ビットコイン決済は現実のものとなるのだろうかーー国内bitFlyerとcoincheckに聞く
決済ビジネスがやはり面白い。
2009年、スマートフォンシフトの波で生まれたスワイプ式のガジェットでどこでも決済ができる「Square」の登場が、雨後の筍のごとくサービスを生み出したのはご存知の通り。決済インフラの分野でもBrainTreeやStripeといったAPIによる開発者向けインターフェースの提供が注目されている。先日発表された「Apple Pay」も動向が気になるひとつだ。
などなど、ここ数年話題にこと欠かない決済の世界だが、そこにまた新しい流れが生まれてきている。そう、ビットコインだ。
決済の仕組みというよりは投機的なイメージの先行しているビットコインだが、最大級の規模を誇るCoinbaseでは6月に旅行サイト「エクスペディア」での決済にビットコインを導入するなど、通常の社会生活の取引の場面に姿を見せるようになってきている。
投資家たちも注目度は俄然高く、同じく決済を提供するBitpayは5月にリチャード・ブランソン氏らから1億6000万ドルの評価で3000万ドルを調達したというニュースもあったし、Union Square Venturesのフレッド・ウィルソン氏はブログにこんな投票記事を上げてビットコインの利用状況を確かめていた。ーー大小合わせて関連情報は本当に多い。
もし、万が一決済インフラが交代するようなことがあれば経済的なインパクトは底知れない。実際、既存決済の大手Paypalもすでに将来的なビットコインによる決済参入を発表しているし、もし、これまで通してきたクレジットカード会社などを通らずに取引が実現できれば、単純に手数料はPaypalの利益となる。米イーベイ傘下から分離することもこの話題に拍車をかけているように思う。
そしてこの動き、トレンドはやはり敏感な日本の投資家、起業家を動かし始めている。本稿では具体的に動いている2社のスタートアップについて紹介しつつ、ビットコイン決済の課題と可能性について整理してみたいと思う。
決済代行事業者でビットコイン決済はGMOグループが一番乗り
本誌でも公開時に取材したビットコインの「販売所」、bitFlyerが9月22日、GMOペイメントゲートウェイと資本業務提携を実施したというニュースがあった。これに伴い両社ではビットコイン決済サービスを11月に開始するとしている。この話題は少々頭を整理しないと理解することが難しい。
まず、このビットコインでの決済を考える際、「通貨としてのビットコイン」と「決済の仕組み」は分けて考えるべきかもしれない。ビットコインは冒頭にも書いた通り、投機的な意味合いでメディアが煽る傾向が強く、つい最近でも一時期1000ドルを超えた価値も300ドルを切った、戻した、などという話題が出たばかりだ。当然、通貨としては極めて不安定な状態と言える。
では、なぜこれを使った決済、つまり言い換えれば「モノとの交換、取引」に期待が集まるのだろうか。やはりそれはこの通貨が既存の取引機関、つまりは銀行や数多くの代行事業者などの手を通らない極めて特殊なものだからだ。結果として従来かかっていた手数料はどんどん下げることができる。
このビットコインの不安定さというデメリットは既に多く課題として取り上げられていることで、今回bitFlyerとGMOペイメントが開始するサービスにも「加盟店の相場変動のリスクを回避するオプション(無料)」が用意されているという。このスタビライザーを果たす役割が決済代行事業者には求められてくるだろうし、結果的にそれが手数料として跳ね返ってくるはずだ。一種の保険のようなものかもしれない。
11月に開始されるサービスについてbitFlyer代表取締役の加納裕三氏に聞いたところ、具体的にはGMOペイメントゲートウェイを通じて加盟店向けにbitFlyer決済という新しい決済画面が提供されることになるという。決済時にはワンタイムパスワードを入力すれば取引は成立する。なお、決済手数料についてはまだ非公開ということだった。
その他、今回の仕組みでは通常10分ほどかかるビットコイン取引を、bitFlyerが独自に提供する仕組みで短縮するなど、ビットコインそのものが持つデメリットをできる限り最小限に留める工夫をしている。
よりカジュアルなインターフェース提供のcoincheck
既存決済事業者ではなく、完全に独立系としてビットコイン決済に参入しているのがレジュプレスのcoincheckだ。彼らもまた9月19日に日本円対応のビットコイン決済「coincheck for EC」を発表し、既にあるEC事業者で実際に決済サービスとして導入を開始している。
導入希望店はビジネスアカウントを作成し、APIによる連携、EC-CUBEのモジュール組込み、もしくはJavascriptのコードを貼付けることでビットコイン決済を利用開始することができる。なお、1日1万円を超える入出金のある場合は本人確認書類が必要になり、決済手数料1%のみで利用が可能だ。サービス的には店舗向けcoinbaseの影響を強く感じさせる。より詳しく設置をしたい人はこのドキュメントを見ればいいだろう。
さて、GMOペイメントとbitFlyer連合同様、課題はビットコインそのものが持つ変動性だ。レジュプレス取締役の大塚雄介氏に話を聞いたが、まず、大前提として変動リスクについてはやはり同じくcoincheck側が全て負担することになるのだという。具体的にはお客さんがビットコインで1万円の買物をした場合、変動に関わらず店舗側は1%の手数料を差し引いた9万9000円を受け取ることができる。
さらにこの際、coincheck側で換金を済ませているため、店舗側はビットコインを保有する必要はない。
大塚氏によれば、coincheckではビットコイン売買を自動化し、(取引が不可逆になる)ブロックチェーン認証に必要な1時間の変動リスクのみに抑えていることで上記のフローを実現したのだという。さらにこの1時間リスクをさらに抑えるために別のアルゴリズムも組込んでいるという。
ビットコイン決済のメリットとデメリット
国内スタートアップ2社の取組みから見えてくるビットコイン決済のメリットは決済手数料の自由化、デメリットはビットコインそのものが持つ様々な制約であることが浮かび上がってくる。
この制約には取引が成立するまでの時間的なもの、法律による社会的なもの、技術的な安全性によるもの、そしてこれが一番大きいかもしれないが、普段の生活で私たちがまだ使ってないことなどなど、本当に多岐に渡る。
レジュプレス代表取締役でエンジニアとしてこのcoincheckを開発した和田晃一良氏とも話をしたのだが、この「ユーザーがいかにしてビットコインを使ってくれるか」という課題はそう簡単に解けそうなものではなかった。
確かに手数料モデルが再構築され、決済手法によっては10%近くの手数料負担が必要になるため、同じものを購入するにしてもそれをユーザー側にフィーバックすれば買い手、売り手、双方にとってメリットのある取引が実現できるようになる。しかしやはりビットコインの買いにくさというのはまだ残る。
さらに言えば、値上がり期待から物品購入に使うのであればやはり現実通貨を使いたいと思うのが心情だろう。こういう「使わない理由」はこねくり回せばいくらでも出てくる。
しかしその数多くの制約をクリアして余りあるほど、決済事業というのは市場が大きい。そうそう簡単にひっくり返せるものではないし、Paypalが参入を表明したことのインパクトというのはやはりそれほど大きなものなのだ。
既存の決済スキームを再構築することで、決済を変えようというコイニーやWebpayのような動きと、全く新しいビットコインという通貨を活用することで変えてしまおうというbitFlyerやcoincheckのチャレンジ、という見方も興味深い。
いずれにしても、先行きの見えない道こそスタートアップが挑戦すべき場所にふさわしい、そう感じる取材だった。