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【正論】
言論弾圧に体張った韓国どこに 東京基督教大学教授・西岡力
70年代に始まった南北対話の一環としてS氏が韓国代表団の一員に選ばれ、北朝鮮代表と対話した。そのとき北朝鮮側は、S氏が言論機関の幹部だと知った上で「なぜ韓国の言論機関は朴正煕(パク・チョンヒ)政権の独裁と人権弾圧を批判しないのか。韓国には言論の自由がない」と非難した。それに対してS氏は「韓国と北朝鮮のどちらに言論の自由がないのか確かめよう。私はここで朴正煕のバカ野郎というから、あなたも金日成のバカ野郎といいなさい」と迫った。それを聞いた北朝鮮代表はばつの悪そうな顔をして黙った。
そのS氏は、韓国の情報機関が野党政治家・金大中氏を日本から拉致した事件直後に、韓国政府の説明は納得できないという趣旨の社説を一人で書いた。それを最終版にだけ載せ、新しい下着を準備して逮捕されるのを待っていたという武勇伝の持ち主だ。朴正煕政権はS氏を起訴しなかった。
≪韓国現代史の記録に残せ≫
そのような先輩記者らの体を張った闘いによって韓国の言論の自由は守られてきたのだ。金一族を少しでも批判したら家族連座制で弾圧される北朝鮮とは、完全に体制が異なるはずだ。