「ニュース重視」にシフトした東洋経済オンライン、狙いは 山田俊浩さん

2014年10月11日

山田俊浩(やまだ・としひろ) 1971年埼玉県出身。早稲田大学政経学部政治学科卒。1993年東洋経済新報社入社。精密、電機、コンピューター、銀行などを幅広く取材。週刊東洋経済誌上で「アマゾンの正体」などの大型特集を企画。著著に「稀代の勝負師 孫正義の将来」。今年7月から東洋経済オンライン編集長を務める。
山田俊浩(やまだ・としひろ) 1971年埼玉県出身。早稲田大学政経学部政治学科卒。1993年東洋経済新報社入社。精密、電機、コンピューター、銀行などを幅広く取材。週刊東洋経済誌上で「アマゾンの正体」などの大型特集を企画。著著に「稀代の勝負師 孫正義の将来」。今年7月から東洋経済オンライン編集長を務める。

 「主役は編集者や編集長じゃない。記者なんだ」。新興メディア「ニューズピックス」に転職した佐々木紀彦氏の後任、山田俊浩・東洋経済オンライン編集長(43)は、東洋経済オンラインを「情報サイトからニュースサイト」にシフトさせた。その狙いは何か、効果は上がっているのか、聞いてみた。【聞き手・尾村洋介/デジタル報道センター】

 −−オンライン編集長を打診されたときの印象は?

 山田さん 私は、去年の10月からニュース編集部の編集長をやっていました。そこはオンラインと雑誌の両方にニュースを提供する部署なので、オンラインの仕事を半分、去年の10月からやっていたようなものです。もともと記者として長期にわたってIT業界を担当してきたので、自分だったらこうするのに、とフラストレーションがあった。思っていたことがいよいよ実践できるぞ、という風に感じました。

 −−東洋経済オンラインの特色は?

 山田さん (会員)IDもない、完全にフリーで読めるサイト。ヤフーをはじめとする各種ポータルにもニュースを出している。スマートフォンのキュレーションアプリに対しても1パラグラフを、本サイトの記事へのリンクとともに配信していく。いろいろなところに配信しているため、読みごたえのあるコンテンツは、本当に多くの人に読まれています。編集長に就任後、「タイムリーなニュース」を重視するよう編集方針を変えたことも奏功していると思います。

 −−いわゆる「ストレートニュース」ということですか?

 山田さん ストレートなのですが、それに独自の分析を入れる。例えば新型iPhoneが発表されたときは、独自の知見をもっている書き手の人にたくさんの記事を書いてもらいました。リリース記事ではなく、それをどう評価するかというものをタイムリーに、熱々のうちに、サイトに入れていく。もちろんIT関連だけでなく、経済、企業、マクロ、ミクロなど経済系で何か大きいニュースがあったら、無視しないで伝える。タイムリーに独自の視点のものを伝えていくように心がけています。

 −−佐々木前編集長時代と路線の違いはありますか?

 山田さん ブログ的な記事はなるべく少なめにして、ジャーナリスティックな記事に大幅にシフトしています。一時期かなり多くなっていた、取材に基づかないブログ的な記事は、あまり入れないようにしている。引き継いでいるのは、キャリアとか教育、自分のためになる情報。これは前体制の時に充実させて大きな成果をあげました。

 −−ジャーナリスティックな方向に大きくシフトさせたと。

 山田さん ええ。情報サイトからニュースサイトに移行させて、世の中の人が関心を持っている情報については、漏れなく、ちゃんと伝える形に変えました。外部サイトとの提携も増やしています。新たにロイターの動画部門と提携し、同社の動画をどんどん配信していっています。また、書評のHONZ、有料メルマガ「プレタポルテ」の夜間飛行、健康サイトの「日刊ケアイズム」を運営している日刊スポーツなどとも提携して、情報を転載しています。

 東洋経済オンラインは、オリジナル記事を中核としつつも、さまざまな読みごたえのある記事が載っているサイトにしたいのです。そのほかに重視しているのはスマートフォンへの最適化とソーシャル対応です。私が編集長を引き受けたときには、東洋経済オンラインのフェイスブックのフォロワー数は約2万5000人だったが、今は5万2000人ぐらいになっている。4カ月で倍増しました。何を強化したかというと、自分たちがサイトに配信した記事をどんどんツイッターやフェイスブック上で紹介しています。

 −−情報サイトからニュースサイトにシフトした理由は?

