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くらし☆解説 「どうなる?再生可能エネルギー」2014年10月14日 (火)
土屋 敏之 解説委員
	<岩渕>こんにちは、くらし☆解説です。
	太陽光や風力発電など、環境に優しい「再生可能エネルギー」。
	発電された電気は、電力会社が買い取ることになっていますが、いま、買い取りを中断する動きが相次いでいます。
	一体どうしてなんでしょうか? 土屋敏之解説委員に聞きます。
	 
	
	Q1 買い取り中断って、そもそもどういうことですか?
	 
	
	<土屋>
	これは経済産業省がおととしから始めた「固定価格買取制度」というもので、再生可能エネルギーの拡大のために、各国で導入されている制度です。
	事業者や一般家庭が再生可能エネルギーで発電した電気を、高めの価格で買い取るよう電力会社に義務づけています。
	買い取り費用は私たちの電気代に上乗せされていて、標準家庭で月に2百円あまり負担しています。
	 
	
	<土屋>
	・ところが、9月25日から九州電力が、10月1日からは北海道・東北・四国電力の各社が、「電力を買い取ってほしい」という申し込みの新規の受け付けを保留、つまり事実上、買い取りを中断しています。
	・既に発電している事業者は対象外で、また、家の屋根に乗せるような小規模の太陽光も除外されています。
	・ただ、他の電力会社も、東京電力と関西電力は既に一部地域で買い取りを制限していますし、沖縄電力も実質中断に近い制限をしてますので、電力十社の大半が中断や制限をしている状況です。
	 
	<岩渕Q2> どうして中断したんですか?
	 
	
	<土屋>
	・簡単に言うと、「太陽光発電が増えすぎたから」ということです。
	・九州では、事業者などが国の認定を受けた太陽光や風力の設備で、発電できる電力が、去年夏の電力需要のピークを上回る量にまで増えたとしています。
	・四国・東北・北海道でも、太陽光の発電量が多くなりすぎる可能性があるとしています。
	 
	<岩渕Q3> 太陽光発電で必要な電気全部を上回るぐらい、増えたってことですか?
	あまり実感がありませんが、本当にそんなに増えてるんでしょうか?
	 
	
	
	<土屋>
	・この「多すぎる」という量には少しからくりがあって、うのみには出来ません。
	・こちらは昨年度、九州電力に対して、太陽光で発電する電気を買い取ってほしい、と申し込みのあった量です。
	・昨年4月から今年2月までで合計349万kW分だったのですが、3月だけで、それに匹敵する申し込みが殺到したんです。
	 
	<岩渕Q4> すごい量ですね。どうしてこんなに急に増えたんですか?
	 
	
	<土屋>
	・現在の制度では、発電する設備に国の認定を受けて、電力会社に申し込みをすると、その時点で電力の買い取り単価が決まることになっています。
	大規模な太陽光だと20年間、この同じ価格で買い取り続けてもらえます。
	多くの事業者に参入を促すように、収益の見通しが立てやすくなっているわけです。
	・ところが、この価格が、4月以降に申し込む分からは、引き下げられることが決まっていました。
	 
	<岩渕Q5> それなら、高く買い取ってくれる間に申し込んでおきたいですね
	<土屋>
	・そうですね。ところが、国の認定も電力会社への申し込みも基本的に書類で済むので、実際は、すぐには発電できないような計画も少なくないのです。
	以前、大規模な発電所を作るとして認定を受けながら、その土地の所有者とちゃんと話をしていなかったケースもありました。
	・これまでに認定を受けた設備で、実際に発電されている量はまだ1~2割に過ぎません。
	・電力会社が、再生可能エネルギーが増えすぎて需要を上回る可能性がある、としたのは、この認定された設備で発電できると書かれていた量などからです。
	ですから、本当にそれだけの電力がすぐに発電されるとは考えられませんし、いますぐ買い取りを中断する必要はないのでは、という批判もあります。
	 
	<岩渕Q6> 本当はそんなに再生エネルギーは多くならないかもしれないんですね。
	これからどうなるんですか?
	
