ササニシキはなぜ消えたのか?

米離れの時代でも味をめぐる品種競争は激化

2014.10.10(Fri) 佐藤 成美
筆者プロフィール&コラム概要

 ササニシキはソフトな粘りとおかずを引き立てる上品な味に定評がある。気候や土壌などの栽培条件が適切ならば最高の品質となるが、寒さやいもち病に弱く、品質は天候に大きく左右される。そのため、93年の冷害以降、寒さに強いひとめぼれに作付けがシフトしてしまったのだ。

 コシヒカリもササニシキも親は同じ。「農林1号」と「農林22号」を交配したものだ。さらにルーツをたどれば、伝説の品種「亀の尾」と「朝日」の後継だ。この2品種は明治時代に「東の亀の尾、西の朝日」と名を轟かせていた。コシヒカリもササニシキもその血を継ぐが、粘りと甘味のコシヒカリ、ソフトな粘りで上品な食感のササニシキと形質が二分された。

 最近の消費者は、あっさりとしたササニシキより粘りの強いコシヒカリを好むように移り変わり、人気が集中した。いま出回っている米もコシヒカリを交配した品種が多い。

 しかし、ササニシキのほど良い粘りは寿司のしゃりに適していると、寿司屋から根強い人気がある。ササニシキ誕生の地である宮城県古川町ではササニシキに人気を復活させようと生産の拡大を図っている。

粘り気が米の特性を決める

 コシヒカリの人気のもとである粘りは、米に含まれているデンプンの性質で決まる。デンプンは、「アミロース」と「アミロペクチン」という構造が少し異なる2種類から構成されている。

 アミロペクチンは吸水性が高く、多く含むほど粘りが強くなり、冷めてもぱさぱさになりにくい。私たちが普段食べているうるち米のでんぷんはアミロペクチンを65~85%含んでいる。粘りの強いもち米のでんぷんはアミロペクチンが100%だ。

 アミロース含有量が低いほど、相対的にアミロペクチン含有量が高くなり、粘りが強くなる。そのため、アミロース含有量が低いことが粘りなど米の特性の重要な指標となっている。例えば、粘りの強いコシヒカリのアミロース含有量は、ササニシキに比べて低めだ。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。


食の安全に対して国民の関心が高まっている。国民が健康を意識しているのはもちろんだが、今後、安全で美味しい食の供給国としての日本を考えた時にもこの問題は重要になる。このコラムでは、日本や世界における食の安全への取り組みを様々な角度から取り上げていく。