ササニシキはなぜ消えたのか?

米離れの時代でも味をめぐる品種競争は激化

2014.10.10(Fri) 佐藤 成美
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 さらに、アミロースの含有量を変化させて、加工性を向上させた米が開発されている。「ミルキークイーン」や「スノーパール」は、コシヒカリとは異なった非常に粘りの強い低アミロース米だ。これは、うるち米に突然変異を起こさせて、アミロースの含量を5~15%まで低くしたもの。「うるち米」でも「もち米」でもない「新形質米」として分類されている。強い粘りは、団子など米菓の原料に向いており、また、冷めてもぱさぱさになりにくいので、弁当やおにぎりなどの外食用に適している。

 一方で「ホシユタカ」「夢十色」など、アミロースの含量が20%以上の高アミロース米も開発されている。ねばりはなく、ピラフやリゾットなどの米料理に向いている。試験用にわずかしか栽培されていないが、高アミロース米は栽培しやすく、収量が高いという利点もあるので、新たな利用法が考えられている。

 農研機構食品総合研究所は、高アミロース米からゲル状の新規食品素材を作る技術を開発した。米を粉にせず、粒のまま炊飯し、撹拌するとゲル状になる。加える水の量や温度、撹拌速度を変えると柔らかいゼリー状から弾力のあるゴム状にまでなり、なめらかなクリームやペースト、油を使わずにサクサクのパイやシュークリームを作ることができるという。なぜゲルができるのかは解明されていないが、米の新たな可能性に期待が大きい。

自分好みの米を探してみよう

 日本人にとって、米の魅力は、魚でも野菜でもどんなおかずにも合うこと、そして飽きないことにある。食べ物のおいしさの要因には一般的に味や香りが挙げられる。

 もし、米の味や香りの個性が強すぎたとすれば、おかずを引き立てることができないし、すぐに飽きられてしまうだろう。むしろ米のおいしさには、粘りや硬さなどの物性が大きく関与しているのである。

 米の品種や生産地が重要なのは、品種によって粘りなどの特徴が異なるから。さらに産地によって環境や栽培条件が変わり、特徴の現れ方が違ってくるからだ。米の食味には個性がある。新米の季節、いろいろな種類を味わい、自分好みの米を探してみたい。

【日本人の食生活の変化はこんなところにも。】
・「果物を食べなくなった日本人
(2014年9月5日、佐藤 成美)

【お米についてはこんな話も。あわせてお読みください】
・「収穫50%増!多収イネの遺伝子を突き止めた
(2011年5月20日、漆原 次郎)
・「多収量イネは『第2の緑の革命』を実現できるか
(2011年5月27日、漆原 次郎)
・「あったら嬉しい!コメ農家が喜ぶITシステムを教えます
(2014年9月5日、有坪 民雄)

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サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。


食の安全に対して国民の関心が高まっている。国民が健康を意識しているのはもちろんだが、今後、安全で美味しい食の供給国としての日本を考えた時にもこの問題は重要になる。このコラムでは、日本や世界における食の安全への取り組みを様々な角度から取り上げていく。