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新型インフルエンザワクチン接種後のナルコレプシー発症のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ナルコレプシーの免疫的メカニズム.jpg
昨年のScience Translational Medicine誌に掲載された、
2009年の所謂「新型インフルエンザ」ウイルスと、
ナルコレプシーとの関連についての論文です。

ナルコレプシーは、
昼間に眠気の発作が起こり、
居眠りをしてしまう過眠と、
感情が高まると身体の力が抜ける脱力発作、
そして寝入りばなに幻覚が見える、
入眠時幻覚を特徴とする疾患で、
特定のHLAという遺伝子のタイプ(DQ0602)と強い関わりがあり、
その素因を持つ方が、
何らかの免疫異常から脳神経系の一部に炎症を起こし、
それが原因となって発症する、
と考えられています。
炎症には自己免疫が関与している考えられ、
溶連菌などの感染症が、
そのきっかけとなることもあります。

1998年に日本の研究者と海外の研究者の手によって、
ほぼ同時にナルコレプシーの原因物質が特定されました。

それは神経細胞から分泌される神経伝達物質の1種で、
日本人のグループによりオレキシンと命名され、
海外のグループによりハイポクレチン(ラテン語読みでヒポクレチン)
と命名されました。
従って上記の文献のタイトルでも、
Hypocretin/Orexin と記載されていますが、
文献内の記載は専らハイポクレチンで、
オレキシンの名称が海外で使用されることは少ないようです。

ただ、両者は全く同一のものを指しています。

ハイポクレチン産生神経細胞からのシグナルが、
脳の広い領域を刺激することが、
人間の覚醒状態の維持に大きな役割を果たしていて、
ナルコレプシーの患者さんにおいては、
このハイポクレチン産生細胞が特異的に障害され、
脳内のハイポクレチンが枯渇することが、
ナルコレプシーの本態であることが明らかになったのです。

それでは、何故ハイポクレチン産生細胞は障害されるのでしょうか?

ナルコレプシーは身体の細胞に発現している抗原で、
自己と非自己の認識に重要な役割を果たしている、
HLA(ヒト白血球抗原)のDQ0602というタイプと深い関連があります。
要するにこのHLAのタイプを持っている人に起こり易いのです。

HLA-DQはクラスⅡ抗原と呼ばれ、
身体にウイルスなどの異物が侵入した際、
その異物の抗原を取り込み、
その抗原を細胞の表面に提示して、
それをヘルパーT細胞と呼ばれる免疫細胞に、
情報として引き渡します。
具体的には細胞表面にあるHLADQに、
15個前後のアミノ酸の配列が、
抗原として埋め込まれた形で提示されます。
それが一旦ヘルパーT細胞に認識されると、
その抗原を敵として攻撃することに特化した、
一連の免疫細胞が誕生することになるのです。

通常ではハイポクレチンは身体にある蛋白質ですから、
外敵として抗原が提示されることはない筈です。

しかし、どうやらそうしたことが起こって、
身体にある免疫細胞によって、
ハイポクレチン産生細胞が攻撃され、
障害されてナルコレプシーが発症しているのではないか、
と考えられるのです。

これが自己免疫疾患です。

免疫には細胞免疫と液性免疫とがあります。
液性免疫の主体は、
抗原に結合する所謂抗体です。
ナルコレプシーの原因として、
ハイポクレチンに対する抗体が探されましたが、
そうした自己抗体は発見されませんでした。

つまり、ナルコレプシーが自己免疫疾患だとすれば、
その本態は細胞性免疫ということになります。

1つの仮説としては、
HLA DQ0602を持っていると、
それとあるアミノ酸の10数個の配列の複合体が、
「敵」としてヘルパーリンパ球に認識される、
という考えが成り立ちます。

上記の文献においてはまず、
このことを証明するために、
ハイポレクチンのアミノ酸の配列をばらして、
10数個のアミノ酸にしたものを、
HLA DQ0602が陽性のナルコレプシーの患者さんの、
抗原提示細胞と反応させ、
それがヘルパーT細胞に認識されて、
特定のリンパ球に分化するのかを実験しています。

すると、
ハイポレクチンを構成するアミノ酸の繋がりのうち、
ナンバリングで56番から68番までの13個の配列と、
87番から99番までの13個の配列が、
いずれもナルコレプシーの患者さんでは抗原として提示され、
それに特化したヘルパーT細胞が産生されることが確認されました。

興味深いことに、
このHLAのタイプを持っていても、
ナルコレプシーを発症していない人では、
ヘルパーT細胞の分化は殆ど起こりません。

同じ遺伝子を持つ双子で、
一方のみがナルコレプシーを発症しているケースがあるのですが、
そのサンプルで同じ実験を行なうと、
ナルコレプシーの患者さんのみで、
そうしたヘルパーT細胞の分化は起こっているのです。

つまり、単純にHLA DQ0602とハイポクレチンの一部が結合し、
それで自己免疫が惹起される、
ということではないようです。

何らかの条件があるとそうした抗原提示が行なわれ、
一旦そうしたヘルパーT細胞の分化が起こると、
それが個体の中で保持され、
ハイポクレチンへの攻撃が持続する結果となるようです。

文献の著者が次に注目したのは、
2009年のインフルエンザAH1N1pdm(所謂新型インフルエンザ)
の流行時に、
中国でナルコレプシーの患者が感染者で増加した、
という報告があり、
また主にヨーロッパにおいて、
グラクソ社のアジュバントを含む新型インフルエンザワクチンの接種者に、
未接種者の10倍以上という高い確率でナルコレプシーが発症した、
という報告があった、という事実です。

これはつまり、
インフルエンザウイルス抗原のアミノ酸配列の中に、
ハイポクレチンと似た場所があって、
それが同じようにHLA DQ0602と結合して抗原提示を行なうので、
ハイポクレチンを攻撃するような免疫細胞が産生され、
ナルコレプシーを発症するのではないか、
という可能性を示唆しています。

そこでインフルエンザの表面の抗原をばらして、
同じようにナルコレプシーの患者さんの抗原提示細胞と反応させてみると、
HA抗原と呼ばれる部分の275番から287番の配列が、
抗原としてヘルパーT細胞に提示され、
分化した細胞がハイポレクチンに反応することが確認されました。

インフルエンザウイルスのHA抗原は変異を繰り返しています。
それが2009年の新型インフルエンザウイルスにおいては、
ハイポレクチンの構造と部分的に似通っていたため、
ウイルスを攻撃するように分化した細胞が、
同様にハイポレクチンを攻撃するような能力を持ち、
ナルコレプシーの発症に結び付いたのではないか、
と考えられるのです。

文献では検討はされていませんが、
問題になるのはワクチンに含まれていたアジュバントの影響です。

ウイルスの自然感染では、
中国のデータを除いては、
それほど明確なナルコレプシーの発症リスクの増加は、
認められていませんから、
こうした反応はワクチンに含まれていたアジュバントの作用によって、
より強化された可能性が強く示唆されます。

ワクチンと自己免疫疾患のリスクとの関連性は、
多くの場合否定されていますが、
特に通常より強い免疫を誘導するワクチンで、
細胞性免疫を誘導するワクチンのケースでは、
接種者の体質によりこうした反応の起こり得ることは、
ワクチンの安全性を考える上で、
重要なポイントであるように、
僕には思えます。

今日はナルコレプシーの病因についての、
最新の知見についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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