三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第270回 一基、年間900億円(2/3)

とはいえ、さすがに北海道電力レベルに「債務超過直前」の企業は他にない。現在の北海道電力は、赤字を拡大することで純資産を取り崩している状況にある。純資産が尽きた時点で、債務超過だ。
なぜ北海道電力が純資産を取り崩しているかといえば、もちろん原発を再稼働できていないためである。泊原子力発電所の1号機、2号機、3号機の再稼働ができないため、北海道電力は毎年2500億円超の「利益」を喪失している。日本の電力会社は、原発一基を稼働させると、一年間で約900億円の収支改善となるのだ。
 さすがに債務超過は洒落にならないため、北海道電力は日本政策投資銀行に議決権なしの優先株を発行し、500億円増資した。とはいえ、原発を再稼働しない以上、現在の北海道電力は大量に出血し、止血しないまま輸血している状態なのだ。
 結果的に、北電は再値上げに踏み切らざるを得ず、燃料調整費の値下げ分があったとしても、10月から電気料金が値上げになるわけである。
 要するに、現在の日本の電力サービスは、一基、年間900億円の収支改善効果がある原発を再稼働しない限り、
「ひたすら、電気料金が値上げされていく」
 か、もしくは、
「どこかの電力会社が債務超過になり、銀行融資を受けられなくなり、恐らく国有化」
 という、悲惨な状況に陥りかねないわけだ。
さらに、電力会社の赤字が続き、貿易赤字として数兆円の所得が外国に流出していっている。結果的に、「脱原発」のために必要な技術開発のための投資資金は出てこない。脱原発を本当に実現したいならば、使用済み核燃料の再処理、地層処分、原発の廃炉、そして蓄電技術に莫大なお金を投じ、研究開発、技術開発を進めなければならない。(ご存知の読者が多いだろうが、筆者は脱原発に賛成していない)
 などと書くと、ルサンチマンに染まった一部の国民が、
「脱原発のための投資資金など、悪の電力会社が人件費を削って調達すればいい!」
などと、無茶なことを言い出すわけだ。
 例えば、北海道電力の人件費が総原価(営業費+事業報酬)に占める割合は、8.2%の505億円に過ぎない。北電が人件費を「ゼロ」にしたところで、原発を一基再稼働する際の半分強の収支改善効果しかないのだ。

【図270-1 電気料金の総原価の内訳】
20140902.png
出典:各電力会社

現実のビジネスにおいて、企業が実際に人件費を10%切り詰めるなどということは至難の業だ。北海道電力が死に物狂いの努力を重ね、人件費を一割削ったとしても、50億円の収支改善効果でしかないのである。北電の毎年の赤字は、その20倍規模だ。

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10月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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