ズーム
映画用語としては、「ズームアップ」「ズームバック」。テレビ(ビデオ)用語としては、「ズームイン」「ズームアウト」。
ま、どっちでもいいですけど、フレームのサイズの件でもそうでしたけれども、テレビの世界って後発のくせに同じ機能をわざわざ別の言い方をするって何か意図があるのでしょうか。
ま、それはともかくも、「ズームアップ」は「ここに集中してね」、「ズームバック」は「これはこういう状況下にあるのですよ」といった意味合いで使われますね。またそのスピードが速ければ、そこにインパクトを加味できるし、ゆっくりであれば、なにがしらの感情的意味合いを持たせることも出来る、と言ってもいいでしょうか。
ただ、私個人的には、余り好みません。使っても一作品に数回ですね。時間的余裕があれば、移動車などを使っての「トラックアップ」「トラックバック」の方が好きです。「レンズ」の項でも言いましたが、人間の目にはズーム機能はありませんし、ズームって私にはキャメラを動かす労力を惜しんでいるようで、映像的に安っぽく見えてしまうのですね。一時期のアクション映画では、よく使われていましたが、昨今はそれも少なくなってきています。
クリント・イーストウッドもあるインタビューに答えて「初期の頃は、ズームを使ったが、最近は、単焦点のレンズ3本(やや広角、標準、やや望遠(「レンズ」の項参照))と、たまの望遠で事足りている」と言っていました。
クリント・イーストウッド(wiki)
「硫黄島からの手紙」(wiki)
予告篇(YouTube)
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でも、使いようによっては、面白い効果を生み出すことも出来ます。観客にそれとは気づかないようなゆっくりとしたスピードでズームしていく、といった手法です。話に聞き入っている内に「あれ、いつカットが変わってアップ(逆の場合もある)になったのだろう」と思わせるような技法です。このようなものを見せられると、観客として「監督に一本とられたな」と思ってしまうのですね。
例を挙げれば、山下耕作監督の「関の彌太ッペ」(63年東映、出演:中村錦之介、十朱幸代)で、自分の妹を捜してある女郎屋で妹を知っているという女(岩崎加根子)に妹の思い出話を聞く場面。最初は二人のS.Longで始まり、数分間の二人の会話が終わってみると、いつの間にか二人の座った状態でのB.Sになっている(ワンシーンワンカット(=これを業界では「どんぶり」(一個で全部)と言います)。切々とした情感がそのズームに込められていました。
ここで「関の彌太ッペ」の名台詞をひとつ。
「世の中つらいこと悲しいこと、いっぱいある。でも忘れるこった。忘れて日が暮れりゃあ、あしたになる」・・・いいねえ。
山下耕作(wiki)
「関の彌太ッペ」(wiki)
ラストシークエンス(YouTube)
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ショットの開始の画とカット尻
最後にこれぞ外連の極みといった手法のご紹介。
それは、「ドリーバック・ズームアップ」(または「ドリーアップ・ズームバック」)。ドリー(移動)で引いていきながらズームで寄っていく(またはその逆)。
するとどうなるか。被写体のフレームサイズは変わらないのに、背景だけが動いていく。
心理的な面から解説しようとすれば、その人物に歩み寄りたいのに歩み寄れない、逃げたいのに逃げられない、といったような、まか不思議な映像が生まれます。
日本映画では、大林宣彦や伊丹十三が使っていましたね、大林作品で言えば「時をかける少女」(83年東映=角川、出演:原田知世、高柳良一、他)のラストシーンで使っていました。
伊丹十三(wiki)
大林宣彦(wiki)
「時をかける少女」(wiki)
予告篇(YouTube)
おまけ(YouTube)
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でもこの手法、これまた、遙か昔、ヒッチコックが「めまい」(58年米、出演:ジェームス・スチュアート、キム・ノバク)で、スチュアートが螺旋階段を見下ろすシーンで、まさにめまいを起こすショットで使われているんですよね。
アルフレッド・ヒッチコック(wiki)
「めまい」(wiki)
螺旋階段のシーン(YouTube)
いくつかの映画から同手法のショットを集めたものがありました。(YouTube)
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しかしこの手法、プロの人たちでも難しい。ズームと移動とピント、この三つがぴたりとタイミングが合わないと、即NG。私もこの手法が好きで、数本に一回の頻度で使ったりしますが、最低でも10テイクぐらいいきますです。
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