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「やめといたら?」と言われたが、出してみると大反響 DeNAの“オタク情報”専門アプリ「ハッカドール」が目指す未来

ITmedia ニュース 10月10日(金)14時8分配信

 「やめといたら? というツッコミを何度ももらいました」――“オタク”向け情報を配信するニュースアプリ「ハッカドール」を企画したディー・エヌ・エー(DeNA)の岩朝暁彦さんは、当初の社内の反応をこう振り返る。

【フルボイスアドベンチャーゲーム「ハッカトーク」】

 ハッカドールは、アニメ・マンガ・ゲームなど“オタク向け”に特化した情報を、ユーザーの好みを学習しながら配信するアプリ。ハッカドールという名の美少女キャラクターが登場し、ユーザーに情報を教えたり、遊び相手になってくれる。

 MBA(経営学修士)ホルダーを積極的に雇用するなどスマートなイメージのDeNAと、オタク向けアプリの印象は重なりづらい。実際、社内からは「よく分からない」「DeNAがこんなものを出すとユーザーに叩かれる」など否定的な意見も続出した。

 だが、出してみると大反響。公開から1カ月あまりで数十万ダウンロードを突破し、ユーザーから熱い支持を受けている。

 企画した岩朝さんは、外資系コンサル出身のMBAホルダーかつ、漫画やライトノベルが大好きなオタクだ。特技は、漫画やラノベがアニメ化するタイミングをほぼ正確に言い当てること。DeNAには昨年入社し、社内の営業改革や、コンテンツ企業にゲーム化を打診するマーケティングなどを手がけてきた。

 「面白い作品がたくさんあるのに、ユーザーに届いていない。このままではコンテンツがマス向けに偏り、業界がしぼんでしまう」――ハッカドールの原点は岩朝さんの危機感だ。コンテンツ市場が伸び悩み、業界全体が保守的になる中で、“尖った”作品が出し続けられる環境を維持し、エンタメ消費を元気にしたいという。

●きっかけはコミケ 「面白いコンテンツよ、もっと届け!」

 開発のきっかけは、「コミックマーケット 85」(2013年冬コミ)への同社の出展だ。Mobageの美少女ゲームのマーケティングや、ゲーム化タイトルを獲得しやすくするための営業、DeNAのイメージの転換などが目的。初参加ながら用意したグッズはすべて配り切り、ゲームのインストール数も急伸するなど大成功を収めた。

 成功を受け、次の夏コミにも出展しようと目論んだものの、開催は翌年の8月。半年以上のブランクがある。その間にも継続的に情報発信できないか――ハッカドールの開発は、そんな流れで始まった。

 ハッカドールは、ニュースサイト、個人ブログ、まとめサイトなどさまざまな媒体から、ユーザーの好みにマッチした情報を横断的に検索し、1日3回ニュースとして届ける。「使えば使うほど賢くなる」のが特徴で、ユーザーが閲覧した記事や検索ワードなどを学習し、よりマッチした情報を提供するよう進化する。

 「面白いコンテンツよ、もっと届け!」――アプリには、そんな願いが詰まっている。ユーザーの好みに応じた情報を高精度で届けることで、埋もれた良質な作品をより多くのファンに届けたいという。「コミケで購入した同人誌を読んで作品やキャラクターをより深く知るように、ハッカドールを通じてオンラインでも好きな作品やキャラクターに出会ってほしい」

 特定媒体との提携は行わず、ニュースサイトからまとめサイト、個人ブログなど幅広く情報を収集。媒体とオープンにつながり、制作側だけでなくファンによる発信もとらえることが、コンテンツの盛り上げにつながるとみている。「アイマス(THE IDOLM@STER)が流行ったのは、同人文化やニコニコ動画を通じてユーザーが自ら参加し、世界観を広げたから」――岩朝さんはそんな例を引き、ユーザー発信の重要性を説く。

●「アプリそのものも楽しく」 アドベンチャーゲーム収録

 アプリには、エンタメ要素も充実させた。公式の美少女キャラ・ハッカドール1号/2号/3号の3人がアプリの各所に登場。読んだ記事で「捗ったか」をユーザーに尋ねたり、彼女らと会話できるアドベンチャーゲームで遊べたりする。