 山田さん 週刊東洋経済には、ニュース、連載、特集がバランス良く掲載されています。中でも強みは企業ニュースです。東洋経済の多くの記者が、会社四季報の取材のために担当企業に張り付いていて、担当の会社で事件が起きたとき、新しい提携、発表があったときに、記事がスッと出る体制になっています。読者の強い支持もそうした記事にある。その一番強いところに最適化したサイトに、まずはしようということです。

 ただし、実のところ、そういった企業記事は、それほど多くは読まれません。でも、読まれるものだけを引っ張ってくると、どうしてもあおり風のものでPV(ページビュー、閲覧されたページ数)を取るということになり、東洋経済のブランドを毀損(きそん)する。地道に足で稼いだニュースを載せるより、器用に記事を書ける人に頼みながら、表面をなでるようなものを載せて、一時的にPVを取りにいく、ということになりがちなんです。自戒の意味も込めて、就任時に「主役は編集者じゃない、ましてや編集長でもない、主役は記者なんだ、記者が書く記事がきちんと世の中に流通していくように舞台を整えるのが編集者であり、編集長だ。PVを気にする必要はない」ということを社内で強く言ったんです。記者のモチベーションを高めるためにも、やはり、情報サイトではまずい。ビジネス関連のニュースサイトであるべきだ、と。

 競争という意味では、もちろん激しいと思います。でも、他が報じていないものをどうやって報じていくかというのが勝負。東洋経済オンラインにいくと、「ここにしかないようなものがある」「他のものを軽くまとめているような記事じゃないよね」と評価してもらえるようにするのが理想です。

 あと、もう一つ大きく変えたのは、前任の時代には、週刊東洋経済の発売日に、同時にその目玉記事を東洋経済オンラインに載せることをやっていた。その結果として週刊東洋経済の主要な記事は東洋経済オンラインで、ただで読めるというイメージが広まってしまったんです。それを、今はやめました。週刊東洋経済の記事で載せているのは、毎週日曜日の18時に「明日発売の特集はこういう特集です」という宣伝、それから先ほど話した雑誌とオンラインの両方に載るニュースと一部の連載だけです。週刊東洋経済の記事で、大特集やスクープ記事として掲載しているものは一切転載をしないようにしています。それだけが理由ではありませんが、週刊東洋経済の部数も、8月ぐらいから好調な号を連発しています。おそらく、週刊東洋経済の主力記事は東洋経済オンラインで、ただで見られるというイメージはだんだん無くなってきたんじゃないでしょうか? 東洋経済オンラインのためってことを考えれば、もっと週刊東洋経済の記事を転載させてもらったほうがいいんですが、それは自分が紙の雑誌を長くやってきたのでわかるんですが、完全な自殺行為です。お互いにすみ分け、切磋琢磨(せっさたくま)していくということをやっています。

 −−紙に載せる記事と、ウェブに載せる記事と特性が違うように書き分けますか? それとも、さほど差がないですか?

インタビューに答える山田俊浩・東洋経済オンライン編集長
インタビューに答える山田俊浩・東洋経済オンライン編集長

 山田さん さほど差がないけれども、紙の場合はグラフや表を入れることが簡単にできる。ところが、オンラインの場合は、スマートフォンやパソコンで見られたり、テキストだけ送られてヤフーで読まれたりとか、いろんな読まれ方をするので、真っすぐ、テキスト一本のみでしっかりと読ませなきゃいけない。ストーリーをきちっと書くという意味では、オンラインの方が大変な面があります。

 −−オンラインで強化しているのはどんなところですか?

 山田さん 特にITなどテクノロジー的なことについて、何かあったらしっかりと書く。どんなニュースも扱うというよりは、少し絞ってテクノロジー系には強くしている。あと、トヨタやソニー、日産など、多くの人が関心を持っている重要度の高い企業については、オンラインでは、必要であれば、しつこいくらい記事を出します。

 −−現在のPVはどのくらいですか?

 山田さん 9月実績は6450万です。PVはちゃんとした数字を公表していますし、これからも公表を続けます。前編集長時代にリニューアルを行い、週刊東洋経済からの転載記事の力によって2013年3月には5301万になったのですが、そこをピークに長期間、停滞していた。幸い、私がサイトを担当することになってからは成長軌道に乗り、7月の時点で過去最高を更新し、8月も9月も連続で更新しました。

 ユニークユーザー数(UU、サイトを訪れた人の数)も2013年3月の時点で703万だったものが、この9月には918万まで伸びました。大きな影響力を持つサイトになるならUUは1000万以上は欲しい。年内には月間1億PV、1500万UUを目指したいと思っています。

 −−最近急拡大しているキュレーション系メディアについてはどう見ていますか?

