グローバリゼーションに対するカウンターが起き始めている
9月21日、通算8回目となるくるり主催の『京都音楽博覧会』が、今年も梅小路公園を舞台に開催された。僕はくるりのデビュー当時からのファンで、毎年のように『音博』に行ってみたいとは思いつつも、どうにも腰が重く、今まで1度も行ったことがなかったのだが、先日発売されたばかりの新作『THE PIER』が素晴らしかったこともあって、8年目にしてようやく『音博』行きを決断した。『THE PIER』という作品が、僕が旅に出る理由を作ってくれたというわけだ。まあ、新幹線を使えば東京から京都なんてたったの2時間なので、「旅」というほどではないし、今となっては、「なんで今まで行かなかったんだろう?」と後悔しかないのだが……つまり、『音博』はそれだけ素晴らしい空間だったということだ。
今年は海外から4組のアーティストが参加し、これまで以上に国際色豊かな『音博』だったこともあってか、オープニングアクト的な立ち位置として、ワールドミュージック全般に詳しいライターのサラーム海上が登場。彼がDJを務め、世界中の音楽を紹介するラジオ番組『音楽遊覧飛行エキゾチッククルーズ』を音博会場で公開放送的に、岸田繁と共にステージ上からお届けするという『音博遊覧飛行』が行われたのだが、その中で特に印象的だったのが、アルメニア出身のジャズピアニスト、ティグラン・ハマシアンを紹介したときの、「今世界の各地でその土地の民謡をジャズで表現するという動きが起こっている」という話だった。僕はこの動きが実際どれくらいの規模で起こっているのかはわからないが、このような動きが起こっていること自体はよく理解できる。
端的に言えば、つまりこれはグローバリゼーションに対するカウンターというやつだ。何かが起これば、そこには必ず反対側からの動きも起こっている。U2がiTunesを通じて新作を5億人にバラ撒けば、その裏で地域固有の音楽の重要性を訴える動きが起こるというのは、とてもよくわかる。なおかつ、ここで重要なのは、ただ民謡を演奏するのではなく、あくまで時代に則した形に編み直すということで、グローバル化が進んだ現代においては、違う地域の文化を取り入れた上で、その土地の民謡を鳴らすことによって、そこにコミュニケーションが生まれる。それはつまり、『THE PIER』というアルバムが鳴らしていたことであり、『京都音楽博覧会』が体現していることだと言っていいだろう。
町内会のお祭りに来た民謡歌手のようなサム・リーのステージ
今年出演した海外勢を紹介しておくと、アルゼンチンのバンドネオン奏者トミ・レブレロ、レバノン出身のシンガーソングライターで女優のヤスミン・ハムダン、イギリスのフォークシンガーであるサム・リー、そして、Penguin Cafe Orchestraの魂を息子が引き継いだイギリスのPenguin Cafeという4組。それぞれが非常にユニークなステージを披露してくれたのだが、個人的に印象深かったのはサム・リーのステージ。バイオリンやピアノに加えて、日本の琴や三味線、さらにはビヨーンビヨーンと印象的な音を出す口琴(アニメ『ど根性ガエル』でピョン吉が飛び跳ねるときの、あの音です)などを用いて、イングランドのトラベラーズ(漂泊民)の伝承歌を今に鳴らすそのステージは、今年の出演者の中でも、音楽との向き合い方が一番くるりと近いように感じられるものだった。
さて、梅小路公園は京都駅から徒歩15分ほどの立地で、市街地の中なのであまり大きな音は出せないということは知っていたものの、実際には僕の想像より大きな音が出ていて、決して迫力不足という印象はなかった。とはいえ、大規模なロックフェスに比べれば確かに音量は小さいし、またステージも少々小ぶりで、やはり「フェス」というよりは、地域と共存した「大規模な町内会のお祭り」といった感じ。サム・リーの歌うトラッドフォークのメロディーは、どこか日本の民謡にも通じるものがあって、特に三味線を用いた曲のときは、まさに町内会のお祭りに来た民謡歌手の歌い手のよう。それでも、演奏しているのは全員外国人というその絵には、なんだかニヤニヤが止まらなかった。
椎名林檎、tofubeats……日本人アーティストの存在意義