 一定数の記事を読むと、ハッカドールのイラストをあしらった「バッジ」や、アニメのエンディングの後に表示される「エンドカード」のようなイラストがもらえる機能や、ユーザーの好みのジャンルを「成分表」として表示する“お遊び”機能も備えた。

 「ハッカドールのユーザーは、エンタメコンテンツという“楽しいもの”に触れたい人たち。アプリ自体も楽しくないと」――そう考え、さまざまな遊びの要素を採り入れた。ちなみに「エンドカード」という言葉も社内の非オタクには伝わらず、「なんでカードが出てくるの?」と困惑されたという。

 ハッカドール1〜3号とトークできるフルボイスアドベンチャーゲーム「ハッカトーク」は、ユーザーの要望を受けて開発した機能。リリース後に最も多かった不満が、「ハッカドールの声が出ない」ことだったのだ。「えっ、ニュースアプリなのに声!?」と驚いたものの、社内のWebゲームのエキスパートに頼み込み、DeNA初のフルボイスアドベンチャーゲームを4日間で制作、実装したという。

●美少女Mobageチームが集う「美少女島」

 ハッカドールの開発を担当した「美少女Mobage」チームは、選りすぐりのオタクたち約10人(うち2人は女性)で構成されている。人気声優ほとんどの所属事務所や直近のスケジュールを暗記しているという「声優ソムリエ」や、2次元の世界に生きる心は乙女の男子“オトメン”など強烈な個性を備えたメンバーが、美少女キャラのポスターやタペストリーが貼られた「美少女島」と呼ばれる社内の一角に集う。

 「DeNAはスマートな会社にみえるが、チームメンバーは『そんなことはいいから美少女だ!』みたいな人ばかり」。メンバーはそれぞれ、美少女コンテンツのコンサルティングなど別の業務を行いながら、4カ月でハッカドールを開発するという特急スケジュールだったが、楽しみながら開発しており、「半分ぐらいの機能は、頼んでいないのにメンバーが勝手に作った」という。

●アプリ名は「社内から大反対」

 アプリ名「ハッカドール」は、「情報収集が捗る」「コンテンツ消費が捗る」という意味で付けたが、社内からは大反対にあったという。「捗る」ネットスラングが“非オタク”の社員には通じず、マーケティング担当者からは「『オタクニュースX』みたいな名前にましょう」と言われたそうだ。「そうなっていたらこのアプリの運命はかなり変わっていたでしょうね(笑)」

 ハッカドールという名の美少女のキャラが生まれたのは、アプリ名を決めた後。「ドール」の響きが「女の子っぽい」と感じたことと、アプリの使い始めは学習量が少ないためリコメンドの精度が低いが、「ちょっと“おポンチ”な女の子が時々間違える」という設定ならズレた記事でもユーザーにも受け入れられやすいだろうと考え、「ハッカドールという名の美少女キャラがニュースを探してくる」という設定にした。

 「どうせキャラを作るなら、アニメも作ってしまおう」と、アニメ制作会社・トリガーに勤める知人に連絡。キャラクターデザインとプロモーションビデオ(PV)制作の約束を取り付けた。

 アプリが扱うジャンルはアニメ、ゲーム、ラノベ、声優、特撮、コスプレ、BLなどと幅広いため、キャラは「1号」「2号」「3号」と3人作り、それぞれでジャンルを分担させた。「最初は5人の案をトリガーに持って行ったんですが、こんな短い尺(PVは1分55秒)で5人も出したら破たんするとアニメ監督に怒られた」ため、3人にとどめたという。

●「薄い本OK」の意図

 ハッカドールの公式サイトには「同人マーク」を表示。自作品を基にした2次創作同人誌(いわゆる「薄い本」)の配布を認めることを著作権者が示すマークで、「IT企業初の同人マーク採用では」と話題になった。

 同人マークを付けたのは「軽い気持ち」だったと岩朝さんは言う。「同人作家や人々に盛り上げてもらうことがハッカドールの世界観の育成に大事」――公式で2次創作を認め、ルールを定めることで、安心して同人活動を楽しんでもらいたいという。

