富野由悠季を知らない世代が、どのような反応をするのか? 『G-レコ』プロデューサー・小形尚弘インタビュー
2014年10月10日 08時00分
月刊エンタメ11月号特集『ボクたちがGのレコンギスタを見なきゃいけない理由』にて掲載したプロデューサー・小形尚弘氏のインタビュー。紙幅の都合で惜しくも掲載できなかった部分を補った『完全版』を特別公開しよう。
――今回はガンダムシリーズ初の深夜帯オンエアですが、その反面、富野由悠季監督は「子どもに向けて作っている」と強調されていますよね?
小形 子ども向けっていうのは富野さんが考える「自分への枷」みたいな部分なんです。今年(2014年)の11月で73歳になるんですけど、自分の好きなものだけでやってしまうと渋い作品になってしまう。富野さんは宮崎駿監督の『風立ちぬ』も大好きなんですけど、今回はテレビでロボットものをやるのだから、自分の趣味だけでやってはダメ。「若い世代、とくに子どもが観てワクワクする内容じゃないといけない」というのが発言の主旨のひとつだと思います。富野さん的には『ガンダム Gのレコンギスタ』(以下、『G-レコ』)を観て、いろいろ考えてもらいたいと思っている。僕は今年で40歳ですけど、僕ら世代はなかなか変われないじゃないですか。
――オールドタイプですよね(笑)。
小形 そう(笑)。「君らはすでに社会に出ているから変われないけど、子どもたちに種を撒いておけば、大人になった時に、よりよい世の中にできる」と。「深夜放送なので初めて観てもらう人たちは大人でいい。ただ、その人たちが面白いと思って後世に残してもらえれば」という考え方。今の大人や子どもはもちろん、さらに後の世代にも観てほしい作品なんです。 ——富野さんを動かしたのは、小形さんですか?
小形 そうですね。プロデューサーになった2007年くらいの時点で「何か一緒にやりましょう」という話をしていて。今回、7年越しに実現したのが『G-レコ』です。
――当時から『G-レコ』のアイデアが?
小形 根本は変わってないです。富野さんがその時に持ってきた企画書みたいなものがあるんですけど、それは月の人たちが地球に帰ってくるという話で……。
――あれ? 『∀ガンダム』ですね。
小形 僕も『∀ガンダム』だなって思いながら聞いていたんですけど(笑)。その後、富野さんがレコンキスタ(718年から1492年にかけて行われたキリスト教国によるイベリア半島の再征服活動)のドキュメンタリーをテレビで観て「これだ!」と思ったらしく。
――アイデアの萌芽が生まれた。
小形 それで「レコンキスタ」が仮タイトルになった。その後、何年かして今度は朝日新聞の天声人語を持ってきて、「これを読め!」と言われたんですよ。「なんだろう?」と思ったら、「牛丼、ゴールド、ガンダム……強いものには濁点がついている。だからレコンギスタにする」って言い出して。まあ宇宙世紀よりも遥か遠い未来なので、そこまでいくと言葉が変化しているかもしれないということで。
――なるほど(笑)。
小形 最初に「レコンギスタ」って聞いてもピンとこなかったんですけど、いまや「レコンキスタ」だと寂しいな……と思うまでになりました(笑)。
――ちなみに当初はガンダムありきではなく?
小形 そうですね。単にロボットものをやろうという話でした。でも途中から明らかにガンダムのようなものがシナリオに出てきて、「これをガンダムという名前を付けずにやってしまっていいのか?」と。まあガンダムと名がつくといろいろなしがらみがありますから。それで上と話をしている中で「ガンダムと名がつけば応援できるから、みんなで一緒にやろうよ」という方向に。
――紆余曲折の末。
小形 時間がかかった原因は、そのあたりにありますね。もちろん、僕がユニコーン(『機動戦士ガンダムUC』)をずっとやっていたせいもあるのですが。ただ宇宙エレベーターのエピソードが加わったのが2、3年前で、それにより太い幹ができて一気に世界観が広がった部分もあります。
――ここ数年、宇宙エレベーターの話を富野さんはいろいろな場所で話されていましたよね。
小形 そうなんです。だから結果的にはよかったなって。
――富野さんは宇宙エレベーターについて、どのようなスタンスなのですか?
