けんこう処方箋

 今回は、家庭医療の担い手である家庭医について語る。

 日本の医療には専門医制度があり、脳外科や皮膚科など、各専門領域の学会がそれぞれの専門医の養成を担ってきた。

 家庭医については、日本プライマリ・ケア連合学会が専門医としての家庭医である「家庭医療専門医」を養成してきたが、その数はまだ400人弱で、広く日本のプライマリ・ケアを担っているとは言いがたい。

 これまでは開業医、または中小病院の医師が日本各地でその役割を担ってきたし、現に今もそうである。

 と言うのも、日本ではほとんどの医師が家庭医以外の専門領域を何年か専攻した後に開業し、プライマリ・ケアを提供するのが一般的だった。家庭医療が一つの分野として認識されてこなかったのだ。

 だから、家庭医を専門医として捉える風土は日本にはほとんどなく、「医師なら誰でもそれなりの年数働けばできる医療、誰でも家庭医になれる」という理解が普通だった。

 しかし、社会保障制度が複雑になり、医療の専門分化が進むなかで、家庭医療が果たす役割の広範さ、それを担う質の高い家庭医の養成の必要性が先進諸国で急速に認知された。現在、ほとんどの先進国で制度としての家庭医療が定着し、家庭医も医師の20~50%程度を占め、国民に広く認知されていると言ってよい。

 ところが、日本では「全ての医師が家庭医としての能力を持ち、さらに細かな専門分野を持てばよい」と語る人も少なくない。

 確かにそうなれば、わざわざ医師を選ぶ必要がなく便利だろう。しかし、国民が求める質の高い医療を提供するために、医師には経験と生涯学習が必要だ。

 医師も一人の人間である。家族との時間や余暇を楽しみつつ、仕事に力を注ぐためには、選択と集中が必要だ。家庭医と他の専門医の連携がしっかり担保されていれば、家庭医が最初に患者の健康問題に幅広く対応するのが最も効率が良く、他の専門医の専門性を高めることにも役立つ。

 ここ十年、家庭医という専門医をめざす若手が少しずつ増えてきた。医学生のころから志す者も少なくない。7月現在でまだ387人しかいない家庭医療専門医だが、彼らは3年間の専門研修を受け、専門医の誇りを持って全国でプライマリ・ケアを実践している。

 かくいう私もその一人である。次は、私自身の学びと成長を通して家庭医という選択の実際を語る。

イラスト
イラスト・佐藤博美


(朝日新聞北海道版 2014年7月30日掲載)

草場鉄周 (くさば・てっしゅう)

北海道家庭医療学センター理事長 1974年福岡県生まれ。99年京都大医学部卒業、家庭医を志して北海道へ。日鋼記念病院(室蘭市)や道内外で研修を積み、2003年から北海道家庭医療学センターに勤務。08年、センターが医療法人となるのに伴い、理事長に就任し、診療、家庭医の育成、派遣にあたる。日本プライマリ・ケア連合学会副理事長。

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