 山田さん 我々のサイトはオリジナルコンテンツが主体、それに対し、キュレーションサイトはそうしたものを集めているサイト。フェアな条件であれば、私たちはどんどんキュレーションサイトと組んでいきます。ただし、ウィン・ウィンにいくためには、我々自身も、単に記事を渡すだけじゃなくて、「あ、この記事面白そうだ、続きを読もう」ということで、東洋経済オンラインに戻ってもらわないといけない。ヘタをすれば見出しだけ見られて、記事本文には来てくれないかもしれない。だから、キュレーション系のサイトに情報を使ってもらうことはかなり真剣勝負の世界です。

 もし鎖国をして、キュレーション系に情報を渡さなければ、PVを取られることもない。「鎖国」をしたらもっと楽になると思うんです。実際、そういう「うちは大店(おおだな)を構えていればみんな見に来るんだから別に支店なんか開けなくたっていい」というサイトはあります。でも、われわれはいろんな所に「支店」を設けるやり方をこれからもどんどん進めていきます。キュレーションメディアとは全方位外交で、いろんなところにお店を作って、「あ、ここからはこういうお客さんが来るんだな」ということをちゃんと解析しながらやっていきます。

 (江戸時代の)日本が一時的になぜ鎖国をしたかというと金や銀が流出してしまうから、でした。価値が流出してしまうから鎖国するという考え方もあると思いますが、実は、オープンにしていたほうが鍛えられるんです。一時的には金が流出したような気がして悔しい思いをするのですが、しっかりとサイトに帰ってきてもらう、関連記事をつけて、なるべく周遊させるとか、仕組みで読まれるようにできるというのが、オンラインの面白いところであると思う。読まれ方を増やすためのいろんな仕掛けを整備すれば、一つ一つの記事のPVが底上げされる。「他社にPVを取られるから鎖国する」というのではなくて、取られているのだったら「何でとられているのか」「もっと帰ってくるように仕掛けをすればいいじゃないか」という、そこを工夫していきたい。そういう意味で、キュレーションサイトは脅威というより、パートナーだと思っています。

 −−新聞社のサイトでもキュレーションサイトやソーシャルからの流入が増えて、直接サイトに来てくれる人は減っています。すると、ニュースが単品で読まれるので、サイト上の構成の工夫にあまり意味がなくなってしまうんですよね。

 山田さん 一番いいのは、ぽんと表玄関に来てディスプレー広告もきれいに整った大手門から入ってもらうこと。だけど、ユーザーからみたらキュレーションサイトの方が便利で、それはもうしようがない。私自身も愛用していますから。そういうところを是として進んだ方が、決して苦しいことではないような気がする。「東洋経済オンラインというのはこういう記事が読めるところなんだ」ということを分かってもらい、ブランドが認知されるということであれば、時間がかかっても、必ずPV増につながりマネタイズもできると思うんです。

 −−ライバルは?

 山田さん 意識しているのは、このわずか1年で急伸したハフィントン・ポスト(日本版)。去年の5月にスタートしたばかりで、UUが1300万です。何でそこまでできたのかというと、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の活用が大きいのではないでしょうか。参考にしています。

 −−ニューズピックスはどうですか?

 山田さん 既に自前のコンテンツの掲載を始めていますね。どう読者の満足度を上げていくか、ということではお互い見せ方が全然違うとは思いつつ、もちろん、東洋経済オンラインの前任の編集長がやっているので、コンテンツも読者もかぶっています。これまで、ニューズピックスを運営しているユーザーベースは最も親密なパートナーのうちの1社でしたが関係は大きく変わりました。それなりのライバルにはなります。

 −−新聞社のニュースサイトも有料化したり、IDを導入したりする社が増えてきました。東洋経済オンラインは無料のままでいきますか?

 山田さん 当面このままにします。IDを導入すればお客さんは減るでしょう。お客さんが増えるだけ増えて、本当に圧倒的なプレミアムコンテンツとして、有料で提供できる部分があれば、そういう形にすることも考えられます。しかし、今のところそこまで強いコンテンツなのか、正直よく分からない。「これだったらお金を払う」というコンテンツが、それほど簡単に集まるとも思っていません。そうであれば、「逃げ道」を考えるのではなくて、無料という厳しい世界の中で、どこが本当に面白いもの、支持されるものを提供しているか、という勝負をしていく。中身で勝つ、コンテンツで勝つしかない。大言壮語はせず、実績を示していきたいと考えています。

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