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発表・掲載日:2014/10/14

「津波堆積物データベース」を公開

-巨大津波に関する地質調査の結果を発信-

ポイント

  • 産総研が行った津波堆積物の調査結果や研究過程をウェブ上で誰でも閲覧可能に
  • 継続的な更新により現在行っている調査の経過を発信
  • 調査地域の方々の防災意識向上へ貢献

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)活断層・火山研究部門【研究部門長 桑原 保人】と、地質調査情報センター【センター長 渡部 芳夫】は、「津波堆積物データベース」を開発し、2014年10月15日から一般に公開するhttps://gbank.gsj.jp/tsunami_deposit_db/

 このデータベースは、産総研が行った津波堆積物調査の結果を、ウェブ上で簡単に閲覧するためのツールとして開発された。現在調査中のデータを逐次公開することで、研究成果を調査地域の方々と共有し、防災意識向上へ貢献することが期待される。

津波堆積物データベースの閲覧画面の画像
津波堆積物データベースの閲覧画面


開発の社会的背景

 2011年3月11日に宮城県沖を震源とする東北地方太平洋沖地震(モーメントマグニチュード9.0)が発生した。このとき、多くの専門家により「想定外」という言葉が繰り返し使われ、全く予想できなかった地震であったとの報道もあった。一方で、この地震が発生する以前に、産総研や国立大学法人 東北大学の研究グループなどによって西暦869年に東北地方で発生した巨大地震(貞観地震)の地質学的な研究がされており、2011年の巨大地震の発生は必ずしも予想できないものではなかったことが注目された。これをうけて2011年9月には、内閣府 中央防災会議の「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」は、今後想定すべき地震・津波について「これまでの考え方を改め、古文書などの分析、津波堆積物や海岸地形の調査などの科学的知見に基づき想定地震・津波を設定し、地震学、地質学、考古学、歴史学などの統合的研究を充実させて検討していくべきである」という趣旨を盛り込んだ提言を公表した。

 こうした社会的な背景の中、巨大地震の証拠である津波堆積物を調べ、過去の巨大地震・津波の発生履歴を調べる研究が以前にも増して注目を集めている。しかし、津波堆積物に関する研究は非常に多くの時間を要し、さらにその研究結果を一般市民に届けるまでには時間がかかっていた。

研究の経緯

 産総研は、津波堆積物に関する地質の研究成果を防災・減災に役立つ基礎情報として整備し、迅速にわかりやすく社会に伝えることで、地域社会の減災に役立てることを目指している。これまで、1990年代後半から2000年代にかけて北海道で行った津波堆積物調査について「津波浸水履歴図」として一般向けに公開してきた。2000年代以降、東北地方や南海トラフ沿いなどで同様の調査を行う過程で、自治体の行政関係者に調査の予定を伝え、さらに市民講演会を開催するなど、調査地に住む市民と調査情報を共有することを常に念頭に置いてきた。しかし、「想定外」とされた震災が発生し、必ずしも今までの取り組みが十分とはいえなかったことを認識した。そこで今回、調査結果をウェブ上で閲覧可能とし、さらに継続的に更新することにより、現在行っている調査の経過をより迅速かつ直接的に提供し、地域社会と共有することを目指した。

研究の内容

 今回公開する津波堆積物データベースは、地質調査総合センターの研究成果を発信するデータベース(地質情報データベース)の一つとして発信を開始する。津波堆積物データベースは、国の知的基盤整備計画の一部として位置づけられ、産総研が行った津波堆積物調査の結果をウェブ上で簡単に閲覧できるツールとして開発された。このデータベースを閲覧すると、例えば、閲覧者の居住地域で産総研が調査を行っているかどうか、また行われていた場合はどのような地層が見つかったのかを知ることができる。また、自治体による防災計画の基礎資料としても活用できる。

 過去の津波堆積物を見つけ出す作業には多くの時間を要する。これは、数地点程度の掘削だけでは地層の解釈ができない上、採取した試料の分析に時間を要するためである。そうした分析結果や解釈を全てまとめて公表するには、調査開始から数年かかることも珍しくない。一方、津波堆積物の調査は、防災・減災に深く関わっているため、調査結果の迅速な公表が求められている。こうした状況を考慮して本データベースを開発したが、データ分析状況に応じてなるべく早く研究成果を発信するために以下の段階に分けてデータを公表することにした。

(1)【掘削地点の位置情報のみ】津波堆積物を見つけるために掘削調査をした場所の情報
(2)【掘削地点の位置情報と地層の情報】津波堆積物の有無を決める根拠の一つとなる柱状堆積物試料の情報。場合によっては、津波堆積物の候補となる地層(イベント堆積物)に関する情報も付加
(3)【掘削地点の位置情報と、地層の情報、産総研の解釈による津波堆積物の有無】
※(3)については、外部査読付き論文に掲載されたものと、外部査読付き論文に掲載されてはいないが産総研の担当研究者が津波堆積物の有無を判断したものの2種類のデータがある。外部査読付き論文によって担保されたデータかどうかは、各地域の解説ページに掲載される。

(2)および(3)に相当するデータは、画面上のアイコンをクリックすることで、地質柱状図とその簡単な記載や解釈を閲覧できる(図1)。今回、地質柱状図を公開した仙台平野については、すでに国際的な学術誌に論文を公表しているが、その論文がどのようなデータに基づいて作成されたかを知ることもできる。

 さらに、個々のデータだけでなく、各地域における調査結果の概要や、地震・津波や津波堆積物に関する基本的な知識を紹介したページも開設した(図2)。

津波堆積物データベースの閲覧画面の画像
図1 津波堆積物データベースの閲覧画面

津波堆積物データベースのトップ画面と解説ページ画面の画像
図2 津波堆積物データベースのトップ画面と解説ページ画面

 

今後の予定

 今回は、すでに研究成果を論文として発表している仙台平野の調査結果と、青森県、福島県、茨城県、千葉県、静岡県、三重県、和歌山県、徳島県、高知県での掘削地点の情報を公開した。今後は、年1~2回程度の継続的な更新を行い、調査地点でどのような堆積物が採取されたか、また調査により過去の津波堆積物が見つかったかどうかなどの情報を発信し、研究成果を調査地域の方々と共有すると同時に防災意識の向上へ貢献していく予定である。



用語の説明

◆津波堆積物
津波によって海底あるいは海岸の堆積物が削り取られ、その後別の場所に堆積した砂泥および礫(れき)の総称。平穏な環境下で堆積した層(泥炭層や泥層)の中に、砂層として挟まれることが多い。津波堆積物の年代値から津波の再来間隔の推定が、その分布から過去の津波浸水域や地震の規模の把握が可能となる。[参照元へ戻る]
◆モーメントマグニチュード
マグニチュードとは地震の規模を示すパラメーターのこと。マグニチュードにはさまざまな種類があり、モーメントマグニチュードはその一種。モーメントマグニチュードの値が1大きくなると、地震のエネルギーは約30倍大きくなる。[参照元へ戻る]
◆イベント堆積物
突発的な出来事によって、数時間~数日といった短い期間でたまる堆積物のこと。イベント堆積物は、洪水、津波、高潮などによって形成される。津波堆積物の調査では、まず地層中からイベント堆積物を見つけ出し、そのイベント堆積物がどのようにできたかを解析する。[参照元へ戻る]



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