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 壁が崩れた廃旅館に飾られた半人半獣の「ケンタウルス」の木像。営業中の旅館の一室には、約1万膳の割り箸に柿渋を塗ったオブジェ――。

 若手の芸術家らが温泉街の各所にアートを展示する芸術祭が、福島市土湯温泉町一体で開催されている。

 3連休初日となる11日。芸術祭巡りが趣味という千葉県木更津市の女性会社員(27)は「意外な作品にひかれるものがあった」と満足そうだ。自身も現代芸術家で、総合ディレクターのユミソンさんはいう。「原発事故で観光客が激減した小さな温泉街に、多くの人がやってきて、芸術作品に触れるきっかけになれば」

 土湯温泉町は、文字どおりの温泉街だ。約440人の町民にとって、温泉旅館経営をはじめとする観光業は生計を支える産業となっている。その街に、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故は容赦なく襲いかかった。

 土湯温泉観光協会によると、震災直後の2011年度に訪れた宿泊客は約12万人。前年度の約27万人から半分以下に急落した。13年度には、市の補助事業などもあってようやく約16万人まで増えたものの、それでも震災前の水準にはほど遠い。22軒あった温泉旅館も5軒が廃業した。同協会の担当者は「放射線量が高いわけではないのに、県外宿泊者が減った。風評被害が大きい」と肩を落とす。

●安全性訴える地道な努力を

 放射性物質の影は、数字に表れている。事故を起こした東京電力福島第一原発に近い浜通り地域を13年に訪れた客足は、いわき市が震災前の71%。南相馬市や双葉郡からなる相双地域は、避難指示区域が含まれるとはいえ、まだ28%までしか回復していない。

 一方、13年の会津地域は、NHKの大河ドラマ「八重の桜」の舞台となったことも後押しし、1629万人と、震災前と比べ1割ほど増えた。おかげで13年の県内観光地への客足は、震災前の約84%にあたる約4831万人まで戻ったが、宮城の91%には及ばない。

 福島はもともと観光資源に恵まれている。磐梯山や猪苗代湖といった自然が豊かで、鶴ケ城などの史跡も数多く残る。

 いかに風評をぬぐい去り、再び観光客を呼び込むか。県はJRや旅行会社と手を結

び、来年4~6月の大型の観光キャンペーンを視野に、首都圏などでPRイベントを繰り返している。長い目でみて外国からの観光客に対応できるように、県の予算をつけて外国語の堪能なガイドの養成にも手をつけた。県の担当者は「具体的な線量を示すなどして、福島の観光地は安全だと地道に伝えていくしかない」という。

 だが、目に見えない放射性物質に対する「安全」へのとらえ方は、人によってまちまち。抜本的な解決策がないのも現実だ。福島大学うつくしまふくしま未来支援センターの高木亨特任准教授(観光経済学)は「一度来てくれた観光客に『また来たい』と感じてもらうことが必要で、これからが本当の勝負だ」と指摘する。

 福島の魅力をどう伝え、いかに共感してもらうか。地道で息の長い取り組みが求められている。

●「また来る」の声 聞ける接客期待

 まだ原発事故前の水準には達しないが、県内への観光客は徐々に戻りつつある。「土湯を知らない、来たことがない人をどう呼び込むか」。土湯温泉観光協会の池田和也事務局長は考えをめぐらせている。来年4月には、福島を全国にアピールする大型観光キャンペーンが控える。「安心して観光できたね」「また来たいね」。そんな声が県外客から聞かれるようなもてなしを期待したい。(長橋亮文)