電撃文庫9月新刊の感想。電撃大賞拾い上げの作品です。
レターズ/ヴァニシング 書き忘れられた存在 (電撃文庫)

あらすじ

この世の物質はすべて、一つの体系で記された文字「世界言語」によって記されている。人間を構成する“文字”を操作し、肉体の形を直接歪める能力を持つ被検体の少女鵬珠。“文字”の可視化を封印するメタグラムが解除された瞬間、彼女は無邪気で残酷な殺人鬼へと変貌した。鵬珠は世界言語研究の第一人者である阿万野教授を殺害し、“法務官”の指令に従って収容所を脱出するが…。「沈黙の文字」を祖父に託されたという少年・虎風、神から文字で書き忘れられた女・ナノカ、そして異端の言語使用者・鵬珠。彼らの宿命は混ざり合い、やがて世界は書き換えられる―。



以下、途中までのネタバレがあります。

あんまり話題になっていない作品ですが、ハンパなく面白いライトノベルでした。
大丈夫、(売れないけど面白さには定評がある)電撃文庫のハヤカワJA枠だよ!
『θ 11番ホームの妖精』や『無限のドリフター』が好きな人なら必読!

言語SF、サスペンス、甘酸っぱい青春、全て良し!

『レターズヴァニシング』世界の根幹をなすのが「世界言語」。
形而下も形而上も全て文字によって構成されている世界というのが面白い!

この世の物質はすべて一つの体系で記された文字によって構成されていることが確認され、その文字は2152年現在では「世界言語」と呼ばれている。
眼前にある全ての物質、空気、己の肉体さえも、すべては文字=世界言語で記された情報に過ぎない。
(P9)

作中では、プログラミング言語で世界言語を例えています。

人は特殊な言語によってコンピュータの中に世界を形作ることができるが、一般の人間がそれを見ることはない。一般の人間がコンピュータの画面に見るのは、言語によって表現される現象や出来事の方である。
無味乾燥なことを言ってしまえば、この現実世界は、神が記したプログラミング言語、つまりは世界言語によって体系づけられ、規則を与えられているに過ぎない。
(P11)

今、私達が見ている世界の裏側で神様のプログラムが動いている、という設定。
人の体も建物も天体も全て「世界言語」で記述されています。

この世界言語で表される世界の描写がいい!
イマジネーションで脳みそが揺さぶられます。

森を見たときには、世界の秩序だった姿に思わず震え上がった。
文字がより大きな文字を構成し、全体へと導かれて行く。そんな視覚現象が、葉の集合体が木を成し、木の集合体が森を成す構造と、平行して起こっている。世界は奇跡を表現する一つの文字だ、と思った。
(P46)

世界言語が発見されたことで、『レターズヴァニシング』世界では世界言語の解読にリソースが費やされ、科学技術の進歩は止まっています。皮肉的。

他にSF好きに刺さりそうなポイントとしては、火星。この星のモノリスが世界言語に深く関わっています。

「火星探索チームは、いつも我々に大きなニュースを持ち帰りますよね」
「最近で言えばプロフェット号の業績が、記憶に新しいと思います。彼らはモノリスの謎をまた一つ紐解き、我々の言葉でいう重力子の概念を”解答”の中に見出しました」
(P128)

殺人鬼の少女のイカレぶりが凄い!

「世界言語」は手術を行えば誰でも認識できますが、扱うことができるのはオフスプリオリと呼ばれる先天的に世界言語を認識できる人々のみ。
しかし、どの程度扱うことができるのかは個人差があります。

表紙の赤毛の少女、鵬珠もオフスプリオリ。
世界言語を自在に操る無邪気な少女。
世界言語を使って神のように周囲を書きかえることができるため、「自然にあるかたち」に対して何の敬意も持っていません。
子供が人形遊びをするように人の体を書きかえる鵬珠の狂気が素晴らしい!
施設でよくしてもらった浩司という男性と一緒に行くためだけに、彼の首を切り落とします。

「よし、じゃあ一緒に行こ」
浩司の大きな体の横を素通りして、鵬珠は北館に足を向ける。
彼は後をついてこない。それどころか、彼の体は鵬珠の視界を離れた瞬間、根本から折れた建物のように、地面へと傾倒を始める。
(略)
そして鵬珠の手には、鵬珠が浩司として認識していたものが収まっている。すべての文字を連れて行くのは骨が折れるし、不要な言語は邪魔でしかない。
(P23)

その後も生首と行動をし続ける鵬珠。
嗜虐心も良心の痛みもなく、”そのほうが楽だから”というだけで首を切り落とせる。見えてる世界が違う。

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古今東西のラノベの中で、生首登場率は確実にナンバーワン。

鵬珠の殺人の気軽さ(邪魔だからどかした程度)と結果のエグさは対照的です。
特にP296あたりの殺し方はトラウマになるレベル。

『転醒のKAFKA使い』や『絶対ナル孤独者』もそうですが、サイコパス視点での文章を読んでると正気度が素敵に削られてグッド!
自分をまともだと思っている狂人が大好きです。

しかし、表紙の女の子がヒロインでも何でもないサイコパスというのは斬新でした。
ほんと、最初から最期まで頭イカれてるからな……。

手に汗握るサスペンス!

物語は鵬珠が施設職員や主人公 阿万野虎風の祖父を殺害し、脱走するところから始まります。
「法務官」と名乗る人物に導かれ、”ゲーム”を始める鵬珠。

一方、虎風は殺された祖父から”沈黙の文字に至るための鍵”を本人も知らない間に渡されていたことで、事件に巻き込まれてしまいます。
大事な存在だった祖父が亡くなり、悲しみに暮れる虎風。
無力で真面目な少年が、殺人鬼に追われる恐怖!

虎風と同行することになったナノカと呼ばれる謎の少女。鵬珠を手駒にしている「法務官」の正体。
そして、沈黙の文字とは、世界言語とは何なのか。
サスペンスとミステリー要素も面白い!

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甘酸っぱい青春も!

虎風のガールフレンドの女子高生プログラマー御渡姫晴もまた運悪く鵬珠に狙われてしまいます。

逸樹と別れ、車がゆっくりと動き出してから、鵬珠はぽつりと呟いた。
「どんな人かなあ、御渡姫晴さんって。わたしと同じくらいの体格の人だったらいいな」
(P119)

姫晴が狙われる理由が本当にろくでもない。
生首にした浩司に”女の子の体”をプレゼントしたいので、ひとり殺そうと思った。
阿万野教授の携帯の連絡先に、たまたま姫晴の名前があった(ゲーム仲間)。

そして、鵬珠に狙われる虎風と姫晴が、死が迫る最中で繰り広げる甘酸っぱい青春!たまらん!
終盤は恋愛とSFが上手く組み合わさって見応えがありました。

エンターテイメントが詰まった一冊でした。おすすめ!
ただ、結構グロいので人を選びそうではあります。

新人賞拾い上げ作品ですが、文章は特に読みにくくはありません。

帯の裏には川上先生の推薦文があります。

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あんまり読んでる人いなさそうですが、めちゃくちゃ面白いので読めたら勝ちなのは間違いない!
レターズ/ヴァニシング 書き忘れられた存在 (電撃文庫)
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