【香港=粟井康夫】香港政府は9日、学生団体と10日に予定していた選挙制度改革を巡る対話を見送ると発表した。2017年の香港行政長官選挙で民主派の立候補を事実上排除するとした中国の全国人民代表大会(全人代)の決定の扱いを巡り事前調整を続けてきたが、折り合えなかった。学生らが退陣を求める梁振英行政長官が外国企業から秘密裏に報酬を受けていた疑惑も発覚、事態は再び混迷してきた。
政府ナンバー2の林鄭月娥政務官は9日夜に記者会見し、「学生団体は基本法違反の仕組みを要求し、成果がなければ占拠を拡大すると発言するなど、対話の基礎が揺らいでいる」と述べ、対話を当面見送ると表明した。学生らに中心部占拠からの撤退を求め、警察当局による強制排除の可能性も否定しなかった。
中国は「重要原則問題で譲歩の余地はない」(共産党機関紙の人民日報)など、全人代決定を一切見直さない方針を示している。香港政府は学生団体と対話に向けた予備交渉を重ねてきたが、学生側が決定撤回を前提とするかぎり、成果を得るのは難しいと判断したとみられる。
香港学連の周永康秘書長は同日夜の記者会見で「北京(中国政府)が圧力をかけたのか政府内部で亀裂が起きているのかはわからないが、対話の余地は狭まっている」と政府による一方的な見送り決定を批判した。政府に対話再開を迫るためにも幹線道路の占拠を続け、さらに多くの市民に参加を呼びかける考えを示した。
これに先立ち、学連と中高生でつくる「学民思潮」、民主派団体「和平占中」の3団体の代表は同日夕に共同記者会見し、全人代決定の撤回と、有権者の推薦があればだれでも立候補できる仕組みを求める方針を確認した。政府が具体策を示さなければ、占拠や授業ボイコットを拡大するとしていた。
一方、オーストラリアのフェアファクス・メディアは8日、梁長官が豪エンジニアリング会社UGLから400万ポンド(約7億円)の報酬を受け取っていたと報じた。
UGLは11年、梁氏が役員だった英不動産コンサルティング会社DTZの買収に際して、退職する梁氏が競合他社に入社しない条件で報酬を支払う契約を結んだ。梁氏は翌12年の長官選に出馬して当選したが、関係当局に報告していなかった。
行政長官弁公室とUGLは9日、「企業買収時に同種の機密契約を結ぶのは通常のビジネス慣行だ」との声明を発表したが、民主派議員は追及する構えだ。独立捜査機関の廉政公署(ICAC)も事実関係の調査に乗り出す見通しだ。
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