泉南アスベスト:健康被害、国の責任認める 最高裁初判断
毎日新聞 2014年10月09日 15時15分(最終更新 10月09日 21時23分)
大阪府南部の泉南地域のアスベスト(石綿)紡織工場の元従業員とその遺族89人が、規制の遅れで肺がんになったなどとして国に賠償を求めた2件の集団訴訟で、最高裁第1小法廷(白木勇裁判長)は9日、規制権限を行使しなかった国の対応を違法とする判決を言い渡した。小法廷は「健康被害の医学的知見が確立した1958年時点で規制すべきだった」と述べた。アスベストの健康被害を巡って最高裁が国の責任を認めたのは初めて。各地の同種訴訟に影響を与えそうだ。
元従業員は1、2陣に分かれて集団提訴。1審はいずれも勝訴したが、2審・大阪高裁で国の責任の有無について判断が分かれ、双方が上告していた。
小法廷はまず「労働環境を整備し、生命、身体に対する危害を防止するため、国は技術の進歩や医学知識に合うよう適時・適切に規制権限を行使すべきだ」との枠組みを示した。
その上で、(1)粉じん排気装置の設置義務化(71年)(2)粉じんの濃度規制強化(88年)(3)防じんマスク着用義務化(95年)−−の3点について時期が適切だったか検討した。
排気装置設置については「58年には実用的な技術も普及しており、義務化が可能だった」と指摘、設置義務化が13年遅れた点を認めた。
一方で濃度規制については「88年以前から専門的知識に基づき一定の規制がされていた」、マスク着用は「石綿工場の粉じん対策としては補助的手段に過ぎない」として、いずれも元従業員側の主張を退けた。
裁判官5人全員一致の意見。これにより、2審の2陣54人の勝訴(賠償額は計約3億3200万円)が確定した。2審敗訴の1陣28人については、賠償額を確定させるために審理を差し戻した。審理を経て勝訴が確定する。71年以降に作業に従事した7人については、国の責任はないとして敗訴が確定。7人のうち濃度規制強化とマスク着用義務化の遅れを理由に賠償が認められていた2陣の1人は逆転敗訴となった。
1審判決は1陣で約4億3500万円、2陣で約1億8000万円の賠償を命じた。2審判決は1陣が国の責任を否定して原告の逆転敗訴とした一方、2陣は国の責任の範囲を拡大し、賠償額を約3億4500万円に増額していた。【川名壮志】