「今後とも国民の懸念を払拭(ふっしょく)すべく、丁寧に説明をしていきたい」。昨年12月、安倍首相は特定秘密保護法の成立を受けた記者会見でこう述べていた。

 それから10カ月。果たして丁寧な説明はなされたか。首相は自らの言葉に誠実であったと言えるだろうか。

 秘密法の施行日を12月10日とする政令と、同法の運用基準が近く閣議決定される。

 運用基準については、1カ月間で2万3820件のパブリックコメント(公募意見)が寄せられた。これを受け、知る権利について「十分尊重されるべきだ」と明記。さらに法施行5年後に運用基準を見直すなど27カ所の修正が加えられたものの、何が特定秘密に当たるのか、指定基準は不明確なままだ。

 内閣府には新たに「独立公文書管理監」が置かれ、各省庁の大臣らに特定秘密の提出を求め、運用基準に合わないと判断すれば指定解除を要求できる。ただし、大臣らは「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼす」ことを理由に、管理監への情報開示を拒否できる。恣意(しい)的な運用を防ぐ「歯止め」となり得るのか、はなはだ心もとない。

 また、国会も、常設の監視機関「情報監視審査会」を衆参両院に設置する。政府に個別の特定秘密を提供するよう求めることができるが、こちらも「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼす恐れ」があると政府が判断すれば、提供を拒める。

 何が秘密に当たるのかがわからない。秘密の範囲が恣意的に、際限なく広げられる危険性がある。しかも半永久的に公開されないかもしれない――。秘密法に対する、これらの根本的な懸念や不安は、何ら払拭されていない。ここにきて自民党総務会でも、運用基準をめぐり、「知る権利」「報道の自由」が十分に担保されていない、運用が正しいかどうか誰も検証できないなどの意見が出たという。

 先日の衆院予算委員会では、集団的自衛権行使を判断する根拠となった情報が特定秘密に指定され、国会に開示されない懸念などが指摘された。

 首相は「行政機関が特定秘密提供を拒む場合には、公文書管理監にその理由を疎明しなければならないので、提供されない場合は極めて限られる」と答えた。それは「あり得る」ということなのか。だとすれば具体的にはどのようなケースが想定されるのかを聞きたいが、議論はそれ以上深まらなかった。

 ただすべきことはまだ多くある。国会ではギリギリまで議論を重ねてほしい。