例えば航続時間8時間の爆撃機や巡航ミサイルをコンピューター制御したいのに、その電子頭脳であるコンピューターが真空管でできていて、30分に1個は球が切れる、では兵器として使い物にはなりません。
第2次世界大戦直後、AT&Tベル研究所でトランジスタが実用化される背景には軍事的必然性がありました。事実、固体素子を用い長時間安定した電子制御が可能になって、急速に大陸間巡航ミサイル網は充実、いわゆる「冷戦」期を確実に準備した基盤技術の1つがダイオードなどの「固体スイッチング素子」にほかなりません。
これとほぼ同様のことを、私たちはつい最近、日本の交通信号機で経験しています。ほんの少し前まで、信号の灯りは電球が取りつけられていました。それが現在ではLEDに改められた。ちなみにこの原稿はアムステルダムで書いていますが、欧州ではまだ電球の信号機を目にします。
最初に書いた通り、電球の寿命はLEDとは比較にならないほど短い。と言うことは、かつては信号の電気の球も、頻繁に交換していたに違いないのですが、そういう風景をあまり多く目にした記憶がありません。
ともあれ、信号燈にLEDを用いれば「灯りの交換頻度」は100分の1程度で済み、経費も安く、また交換のたびごとに交通を遮断する必要などもなくなります。単に素子の寿命という以上の大きな意味がある。
真空管コンピューターで大陸間弾道弾が制御できなかったように、部品の寿命やスペック1つでシステム全体の成否が分かれることは珍しい現象ではありません。
そういう大本の問題意識に端を発した、基礎的な研究としても「発光LED」の業績は深く斟酌すべきものと思います。
白色LEDを用いた海中集魚灯
2005年の夏、私は中村修二さんの在籍する米カリフォルニア大学サンタバーバラ校に2週間ほど滞在したことがありました。地球持続性=グローバル・サステナビリティに関する国際プログラムに大学の派遣で参加したものでしたが、そこで中村さんのプロジェクトの1つをつぶさに見る機会がありました。その話を最後に記したいと思います。
知った当初は意外に思ったのですが、そのプロジェクトは「海洋技術開発」の部署が担当していました。
グローバル・サステナビリティつまり地球環境維持の問題で海洋技術開発、はよく分かるのですが、そこに中村修二氏と発光ダイオードとはなぜでしょうか。このとき中村氏は不在でお目にかかることはありませんでしたが、担当者の話を聞き、即座に納得がいきました。
彼らが開発していたのは「白色発光ダイオードを用いた海中集魚灯」の開発と、実際の漁労での試験応用などの実験だったのです。