2014年10月14日10時22分
●駆除に予算 担い手確保課題
黄金色に染まった田んぼを緑色のあぜ道が額縁のように縁取る。稲穂が風に揺れる、のどかな田園風景だ。が、そばに近づくと見慣れないものに気づく。地面から20センチ、40センチ、60センチの高さに張り巡らされた3本の電線。人間が「オリ」に入って農作業をする。不思議な風景だった。
田村市都路地区では、昨年から希望者の水田を電気柵で守る。「敵」は田畑を掘り返したり、作物をあさったりするイノシシ。「この周囲でも1シーズンで数十匹が捕れた。もし電気柵がなかったら壊滅だ」と専業農家の男性(59)。今もときおりカボチャなどが狙われるという。
県内では、2012年度の農作物の被害額は約6800万円。東京電力福島第一原発事故の影響で米や野菜などの生産額が落ち込んでいるのに、10年度の約5200万円を上回った。
加えて原発事故がイノシシをさらに厄介な存在に仕立てた。除染されていない山あいでも土を掘り返してエサを食べ、放射性物質を体内に蓄える傾向があるため、人里に高濃度の放射性物質を運びかねないのだ。「捕っても食べられないのにこんなにたくさんいるなんて」。猟師たちは「歩く指定廃棄物」と嘆く。
行政も手は打っている。昨年度のイノシシの駆除数は6559頭。10年度の3736頭を大きく上回り、過去最多となった。県が支出する1頭8千円の報償金と地元自治体による上乗せの効果だ。
ニホンジカ被害対策でも国と県、東京電力が足並みをそろえる。尾瀬の湿原を彩るニッコウキスゲを食べるシカは観光業者にとって死活問題だった。一昨年は花がほぼ全滅。目にレーザーを当てたり、拡声機で脅かしたりして追い払う対策で、昨年は湿原に花がよみがえった。
だが、先行きは見通せない。県は今年度に初めて野生動物対策約4千万円を計上したが、市町村除染対策支援(約2千億円)や放射能監視事業(約19億円)に比べると、文字どおり桁違いに少ない。将来的に復興予算額が絞られれば優先順位が下がる可能性がある。
仮に予算がついても、駆除の担い手の確保が課題だ。1980年度に約1万9千人だった狩猟者の登録件数は、11、12年度には3500人前後と6分の1程度に激減した。県は昨年度、年3回だったわな免許の受験機会を5回に増やしたが受験者数は伸びていない。県自然保護課の担当者は「狩猟者の多くは農家。農業振興などと連携した対策も検討したい」と話す。
農作物を食べ、時に人を襲うツキノワグマ。養殖魚を狙うアメリカミンク。避難指示区域の空き家や文化財を荒らし、伝染病を運ぶ恐れもあるアライグマ。
原発事故の風評被害や避難生活で苦しむ人々に、野生動物が追い打ちをかけている。
●放射能対策の影 重要さ認識必要
徐々に減る放射能と異なり、野生動物は放置すれば増える。今年改正された鳥獣保護法は保護だけでなく、駆除も含めた適正管理の大切さを強調する。背景にあるのは農林水産業や生態系への被害の深刻化だ。おいしい食べ物や美しい自然は福島の魅力。故郷への帰還を望む避難者は多い。それらを損ないかねない野生動物の被害は、放射能対策の影に隠れがちだが、重要な課題だ。(小坪遊)