小形 アンチですね。「絶対にできるわけがない」と。富野さんってロケット派なんですよ。宇宙飛行士に憧れていた人なので。今でもロケットにロマンを感じているんです。だから「ロケット派の僕にとって、宇宙エレベーターなんて邪道以外の何ものでもない!」と言っています(笑)。
――その宇宙エレベーターを物語に採用しているのが面白い。
小形 富野さんが作品を作る時に気をつけているのが、「自分の手くせだけで作ったらいけない」ということ。だから嫌いな宇宙エレベーターを、あえて持ってくる事によって世界を広げる事ができるのでしょうね。富野さんとしては、あれを見た子どもたちが今の技術を越える革新的な考えを持ってきて、実現させてほしいと願っている。
――『G-レコ』の世界のように何か画期的な技術が開発されれば、富野さんだって肯定派にまわるわけですものね。
小形 そういう事を含めて子ども向けと言っているのでしょう。自分の子どもがいない人は、DVDを買って、そのあたりの小学生に配ってください(笑)。
――まずは大人に見てもらわないと始まらないから、ファースト(『機動戦士ガンダム』)世代をくすぐるようなエッセンスが散りばめられているんですね。
小形 そのへんの作り方も今回は意識しています。富野さんの最近の作り方っていうよりは「ファーストのときには、どういう風に考えていたのか?」とか。
――一方で富野さんは「脱ガンダム」とおっしゃっていますね。
小形 脱ガンダムって言わないと自分の殻を破れなくなってしまうので、あえて言っているのでしょう。「脱ガンダム」と言うことによって幅を広げて、そこからまたガンダムに戻していく作業をしているんだと思います。
小形 子ども向けっていうのは富野さんが考える「自分への枷」みたいな部分なんです。今年(2014年)の11月で73歳になるんですけど、自分の好きなものだけでやってしまうと渋い作品になってしまう。富野さんは宮崎駿監督の『風立ちぬ』も大好きなんですけど、今回はテレビでロボットものをやるのだから、自分の趣味だけでやってはダメ。「若い世代、とくに子どもが観てワクワクする内容じゃないといけない」というのが発言の主旨のひとつだと思います。富野さん的には『ガンダム Gのレコンギスタ』(以下、『G-レコ』)を観て、いろいろ考えてもらいたいと思っている。僕は今年で40歳ですけど、僕ら世代はなかなか変われないじゃないですか。
――オールドタイプですよね(笑)。
小形 そう(笑)。「君らはすでに社会に出ているから変われないけど、子どもたちに種を撒いておけば、大人になった時に、よりよい世の中にできる」と。「深夜放送なので初めて観てもらう人たちは大人でいい。ただ、その人たちが面白いと思って後世に残してもらえれば」という考え方。今の大人や子どもはもちろん、さらに後の世代にも観てほしい作品なんです。 ——富野さんを動かしたのは、小形さんですか?
小形 そうですね。プロデューサーになった2007年くらいの時点で「何か一緒にやりましょう」という話をしていて。今回、7年越しに実現したのが『G-レコ』です。
――当時から『G-レコ』のアイデアが?
小形 根本は変わってないです。富野さんがその時に持ってきた企画書みたいなものがあるんですけど、それは月の人たちが地球に帰ってくるという話で……。
――あれ? 『∀ガンダム』ですね。
小形 僕も『∀ガンダム』だなって思いながら聞いていたんですけど(笑)。その後、富野さんがレコンキスタ(718年から1492年にかけて行われたキリスト教国によるイベリア半島の再征服活動)のドキュメンタリーをテレビで観て「これだ!」と思ったらしく。
――アイデアの萌芽が生まれた。
小形 それで「レコンキスタ」が仮タイトルになった。その後、何年かして今度は朝日新聞の天声人語を持ってきて、「これを読め!」と言われたんですよ。「なんだろう?」と思ったら、「牛丼、ゴールド、ガンダム……強いものには濁点がついている。だからレコンギスタにする」って言い出して。まあ宇宙世紀よりも遥か遠い未来なので、そこまでいくと言葉が変化しているかもしれないということで。
――なるほど(笑)。
小形 最初に「レコンギスタ」って聞いてもピンとこなかったんですけど、いまや「レコンキスタ」だと寂しいな……と思うまでになりました(笑)。
――ちなみに当初はガンダムありきではなく?
小形 そうですね。単にロボットものをやろうという話でした。でも途中から明らかにガンダムのようなものがシナリオに出てきて、「これをガンダムという名前を付けずにやってしまっていいのか?」と。まあガンダムと名がつくといろいろなしがらみがありますから。それで上と話をしている中で「ガンダムと名がつけば応援できるから、みんなで一緒にやろうよ」という方向に。
――紆余曲折の末。
小形 時間がかかった原因は、そのあたりにありますね。もちろん、僕がユニコーン(『機動戦士ガンダムUC』)をずっとやっていたせいもあるのですが。ただ宇宙エレベーターのエピソードが加わったのが2、3年前で、それにより太い幹ができて一気に世界観が広がった部分もあります。
――ここ数年、宇宙エレベーターの話を富野さんはいろいろな場所で話されていましたよね。
小形 そうなんです。だから結果的にはよかったなって。
――富野さんは宇宙エレベーターについて、どのようなスタンスなのですか?
小形 アンチですね。「絶対にできるわけがない」と。富野さんってロケット派なんですよ。宇宙飛行士に憧れていた人なので。今でもロケットにロマンを感じているんです。だから「ロケット派の僕にとって、宇宙エレベーターなんて邪道以外の何ものでもない!」と言っています(笑)。
――その宇宙エレベーターを物語に採用しているのが面白い。
小形 富野さんが作品を作る時に気をつけているのが、「自分の手くせだけで作ったらいけない」ということ。だから嫌いな宇宙エレベーターを、あえて持ってくる事によって世界を広げる事ができるのでしょうね。富野さんとしては、あれを見た子どもたちが今の技術を越える革新的な考えを持ってきて、実現させてほしいと願っている。
――『G-レコ』の世界のように何か画期的な技術が開発されれば、富野さんだって肯定派にまわるわけですものね。
小形 そういう事を含めて子ども向けと言っているのでしょう。自分の子どもがいない人は、DVDを買って、そのあたりの小学生に配ってください(笑)。
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