憲法9条:「思う心は広がった」ノーベル平和賞逃す
毎日新聞 2014年10月10日 20時57分
今年のノーベル平和賞で、候補だった「日本国憲法9条を保持する日本国民」は受賞を逃した。「それでも平和を願い、9条を大切に思う心は確実に広がった」。草の根で署名活動を展開した市民団体(事務局・相模原市)のメンバーらは、充実した表情を見せた。
「日本国民」を平和賞の候補に押し上げたのは、「『憲法9条にノーベル平和賞を』実行委員会」。神奈川県座間市の主婦、鷹巣(たかす)直美さん(37)が1人で始めた活動だ。賛同は広がり、実行委によると署名数は10日時点で計44万2443人に上った。
2児の母の鷹巣さんは「世界中の子供を戦争から守りたい」と昨年、ノーベル委員会に平和賞授与を求めるメールを送付。実行委を結成して署名集めと推薦人探しを進めた。今年、受賞者を「日本国民」として推薦人43人と約2万5000人分の署名でエントリー。4月にノーベル委から「今年の受賞候補に入った」と返事がきた。
9条は今、試練を迎えている。集団的自衛権を巡り2月、安倍晋三首相が「改憲しなくても解釈変更で行使は可能」などと発言。署名数は6月に10万人を突破した。7月に政府が行使を容認する閣議決定をすると爆発的に増え、9月中に40万人を超えた。
実行委の共同代表の一人で元大学職員の落合正行さん(81)は、全国から届く紙の署名を数日おきに郵便局へ取りに行く役。閣議決定後は重さ10キロを超え1人で運べなくなった。「署名に込められた気持ちはさらに重いと感じた」
今年の平和賞はパキスタンのマララ・ユスフザイさん(17)ら。鷹巣さんは笑顔で「心から応援の声を届けたい」と祝福し、仲間たちとの取り組みを「小さな声も集まれば大きな力になると実感できた」と振り返った。
ノーベル委からは「日本国民」を来年も平和賞にエントリーするとの趣旨のメールが届いている。鷹巣さんらは署名100万人を目指す。【河津啓介、高木香奈、高橋和夫】