部下が上司を評価する人事制度について
部下が上司を評価する人事制度、というのはあまり馴染みがない。しかし、最近ではGoogleなど、360度評価を取り入れ、部下が上司を評価するしくみを意図的に取り入れる会社も増えてきている。
だが、依然として上司は部下に評価されることを嫌がる。理由は概ね、以下のようなものだろう。
- 部下に命令するために邪魔である
- 部下は上司の仕事を理解していないので、評価できない
- 部下が上司の評価権を持つようになると、部下におもねる上司が評価されるかもしれない
会社は顧客の声を聞け、といわれる。また、耳に痛いことを言ってくれる人を尊重しろ、とも言われる。
しかし、殆どの企業では上司は自分のマネジメント能力について、部下から痛いことを言われる機会を設けていない。
しかし、フィードバックのないところに改善がないこともまた、確かである。自分自身のマネジメント能力について、「マネジメントされる側」からの意見が無いことは、独善に陥りやすく、改善のためのヒントを得ることも出来ない。
それ故に、ハーバード・メディカルスクールの名誉教授である、ハリー・レビンソンは、目標管理制度も、業績評価制度も、「部下がマネジャーを定期的に評価する制度を伴うべきである」と述べている。
だが、「部下から評価されることを嫌がる上司」を説得できるだろうか。
論理的には可能である。
命令できることとは評価とは関係ない。評価されようがされまいが、権限は別に行使することができる。
また、パソコンの仕組みを理解していなくても、パソコンの良し悪しを評価できるように、マネジメントの仕事を理解していなくとも、自分たちの上司が「良い上司」であるかどうかは判断可能だ。
さらに、ハーバード大学のデイビッド・C・マクレランドの研究によれば「部下に好かれようとする上司は部下から評価されない」という結果が出ている。
部下だって、「上司が本当にマネジメントとして有能か」は知っている。部下にまで媚びを売るような上司にどうして付いていこうと思うのか、そんな人は少ないだろう。
しかし、この制度を導入しようとした会社において、上司たちの抵抗はすさまじい。実際、「人でなし」とまで言われた経営者もいる。
しかし、これを強引に推し進めた結果、ある会社においてはこの評価制度は非常にうまく機能したようである。その際に気をつけたことは次の3つ。
1.報復人事を防ぐために、完全に匿名で行う。
2.部下から上司への評価の結果は、さらにその上の直属上司のみが目を通し、評価を伝える。例えば課長の評価結果は直属の上司である部長のみが読み、評価を伝える。
3.中には「誹謗・中傷」に類する評価もあるので、「客観的にその人のためになりそうな意見」のみを選択して伝える。
4.給与・賞与に直接連動はさせない。ただし、「人事異動の際に、誰の下に誰をつけるか」には反映させる。
もちろん、完全な人事制度は存在しない。
だが、大きなメリットとして上司が部下に対して無礼な振る舞いをすることが少なくなり、離職率がかなり下がったようだ。
特に「ある上司のもとで全く評価されなかった人」が、「他の上司のもとで活躍する」ことが多くなったという。
以上のようなことを踏まえると、本気で管理職を育成しようとすれば「部下から上司が評価される制度」は、強い企業を作る上で必須であると思えるのだが、いかがだろうか。
・2013年7月12日 Books&Appsに加筆・修正
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