円安は明らかにマイナス、アベノミクスは間違い-野口悠紀雄氏
10月10日(ブルームバーグ):早稲田大学ファイナンス総合研究所の野口悠紀雄顧問は円安の進行について、輸入額が輸出額を上回る貿易赤字の状況下では日本経済に悪影響を与えるとの認識を示した。その上で、「日本売り」を回避するためにも長期的に産業の生産性を高める構造改革を進める必要性があると強調した。
野口氏は8日のブルームバーグ・ニュースとのインタビューで「実質為替レートでみると、今は歴史的な円安」とした上で、「円安によるネットの効果は明らかにマイナスだ。貿易赤字下では、輸入の増加による負担の方が大きい。貿易収支が黒字の時は円安がプラスと言えたかもしれないが、今は違う」と述べた。
財務省(旧大蔵省)出身で一橋大学や東京大学教授を歴任した野口氏は反アベノミクスの論陣を張っている。量的緩和による株高・円安でデフレ脱却を目指す安倍政権の政策に対し、国民生活だけでなく、中小企業にも悪影響を与えると警告してきた。「円安は経済全体にとってマイナスではない」と繰り返す黒田東彦日銀総裁の政策を批判した。
野口氏は、円安で輸出価格が上がり、利益が増加している産業がある一方で、「消費者物価の上昇によって家計の実質所得が減って、消費の伸びが落ちるという意味で悪影響を与えている。企業でも転嫁できずに負担している部分が10兆円を超え、大きな負担となっている」と指摘。4-6月期の国内総生産の落ち込みの要因は消費増税の反動減だけでなく、「円安の影響もあるはずだ」と語った。
貿易収支は2011年度以降3年連続で赤字となっており、13年度は11兆4745億円と過去最大の赤字額を記録した。
日本売り防止その上で、円安進行によるキャピタルフライト(資本の逃避)を阻止するためにも「日本の産業の生産性を高め、長期的なファンダメンタルズ(基礎的諸条件)を改善することが日本売り防止の唯一の施策だ」との持論を展開した。短期的には異次元緩和の停止を挙げたが、「金利は上がる。コントロールするのは至難の業だ」と述べた。
足元の経済情勢については、「実質GDPの上昇率が落ち、経済が拡大しない一方で物価が上がっている」とし、不況下で物価が上昇する「スタグフレーションそのものだ」と指摘。13年の経済成長を支えた公共事業と住宅の駆け込み需要が剥落することで「今年マイナスになる可能性は否定できない」との認識を示した。
野口氏は日本経済にとって生産性の高いサービス産業の構築と少子高齢化で見込まれる労働力不足を補完する移民受け入れが必要だと主張。安倍政権の成長戦略について、「設備投資の増加や法人税の減税など製造業への回帰を考えており180度的外れだ」とし、移民政策についても「技能研修制度でお茶を濁し、背を向けている。アベノミクスは最初から間違えている」と批判した。
2割の円安日銀の物価2%目標については「賃金が上昇せずに物価が上昇するのは家計の実質所得が減って貧しくなるということ。もともと2%という目標がおかしい」と語った。その上で、「今から消費者物価を2%にするためには2割円安にならなければならない。足元を1ドル=110円とすると、130-140円になるということだ」と述べた。
来年10月に予定されている消費増税については「景気に関係なく上げるべきだ。消費税が経済に抑圧的な影響を与えるのは当たり前。増税しないと財政に対する信頼が失われ、金利が高騰する。その方が日本経済にとってはるかにダメージが大きい」と指摘した。
野口氏は「円安によって日本が貧しくなっているのは1人当たりのGDPの水準を見るとはっきり分かる。今、米国の7割ぐらいになっている」とし、「90年代の中ごろには米国を抜いていたが、いまはアイルランドよりも低い。欧州のほとんどの国より低い」と話した。
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更新日時: 2014/10/10 09:28 JST