首相官邸前の「反原発デモ」の様子を撮影するために国会記者会館の屋上の使用を求めたが、会館を管理する「国会記者会」に拒否されたのは「報道の自由」の侵害だとして、インターネットメディア「OurPlanet-TV」が、国と記者会に220万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が10月14日、東京地裁(谷口園恵裁判長)であった。谷口裁判長は「屋上は自由に使えるものではない」「記者会が使わせなかったことは不平等ではない」として、請求を棄却した。一方、原告側は判決への不服を表明しており、今週中にも控訴する方針だ。
●判決「裁量権の逸脱ない」「不平等な取り扱いではない」
国会記者会館は、東京・永田町の国有地に建てられた国有財産で、新聞・通信社、テレビ、ラジオ計153社が加盟する「国会記者会」に管理が委ねられている。道路を挟んで首相官邸や国会議事堂に面している。OurPlanet-TVは2012年7月、官邸前のデモを撮影するため、記者会に「屋上」の使用許可を求めたが、拒否された。また、衆議院にも使用許可を命じるよう、行政処分の申請をおこなったが、却下されたため、「報道の自由」が侵害されたとして、2012年9月に提訴していた。
判決によると、そもそも国会記者会館の屋上は、原告が自由に使えるものではないとしている。また、安全管理上の問題も踏まえ、衆議院が使用を認めなかったことに「行政の裁量権の逸脱はなかった」とした。
記者会については、使用申請をめぐる問題が起きた当時、使用許可のための具体的な基準がなかったことから、「不平等な取り扱いとはいえない」と判断した。
●原告・白石氏「メディアがメディアを排除している」
判決を受けて、原告側は司法記者クラブで記者会見を開いた。OurPlanet-TVの白石草代表は「不当な判決だ。メディアがメディアを排除していることが最大のポイントだ」と批判。この裁判で「対立構図」となったマスメディアとネットメディアの関係について、次のように述べた。
「ネットメディアは、霞が関の省庁のさまざまな記者室で、会見への出席や質問がほとんどかなえられ、大手メディアと肩を並べて取材している。世界中のネットメディアがほかのマスメディアと一緒に権力の監視をしている。今回の判決では、日本や世界の現状をまったく見ずに、我々が求めている重要なポイントを外している」
原告代理人の小松圭介弁護士は「判決は、当時、基準がない状況で白石さんを入れなかったことは問題ないと判断したが、今も、ネットメディアやフリージャーナリストが使用するための基準は存在していない」と批判した。
●原告・井桁弁護士「メディアの区分が不明確」
また、今回の判決がメディアのあり方に与える影響について、原告代理人の井桁大介弁護士は、「ネットメディアやフリージャーナリストに配慮するようなメッセージは特になかった」と述べた。
判決文の中で、「新聞・通信・放送各社」に対して、「インターネットを利用するジャーナリストは多数かつ多様」と区分していることについて、「非常に前近代的な判断だ。ほとんどのメディアが今はインターネットを使っている。どこで区別するのかが不明確になっている」と批判した。
利用実態について、「国はどこまで建物を貸しているのか。記者会は『屋上も含めて借りている』と言っているが、国は『屋上の使用を認めていない』と言っている。(記者会の会員社が)屋上から報道していることは明らかだが、今回、踏み込んだ判断はなかった」と指摘。小松弁護士は「誰が屋上を使っているのかという実態の立証が、一審では不十分だった。使用実態をあぶり出すような主張を控訴審では考えている」と語った。
●国会記者会「予想通りの判決だった」
一方、判決の傍聴に訪れていた国会記者会の佐賀年之事務局長(共同通信出身)は、弁護士ドットコムの取材に対し、「予想通りの判決だった」と笑みを浮かべた。
国会記者会の常任幹事会(4社)はこの日、判決を受けて以下のコメントを発表した。
「国会記者会館の使用に関する原告の具体的な権利を認めず、国会記者会の判断を正当とした穏当な判決だ。国会記者会館を占有管理している国会記者会として、屋上使用等については安全性と報道機関としての責任を果たせるかどうかの観点から対応していく」
コメントの詳細について、佐賀事務局長は「お答えできない」と話した。
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