	<土屋>
	・経済産業省の委員会では、(あさって)10月16日から有識者による作業部会を設けて、電力会社が本当はどれだけ買い取ることが出来るか、どうやれば増やせるか等を検討します。年内には買い取り再開などのなんらかのメドをつけようとしています。
	・それと併せて、「固定価格買取制度」全体の見直しも進める方針です。混乱の背景には、認定を受けて申し込んだ時点で買い取り価格が決まる、制度の問題点がありました。
	・例えば、価格を決めるのを「実際に発電事業を始めた時」などに変えれば、書類だけ安易に出すメリットはなく、きちんとした事業が増えるかもしれません。
	他にも幾つかの改善案が検討される見込みです。
	 
	<岩渕Q7> そうしたら解決するんでしょうか?
	<土屋>
	・いいえ、それだけではやはり、いずれ再生可能エネルギーは行き詰まってしまいます。
	というのは、単純に太陽光発電が増えたらいいとばかりは言えないからです。
	 
	<岩渕Q8> どうしてですか?再生可能エネルギーが増えるのはいいことではないですか?
	<土屋>
	・太陽光や風力は、天候などで発電量が変化しますよね。それを直接、送電線に流すと電力が不安定になるので、単純に増えすぎると停電の恐れもあります。そこで現在は、再生可能エネルギーの発電量が多いときは、火力発電の出力を押さえるなどして調整しています。
	・ですから、再生可能エネルギーを増やすには、電力を安定供給できる仕組みも、同時に整備する必要があります。
	 
	<岩渕Q9> どんな方法があるんですか?
	 
	
	<土屋>
	・一つは送電網の拡充です。
	太陽光や風力の発電設備が多い北海道や九州などと、大消費地の首都圏や関西を結ぶ送電容量を増やすことで、日本全体で電力の変動を吸収するという方法です。
	現在もいくらか行われていますが、まだ不十分です。
	・さらに根本的な解決策として期待されるのは、蓄電システムの整備です。発電量が多いときは蓄電池にためておいて、発電量が少ないときに出してやれば太陽光発電の量が変動しても、安定して供給できます。
	・既にアメリカのカリフォルニア州では、電力会社に対して、原発1基分を超える規模の(130万kW分の)蓄電池を導入するように、義務づけています。
	・カリフォルニアでは、2020年には電力全体の3分の1を再生可能エネルギーにすると決めていますが、蓄電池で調整することで電力を安定供給できるというわけです。
	・日本でも、大型の蓄電池を変電所に導入して、風力や太陽光による発電量の変動を吸収する実証事業がようやく行われる見込みです。
	北海道と東北で施設の建設が始まり、2年後に稼働予定です。
	 
	<岩渕Q10> 蓄電池って、そんなに大規模に出来るものなんですね
	 
	
	<土屋>
	・ここ数年、技術革新が非常に進んでいます。例えば、実証事業で使われる蓄電池のひとつが、「レドックスフロー電池」と呼ばれるものです。
	・プラスとマイナスの電気を液体の形で別々のタンクに蓄えるという、従来の蓄電池とは全く異なる原理なので、基本的に何年でも電気をロスせず貯めておけます。
	タンクを増設するだけで簡単に大容量化もできるので、世界的に注目されています。
	 
	<岩渕Q11> 電気代など家計への影響も気になりますが?
	<土屋>
	・先ほど、電力会社が「増えすぎた」として挙げた、認定された設備の発電量。これがいずれ本当に稼働したとすると、再生可能エネルギーは日本の電力の20%まで増える見込みですが、その時、電気代への上乗せ分は、標準家庭でさらに7百円ぐらい増えると試算されています。これをどれぐらい高いと見るか、負担をどうするかなど、議論が必要です。
	・地球温暖化防止のためにも、再生可能エネルギーの重要性はますます増しています。
	今回の混乱は、国や電力会社の想定以上に速いペースで、再生可能エネルギーが増えてきたことで起きたとも言えますので、それに対応する電力安定化の仕組みの整備も急いでほしいと思います。