通勤時間帯を直撃した6日の台風18号。道路冠水や土砂崩れなどの被害に見舞われた地域も相次いだが、際立ったのは避難勧告の多さだ。一時、勧告の対象になったのは8都県で約270万人。東京都港区や横浜市栄区、千葉県市川市など都市部でも避難勧告が出され、対応に戸惑う住民の声も上がった。適切な誘導がなければ、パニックに陥る恐れもある。なぜ、避難勧告は連発されたのか。
「台風18号は東京23区を通過したものの、雨は非常に強かったが風はそれほどでもなかった。衛星写真で見ると、台風の目がねじれているような感じで、台風のエネルギー源となる海からの水蒸気が効率よく集まらなかったという印象がある」
気象予報士の森田正光氏は、こう語る。
確かに勢力は大きかったが、台風が過ぎ去った後に浮かび上がったのは、実態とかけ離れた各地の避難勧告だ。都市部では、大半の住民が何も対応を取らなかったという場所も多い。
とりわけ、東京都港区は午前10時36分に約2万9000世帯、約4万5000人に避難勧告を出したが、区指定の避難場所にやってきたのは6人だけだったという。
「東京都と気象庁が港区に土砂災害警戒情報を発令したため、区の『急傾斜地崩壊危険箇所』のうち、安定度がよくない箇所の付近に避難勧告を出した。避難勧告は初めてに近い形だったので応急対応になり、避難者も少なかった」(港区の担当者)
目立った被害はなかった港区。だが、空振りしても、終わりよければ全てよし、というわけにはいかない。
森田氏は「広島の土砂災害や御嶽山噴火で、気象庁や自治体の対応が事後的で批判されたこともあり、中には、より強めに判断されたケースがあったと思う」と指摘し、こう懸念を示す。
「住んでいる条件は一人一人異なるのに、十数人が危ない場合でも万単位で避難勧告が出されることもあり得る。この地域というよりも、○○マンションなどと住所をより細分化して発令しないと実効性がなくなってしまう。災害情報はいろんな基準があり、専門家でも混乱するほど。災害が起きる度につぎはぎされてきた側面もあり、全体としての見直しが迫られている」
行政の判断は難しいが、「オオカミ少年」に陥らないことが重要だ。