●公開直後から大反響 キャラ人気は「想定外」

 8月15日。夏コミ当日に「ハッカドール」のアプリとPVを公開すると、大きな反響を読んだ。アプリの使いやすさや、ハッカドール1〜3号のかわいらしさ、トリガーが手がけたPVの質の高さに加え、「DeNAがこんなアプリを作るなんて」など、会社のイメージとのギャップに驚く声も多かった

 ダウンロード数は公開から2カ月足らずで「数十万の前半」。中心は20〜30代のコアなオタク男性で、ほとんどマーケティングを行わずに獲得したという。

 キャラの人気は「想定外」だったという。グッズ化の依頼が寄せられたり、自社・他社のゲームとのコラボレーションが決まったり、声を当てているアイドル声優のライブが盛り上がるなど、ニュースアプリの枠を超え、ハッカドール1〜3号が活躍。「サービスとしてもキャラクターとしても、オープンに育てていきたい」と岩朝さんは意気込む。

●ビジネスは「良くてトントン」 目標は武道館ライブ!?

 「ハッカドール」のビジネスモデルは、2つの可能性を検討している。1つは広告掲載や関連アプリへの送客などトラフィックを活用したビジネス。もう1つはアプリ内での物販だ。

 「ハッカドール」には、通販サイト「TSUTAYAオンラインショッピング」で販売している商品情報を、ユーザーの好みに合わせて提供する仕組みを実装。「関連商品の購入までワンストップで行える仕組みが作れれば、コンテンツの消費は捗る。そこで何らかの利益を得ても良いのでは」

 ただ、これらのビジネスが大成功したとしても、アプリ単体の収支はトントンかわずかな黒字にとどまるとみている。「大事なのは、ユーザーとコンテンツをつなぐ道を敷くこと」。多くの人やコンテンツが通る広い道を作ることができれば、その周辺の“道の駅”や“街”も発展。業界全体が活性化し、DeNAのエンタメ関連ビジネスの利益にもつながると期待する。

 ハッカドールの目標は「武道館単独ライブ」だと岩朝さんは笑う。「数百万インストールなどの目標もあり得るが、武道館やシビックホールでの(ハッカドールの声優による)単独ライブを目標に掲げたほうが盛り上がるので」

●10年後も「尖った」コンテンツが出せる環境を

 ハッカドールの真の狙いは、単体でのビジネス化や武道館ライブの成功ではなく、エンタメ業界全体の活性化だ。

 「いまのエンタメ業界はあまりサステイナブルではない」と岩朝さんは指摘。1週間に約50本ものテレビアニメが放送されているが、費用を回収できるのは半分以下。アニメーターや製作会社、出資者が赤字を被っている。

 赤字のリスクを回避するために製作会社は、既存のヒット作のシリーズ化に頼るなど安全策を採らざるを得ない。「そうなると資本力の勝負になり、作品がどんどんマス向け・画一的になる。文化的案側面が減って独自性が失われ、プレイヤー数が減ってエンタメのバリエーションが減ってしまうのはすごくつまらない」

 ハッカドールが目指すのは、多様なコンテンツを多様なユーザーに届けるマッチングの場だ。コンテンツとユーザーをつなぐ“道”を太く大きくすれば、“尖った”作品が埋もれることなくふさわしいユーザーに届き、エンタメの多様性の確保につながると展望する。

 理想とするのはコミケだ。「コミケは、ファンが興味のある作品やキャラに触れ、より深く知る情報収集の場」。ハッカドールも「オンライン版コミケ」のようなイメージで、作品とユーザーをつないだり、ユーザーの意見を作品に反映させられる場に育てていきたいという。

 「『初音ミク』や『モンスターストライク』『パズル&ドラゴンズ』も、ビッグヒットを確信して出したものではないと思う。それぐらいの“遊び”というか、尖ったものを出せる余力、雰囲気を作りたい」

 「ハッカドールもDeNAの中では“尖った遊び”。全員に止められたが、出してみると社内外から反響いただいた。こういう遊びは続けていくし、もっとみんなもやればいいと思う。もっとチャレンジャーが出てきてほしい。そのための場としてハッカドールが活躍できればありがたい」

最終更新:10月10日(金)14時8分

ITmedia ニュース

 

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