■肉体的虐待を容認
ユン氏へのいじめは、市民団体の韓国軍人権センターによって暴露された。同センター代表のイム・テフン氏は、「組織的な隠ぺい工作があった」と非難している。この事件を受けて陸軍参謀総長が辞任した。
さらなる虐待行為を防ぐため、国防省は、軍に対して恒久的な人権委員会の設立を求めた。さらに先日は、全軍を対象に任務を中止して人権に関するセミナーを終日受講させた。軍検察は今月、ユン氏を殺害したとされる4人の兵士たちへの容疑を、過失致死から殺人に変更した。
兵営文化の抜本的改革を求める声はこれまでも大きかった。だが、総勢65万人に上る韓国軍における肉体的虐待は、2倍の規模とされる北朝鮮軍に対抗するために兵士たちを鍛える手段として昔から容認されてきた。
軍による2回のクーデターと長期間続いた戒厳令(朴槿恵大統領の父、故朴正熙元大統領の時代)によって韓国軍は、軍内の問題処理に並外れた自由裁量権を与えられてきた。そのため民主主義に基づいた監視をほとんど免れている。
■死体安置所に残る遺体
それは、いじめた側が適切な罰を与えられていないことを意味している。軍の死体安置所には約150の遺体が残っている。彼らの死因は、「軍隊生活への不適応」とされている。遺族は死因を確認するための独自調査を求めて、遺体の引き取りを拒否している。
かつて軍の弁護士だったチェ・カンウ氏は、軍事裁判所は「韓国の恥だ」と言う。法的知識を持たない軍高官が、裁判手続きを統括しているからだ。
元大臣で、徴兵制廃止のために現在活動しているキム・ドゥクァン氏は、先進国の多くが徴兵制度を廃止するなか、韓国はその流れから外れていると指摘する。キム氏は北朝鮮の脅威を真剣に受け止めている。だが、軍隊の強さが先進技術に基づく時代に、「銃を構えるにすぎない」兵士が何の役に立つのかと問いかけている。
キム氏はまた、虐待に加担する者が内部分裂を助長している点も懸念している。韓国軍は長年、徴兵制を維持し文民統制を払いのけるための口実として国の安全保障を使ってきた。キム氏のような常備軍支持派は、韓国の安全保障は徴兵制でなく文民統制によってこそ守られると主張している。
(c)2014 The Economist Newspaper Limited. Sep. 27th, 2014 All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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