くるり以外の日本人の出演者はtofubeatsと椎名林檎で、彼らの存在意義もまたとても大きかった。この日の出演者の中では最も異色だったと言えるtofubeatsは、決して低音が強く出るわけではない『音博』のステージに少々苦戦したかもしれないが、それでもメロディーの力でオーディエンスを盛り上げたのは流石だった。そして、彼の存在が示していたのは、伝統楽器を使うことがイコール民謡ではないということだ。今現在tofubeatsが使っている機材も、100年も経たないうちに過去の遺物となることだろう。逆に言えば、その機材を、エレクトロニクスを個人がどう使うかによって、それも民謡になり得るのだ。『THE PIER』という作品も、くるりの近作の中ではエレクトロニクス色の強い作品だったということもあって、tofubeatsの存在はどうしても外せなかったのではないかと思う。
そして、よりわかりやすく『音博』の理念を体現していたのが、椎名林檎のステージだ。ストリングスカルテットにピアノとアコーディオンという編成に、浴衣っぽい着物姿で現れた椎名林檎は、最初の“いろはにほへと”を歌い終えると、スペシャルゲストとして石川さゆりをステージに迎え入れる。もちろん、『音博』ファンの方ならご存知の通り、石川さゆりがこのステージに立つのは初めてではなく、実はこれが3回目の出演という常連組の一人。しかも、この日は演歌は1曲も歌わず、ジャズをベースにクラシカルなアレンジが施された林檎による提供曲とカバーのみを披露。そう、着物を着た演歌歌手がジャジーな曲を歌うというのは、言ってみれば前述のティグラン・ハマシアンと同様であり、つまりサラーム氏の言っていたムーブメントが、まさにこの会場でも起こっていたということである。
くるりはこれからも旅を続ける
ラストに登場したくるりは、ドラム、パーカッションにコーラス隊も交えた計10人の大編成。アルバム『THE PIER』の曲順どおりの“2034”~“日本海”でライブをスタートさせると、やはり新作から“Brose&Butter”、そして“Liberty&Gravity”と続けて演奏していく。<ヨイショ! アソーレ!>と歌う労働歌を、4つ打ちをはじめとしたさまざまなリズムや展開で再構築した“Liberty&Gravity”も、まさにこの日に鳴らされるべき楽曲のひとつだったと言っていいと思う。その後は“time”や“三日月”など、『音博』らしいゆったりとした歌ものが続き、MCも東京でのライブ以上にリラックスしたナチュラルなもので、やはりここが彼らにとってのホームグラウンドであることが伝わってくる。
本編のラストに演奏されたのは“東京”。普段からくるりのライブでは最後に演奏されることの多い曲だが、『音博』で演奏することは多くないと言う。しかし、震災後に1度京都に戻り、昨年末に2度目の上京をしたということもあって、今年は特別に演奏することにしたそうだ。これは今さらと言えば今さらなのだが、京都という自らのアイデンティティーを常に重要視し、地元でイベントまで開催してしまうバンドの代表曲が“東京”だというのは、何ともアンビバレンツではある。つまり、この名曲が生まれた時点で、くるりというバンドが旅を続けるバンドであるということが、運命づけられたのだと言えるかもしれない。
アンコールでは「京都の友人レイハラカミと、佐久間正英に捧げた曲」という紹介から、“There is (always light)”を演奏し、最後はメンバーの三人のみがステージに残って、くるりはこれからも旅を続けること、年に1度戻って来れる場所があることの幸せを語り、“宿はなし”を演奏した。
世界中で民謡が鳴らされている。しかし、安息の地なんていうのは、きっとどこにもない。ただ、あなたが選んだその場所で、息をして、言葉を発し、歌を歌うということは、それだけで紛れもなく奇跡なのだ。世界中で民謡が鳴らされている。ハートビートに乗せて。魂のゆくえを捜して。
『京都音楽博覧会2014 in 梅小路公園』
2014年9月21日(日)OPEN 10:30 / START 12:00
会場:京都府 梅小路公園 芝生広場
出演:
くるり
Penguin Cafe
トミ・レブレロ
サム・リー
ヤスミン・ハムダン
椎名林檎
tofubeats
サラーム海上
料金:前売8,888円 当日9,999円
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