シカゴ発のJuke/Footworkと呼ばれるジャンルが台頭してきてから早数年が経ちましたが、昨今ではその特徴的なビートを、ジャンルの壁を飛び越えて様々な所で聴くようになりました。L.A.ビート・シーンの重鎮Flyng Lotusの『You're Dead!』やニュージーランドのクラブジャズ勢Electric Wire Hustleの『Love Can Prevail』等でも聴く事が出来ます。(Electric Wire Hustle - Bottom Lineは、まるでJames Blake - Limit To Your Loveのジューク版のよう!)
今後ますます勢力を拡大していきそうなこのビートですが、筆者の周りではリスナー側からもクリエイター側からも、難解で踊りにくい。作りにくい。という声をチラホラ耳にします。今回は、そんなジュークのビートについて、筆者なりの解釈を交えてお話してみようと思います。
まず、ジュークのビートを理解する上で外せないのが16ビート。これが全ての基本と言っても過言ではないでしょう。16ビートはリズムの最小単位を16分音符(一拍を4分割)としたビートで、ファンクやソウルといったブラックミュージックで聴くことが出来ます。百聞は一聴にしかず、という事でHerbie Hancock - Chameleonの有名過ぎるベースラインを使った、下のループを聴いてみて下さい。BPM96の16ビートです。
こういうのよく聴くでしょ?それでは早速、この16ビートとジュークのビートを比較してみましょう!といきたい所ではありますが、段階を踏んで、次に16ビートの発展形と言えるドラムンベースのリズムを聴いてみます。ドラムンベースは90年代初頭に出てきたジャンルで、16ビートのベースラインに倍速のドラムが乗っかったものです。(一説によるとヒップホップのレコードを既定の倍の回転数でかけてしまった事が始まりだとか!?)下のループでは、前半4小節をBPM87の16ビート、後半4小節はベースラインはそのままに、倍速(BPM174の16ビート)のドラムが乗ってきます。BPM87から見ると、スネアのゴーストノートに32分音符(一拍を8分割)のリズムが使われている事に注目して下さい。
それでは、次に00年代初頭に出てきたダブステップのビート。先ほどのドラムンベースでも32分音符が使われていると書きましたが、ダブステップはその32分音符を、より意識的に使用したビートと言えるでしょう。下のループでは前半4小節はBPM70の16ビート。後半4小節で、その特徴と言える32分音符のハイハット、スネアのゴーストノートが入ってきます。*1
そしていよいよ問題のジュークです。ドラムンベースとダブステップが、イギリスのロンドンで生まれたのに対し、このジューク/フットワークはアメリカ、シカゴ発祥ということで、その関係性は薄いようにも思われますが、実は構造的には非常に似通っています。先ほど聴いていただいたダブステップは、ドラムのハイハットやスネアに32分音符を使ったビートでしたが、こちらのジュークではキックもベースも32分音符のリズムを使用しており、最早8ビートや16ビートに並ぶ、『32ビート』と言ってしまった方が理解しやすいのではないかと個人的には思います。下のループでは前半4小節をBPM80の16ビート。後半4小節は32分音符のハイハット、スネアのゴーストノートが入り、同時にキック、ベースラインも32分音符のリズムを強調しています。
いかがでしたでしょうか?今回は16ビートを起点に解説しているので、BPMはあくまで遅い方(BPM70~87)を軸に捉えていますが、これらのビートの面白さはその多重性にあると考えます。ドラムンベースであればBPM174の16ビート、ダブステップならBPM140の16ビートのハーフステップ*2、ジュークはBPM160のハーフステップと捉える事も可能です。その解釈はリスナー側に委ねられている部分でもありますので、速いビートで踊っても、半分のテンポでゆったり揺れてもOKです。四打ちのハウスやテクノに比べると、理解されにくいこれらのビートですが、ちょっと解ってくると、これほど面白いダンスビートは他には無いと思いますよ!