＜首都スポ＞キッズ１４冠　７歳レスラー八隅士和くん

　夢は、世界チャンピオン！　キッズレスリング界で全日本選手権２連覇を含む１４冠という、イケメンのミニ戦士がいる。八隅士和（やすみ・しな）君、７歳だ。東京都世田谷区で柔術とキッズレスリングのジム「ロータス世田谷」を経営する孝平さん（３５）を父に持つ。しかし、士和君も初めから強かったわけじゃない。獲得したメダルの裏には数え切れない挫折があった。ここでは、日々、夢を追う、レスリング一家の「汗と涙の物語」を書く。　　（竹下陽二）

　士和君は一筋縄ではいかない。学校から帰った士和君に将来の夢を聞くと「お金持ち！」と来た。「な、なるほど。お金はオジサンも大好きだけど…」と記者が次の質問に窮していると「世界チャンピオンになりたい。強くなって、いろんな人に勝ちたい。かっこいいから」と矢継ぎ早の模範解答だ。なかなか、空気も読める７歳児だ。

　大物ぶりをうかがわせる逸話がある。昨年、全国制覇を果たし、ジムの入賞者とともに文部科学省を表敬訪問した。ここでも、政界の実力者を困惑させる。将来の五輪候補としてもてはやす下村博文文科相に「五輪？　もう、レスリングやめるよ。サッカー選手になるから。エヘヘヘ」と言い放ち、場を凍らせた。

　武士の「士」に平和の「和」で「しな」と読む。強さと優しさを象徴する名前の名付け親は、父・孝平さんだ。米国のプロレス、ＷＷＥのスーパースターのジョン・シーナにちなんだ。「別にレスラーにしようと思ったわけじゃないけど、かっこいいかなと思って」と孝平さん。父の思惑通りと言うべきか、裏腹にと言うべきか、格闘好きな少年に育っていく。

　士和君が２歳の夏、孝平さんは世田谷区内にジムをオープンさせる。そして、士和君にとって、戦うことが日常の環境ができあがっていく。最初は遊びの延長としてのレスリングがあった。戦いごっこに明け暮れるうちに、自分が「世界最強」だと思い込むようになったのかもしれない。

　しかし、そんなある日、人生初の屈辱的事件が起きる。２歳のデビュー戦で、あろうことか、同い年の女の子に惨敗を喫した。士和君は人目もはばからず、号泣した。しかし、心は折れなかった。保育園から帰ると、孝平さんとタックル練習を繰り返す生活が始まった。数え切れないほどの試合に出て、勝って喜び、負けて泣いた。士和君は涙の数だけ強くなった。昨年は全国選手権の小１の部２１キロ級で４戦を勝ち抜き優勝。今年も２年の２３キロ級で大会連覇。大小の大会を含めると、１４冠。天才だったわけじゃない。怪物だったわけでもない。負けるたびに立ち上がってきたから価値がある。もう、キッズ界で「八隅士和」の名前を知らない者はいない。

　孝平さんが言う。

　「今は、やっつけたい相手が全国津々浦々にいる。そのライバルに勝つことが当面の目標。五輪の夢は、その先にある」

　学校から帰ると、宿題を済ませる。孝平さんはこの１０月、同じ千歳烏山駅から近い場所にジムを移転させたが、士和君はほとんど、そこで練習しない。週５日、東京・上野のジムに出稽古に行く。階級も学年も上の先輩たちにボロボロにされる。往復２時間の武者修行の旅。帰宅は夜１０時前。帰りの電車内で弁当を食べる時もある。途中で眠りに落ちる。引率するのは、母・幸子さん（３４）の役目。押立杯で優勝した際は、移動日は父母が多忙で、単身、新幹線で大阪に先乗り。新大阪駅ホームで大阪在住の祖母がピックアップしてもらって出場し、勝った。なんともたくましい。「センセイ」と呼ぶ孝平さんの手を離れ、少しずつ大人への階段を上り始めた小さな背中に、幸子さんは寂しさを覚える時もある。

　「休日は、私の付き添いで全国各地に試合や合宿で遠征に行く。行く先々で友達ができるのも楽しいみたい。きっと、中学ぐらいになったら、どこかの外国でレスリング留学してるような、そんな気もして。でも、かわいい子には旅をさせよ。腹くくってます」

　五輪年齢に達するのは、東京五輪の次の２０２４年。１０年先のことは神様しか知らない。それより、同じ夢に向かって走り続ける、一日、一日が、八隅家にとって、かけがえのない日々なのである。

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　首都圏のアスリートを全力で応援する「首都スポ」面がトーチュウに誕生。連日、最終面で展開中