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プロ野球コラム
終盤の接戦を制してシーズンを2位で終えたことで、来季の続投が決定した和田豊監督。本拠地甲子園で、広島を迎え撃つ。
photograph by NIKKAN SPORTS
プロ野球亭日乗

「笑う阪神」ではCSを勝ち抜けない。
揃った戦力と勢い、あとは厳しさだけ。

鷲田康 = 文

text by Yasushi Washida

photograph by NIKKAN SPORTS

 セ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージが10月11日に甲子園球場で開幕する。

 去年とまったく同じカード、同じ場所での阪神と広島の対戦。昨年の戦いで最も印象に残っているのは、敗れ去った阪神の、ある光景だった。

 初戦を落として迎えた第2戦。2-7と敗色濃厚の9回2死から代打・桧山進次郎外野手の2ランホーマーが飛び出した。

 この試合を最後に引退する“代打の神様”の劇的なひと振りに甲子園は沸いた。淡々とベースを一周した桧山は、ホームベース付近でマートンと抱き合い、そしてベンチで待っていたのは笑顔のナインだった。一人、一人と手を合わせて、最後に全員でやったのがこの年、西岡剛内野手の発案で始まった本塁打のときのポーズ「グラティ」だった。

 その光景を観たときに、このチームの底知れない闇を見たような気がしたのである。

 普通ならあり得ないことが、ここにはある――それが率直な感想だった。

ファンが歓喜すれども、選手は冷静であるべきだ。

 引退する功労者の最後のアーチをチームメイトがみんなで祝福する。それは一見、感動的に見える光景かもしれない。

 ただ、である。

 果たしてあの瞬間がそれに相応しい場だったのだろうか。CSファーストステージでの敗退があとアウト1つに迫っていた。1年間、チームがそのために戦ってきた目標が、いままさに消失しようとしている瞬間なのである。そこで何を、あんなに笑えるのだろうか……。

 桧山の本塁打はもちろん感動的なものだった。あの場面で、代打で起用されて本塁打を打てる。その気持ちの強さと技術、そして運があるから、桧山は“代打の神様”になれた。スタンドのファンが熱狂し、惜別の大歓声を送る。野球を知るファンなら敵味方の区別なく拍手を送りたいシーンだった。

 もちろん本塁打自体、勝利に一縷の望みをつなぐ価値ある一撃である。ただ、だったらなおさら、選手の行動は違うものであるはずだ。静かな賞賛で十分である。それより、次の1点の可能性に向かって気持ちをすぐに切り替えるべき場面だった。

 しかし阪神の笑顔は、CSで敗れ去るという現実を、選手たちが受け入れることができていないように映った。言葉を変えれば、勝つことを経験していないから、敗れる意味の大きさが分からない、理解できない、ということかもしれない。

 そこに今の阪神の闇がある。

【次ページ】 今年の阪神は、戦力的には最も充実していると言える。

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