き換えれば、廃熱は無視できるほど小さくなるので、直接的な漁労以上に生態系に与える影響はミニマムに押さえられる。このエコロジーの観点こそが、私たちが白色LED集魚灯を重視するゆえんなのです・・・」
ざっとこんな話をされ、その精緻な理論構成に感心したものでした。印象深かったのは、こうしたイノベーションの推進をUCSBつまりカリフォルニア大学サンタバーバラ校自体が率先して行っていたことです。
私は東京大学の代表者としてこれに参加していましたが、日本の大学でこうしたことがきちっと取り組まれるには、根本的な体質改善が必須不可欠と思わざるを得なかった。
それは、約10年を経た2014年の日本でも、あまり変わりがないのではないか?とも思うのです。
この話をJBpressに書くつもり、とツイッターに記したところ、徳島県がLED集魚灯について調査していると情報を寄せてくださる方がありました。ありがたく使わせていただきたく思います。
2010年の日付ですので私がサンタバーバラに行った5年後、徳島県ということから日亜化学工業の地元で中村さんと点と線でつながるように思いますが、ここでは「省エネ」とか経費が安いとか電球の交換頻度といったことに一通り触れるとともに、サンタバーバラで最も誇らしげに語られていた、
「白熱灯で懸念される海洋環境に与える負荷:廃熱が少ない」
という点には全く触れられていません。この欠如と、今現在メディアに出ている「日本人がノーベル物理学賞」で報道される内容(で抜け落ちている「環境への配慮」)、あつらえたように一致しているわけですが、まさにそここそが、ノーベル委員会が今回の受賞理由として明記している最大のポイントになっていることに、気づかない人が多いことを懸念しています。
当然評価されるべき仕事がノーベル賞を得た。関係者には心からお祝いをお伝えするとともに、何が評価され、また特に若い世代の人、日本社会はここから何を学ぶべきか、については、十分考える余地があると思う次第です。
【伊東乾さんのノーベル賞に関する論考をまとめています。こちらもあわせてお読みください!】
・「赤崎氏、天野氏、中村氏がノーベル物理学賞受賞、JBpressのノーベル賞記事を一気読み」